今後も増えてくる?士業の共同事務所経営

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まず、士業等の事務所は、本来個人事業主として士業事務所を経営されている方が多い傾向にあり、法人化と言って、元々個人事業主の士業事務所として経営されていた方が、事業を拡大する為、他の場所にも士業事務所を開設する為に、もう一人その新しい事務所に同じ士業資格を持った者を常駐させて事務所を2つ経営する方法もあります。

そして、近年、「◯ ◯(名字)◯ ◯(名字)法律事務所」のように、名字が2つ以上ついている士業事務所を見かけられる方も多くなってきたのではないでしょうか?これらは、士業の資格を持った人が複数名で共同にて事務所の経営をしている形の士業事務所となっています。ちなみに、同じ士業であっても、違う資格を持っている者同士が法人化する事はできませんから、あくまでも同じ士業資格を有している人たちが共同で士業事務所を法人化する形として立ち上げられる方もいます。

一方、法人化ではなく、一緒に立ち上げる形ではあるけども、個人事業主のように事務所等を共有する形だけをとって、売上は別々としている共同事務所もありますし、同じ士業の売上を一括で管理し、折半する形もあります。また、別の士業資格保有者同士が、共同経営する事務所も増えてきている傾向にあります。これらの共同と言った形には、どのような背景が見受けられるのでしょうか。
それでは、それぞれで見ていきましょう。

1.それぞれの共同経営の形

1-1.報酬は別会計(共同事務所型)

共同経営をすると言う事は、事務所を1つだけ構えて、2名以上の同じ士業資格を持った方々、若しくは別の士業資格を持った方々、これらの士業資格を有している方々が共同する形で経営する方法の1つです。この場合、その方々の様々な考え方によって形態は違ってくるわけですが、まずは、得た報酬は別で得ると言う方法があります。つまり、借りている事務所の家賃や、事務員を雇っているのであれば、その事務員の給料、そしてOA機器等のリース代等は、各自報酬から折半したり、人数分に分けて毎月支払い、自身が個別で依頼を受け、報酬を受けたお金については、それぞれ別で得る形です。

また、事務所を開業する際に必要となる数ヶ月の家賃分や、敷金礼金。更に、共有する応接スペースに必要となる家具や家電等についてかかる費用についても各自同じ割合で支払い合って立ち上げる形を取ります。ただ、難しくなるのが、消耗品関係ではないでしょうか?これらを折半するとなると、仕事の量によっても、どちらがどのくらい使ったのかが見えにくい為、こんな些細な事でも揉め事となる可能性は十分ありますし、共同経営をしていたとしても、自分が得た報酬は全て自分の物となるわけですから、片方が十分に依頼を受け、報酬を得ている場合、劣等感が生まれる可能性があります。

ただし、賃料等の事務所にかかる経費を半分にしたり、人数分に分ける事が出来る為、毎月かかる費用としては、共同経営をする事によって抑えられるメリットはあると言えるでしょう。

1-2.利益を全て折半にする(共同経営型)

これは、立ち上げる時も同様、事務所の開設をした後の経営に対し、依頼を受けて報酬を得た金額を全て一度合算し、そこから人数分で振り分けを行い、かかる経費等についても全て分割すると言う方法です。つまり、月の売上に対し、合算する形で一度計算し、それぞれに給料と言う形で振り分ける形態と言えます。

一見、これが1番平等な印象を受けますが、仕事をいっぱいこなしている人にとっては不服が出やすいと思われます。
想像してみて下さい。

例えば、2人で共同事務所を立ち上げていたとして、自分は依頼を受けて忙しく働いて報酬を得ていたとしても、もう1人の依頼される数が少なかったりすると、当然の事ながらその人が稼ぐ報酬も少なくなります。自分だけ労働力が多く、相手はそこまで苦労していないのに、自分の報酬分までも含めて折半されてしまいますから、自分の働いた分を一部取られていると感じる方もいらっしゃると思います。そこで不公平感が出てしまい、共同経営を解消すると言う事になる可能性もあります。

ただし、この場合にもメリットがあり、1-1.と同様に、毎月かかる経費も半分で済みますから、開業をした時はどうしても軌道に乗せるまで苦労が付き物ですから、互いにそれらを了解した上で経営をすると言うのであれば、プラスではないかと考えられます。以上のような形で共同経営をしている事務所が多くなります。

2.共同経営が増えてきている理由について

誰かと共同にて事務所を開く方々が増えてきている背景とは、どのようなものなのでしょうか?まず、最初に上げられる理由としては、士業業界が衰退している傾向にあると言う事が考えら得ます。士業の資格が誕生した当時では、士業資格を有している方が少なかったのは当然の事ですが、時代が流れるにあたって、士業の資格を持っている人は、必然的に増えています。また、士業と言う業種には、一般企業のように、60歳や65歳で定年退職をすると言う概念があまりありませんから、ある程度年齢を重ねても事務所として経営をしていく事が可能です。

また、このように、現代ではなく、昔に士業事務所として開業された方々は、当時は競争する相手となる士業も少なかったでしょうから、取引先等も多く持っているのではないでしょうか。つまり、独占業務とまでは言えませんが、先に獲得した者勝ちと言うニュアンスで表現する事も可能です。そんな士業業界で、今から士業資格を持った人が1人で開業しようとしても、まずは軍資金が足りないと言う問題が発生しますし、取引先や依頼者を増やす事から苦労しなければなりません。

また、各士業業界にもよりますが、近年、士業資格を有したとしても、いざ士業事務所に就職しようとすると、求人が少ないと言う事も上げられます。この場合、求人が少ないわけですから、就職できずに、仕方なく開業を考える方が必然的に増えるのです。

しかし、資格を取ったばかりの方は、実務経験もありませんし、まだまだ士業としては半人前なわけですから、一緒に通っていたロースクールのメンバーと共同で事務所を立ち上げたりする事で、力を合わせる形で経営をしようとする方も多くなっている傾向にあります。また、士業事務所である程度経験を積んだ方でも、力を合わせると言う点では同じ事が言えるのではないでしょうか。

次に、金銭的な面で、共同事務所を考えると言う事が上げられます。1つの事務所を1人で立ち上げようとしても、その事務所の場所にかかるお金から、揃えなければならない機器、家具、家電等、様々な者が初期費用として必要です。更に、痛いのが登録費用や会費等の支払いです。士業と言うのは、資格を取っただけでは、ただの有資格者となってしまい、士業として開業するには、それぞれで協会等に登録をする必要がある士業が沢山あります。この登録する費用は、都道府県や地域によっても様々ですが、これらを合わせただけでも、数百万の初期費用がかかる可能性が考えられます。

その事から、せめて事務所にする店舗の費用や、その他の費用だけでも抑える事ができると言う事が背景として上げられるのではないでしょうか。更に、共同で経営するわけですから、そのスタイルにもよりますが、経営をしていく上でかかる費用についても折半にする等し、経営する上での経費も多少抑える事が可能となります。毎月かかる事務所の賃料に関しては、毎月毎月発生する費用なわけですし、金額としても大きい為、1人で経営するよりも、その場所を2人や、複数名で借りる事によってそれぞれの負担を減らす効果があります。

更に、業務の分野と言う事が上げられます。また、士業の資格を持ってできる業務と言うのは、その士業にもよりますが、10000種類を超えるものもあります。これらの業務を全てこなすわけではなく、それぞれの得意な分野を絞って業務を行う事が多い為、自分のやる仕事以外の業務を相手が得意としている場合、事務所としては仕事の出来る幅は間違いなく広くなります。つまり、1人では出来る範囲がここまでと決まっている事を、他の士業と共同で経営する事により、事務所として出来る幅を大幅に広げると言う事になります。このような背景から、共同経営をする士業事務所が増えていっていると言う傾向にあると言えるのです。

3.共同経営のメリット・デメリット

共同経営をする上でも、様々なメリット・デメリットが上げられます。それぞれで、もっと具体的に細かく見ていきましょう。

3-1.メリット

まずは、共同経営をする上でのメリットから見ていきましょう。

①賃料と経費を安くする事が出来る!

まず、上記でも少し触れていますが、最大のメリットは毎月絶対にかかる事務所の賃料を人数分で分割できると言う点にあります。家賃と言うのは、経営が上手くいっていなかったとしても、必ず家主に支払わなければならないウェイトの高い経費です。今月は売上が無かったから家賃を支払えませんと言う事は許されません。家賃が支払えないのであれば、出ていってくれと言われてしまうだけです。

その点、1人で士業事務所を開業し経営するより、2人なら折半に。複数名いるのであれば、その人数分で分割する事ができますので、共同経営をする上で最大のメリットと言えるのではないでしょうか。

②事務所として活動できる業務の幅が広がる

こちらも上記で少し触れていますが、士業と言うのは得意分野を絞るのが、経営をする上でマーケティング的にも欠かせません。

しかし、1人では出来る事も限られますから、得意分野を絞っていたとしても、その業務以外には中々手が出せませんから、自分が出来る範囲以外を得意分野として持っている士業が共同で経営をすると言うのは、大変強みになりますし、集客をする上でも二倍の効果が期待出来ると言えます。また、1つの事務所として、2人以上の得意分野が合算されるわけですから、その事務所が出来る業務の幅も自動的に増える事になりますので、その点でもメリットに繋がる事でしょう。

③合同の事務所として個人事務所よりも大きく見せられる

例え、共同事務所で、それぞれの報酬は別で計算していたとしても、お客様にとってそれは関係のない事です。合同して行う事務所として、その事務所は大きいと言う印象を与える効果が期待できます。士業の方が1人と言うより、他にもいるんだなと印象を与える事ができますから、その点ではメリットだと言う事が可能です。

④困った時は協力し合える

業務を行う上で、依頼や相談等があった場合、互いに、意見を交換する事ができると言う事が上げられます。他の士業事務所はライバルなわけですから、相談相手になって貰う事は基本的に不可能ですが、一緒に経営をしている仲間なわけですから、互いに、意見交換を行う事が出来ると言うのは利点となります。

また、これは報酬を別の会計にしていない場合においてですが、業務が1人だけで全て行えない場合についても、手伝い合う事が可能ですから、遂行するスピードとしてはアップする効果が期待できます。1人でやるよりも、2人でやる方が断然スピードは上がりますから、依頼者の期待にいち早く答える事が可能となります。

⑤その他のメリットについて

その他のメリットとして上げられる事は、仕事の状況や情報に対し、すぐに確認を行う事ができる他、お互いに上手くいかないと判断した場合にも、共同経営事務所をすぐにやめる事も可能です。

以上の事が、共同経営をする上でメリットとして上げられる事となります。

3-2.デメリット

次に共同経営する士業事務所としてのデメリットを上げてみましょう。

①自由に応接室等を利用できない

共同経営事務所において、応接室が1つしかない場合や、少ない場合において起きやすくなるのが、自由に応接室や、共有するスペース等を使用する事ができないと言う点です。依頼者が事務所を訪問する場合に、応接室が使われますが、他の士業が使用していると、その時間は使う事ができなくなります。

例えば、電話連絡にて相談や依頼を受け、依頼をされる側の士業の時間も空いていたとします。しかし、共同経営する他の士業が、その時間に応接室を使う約束を先に取り付けているとなると、依頼者も士業側も時間は空いているのに、他の士業が使用する為、使えないと言う問題が発生します。

ただし、実際には相談を受ける場所は必ず応接室でないといけないと言うルールはありませんから、この点については事前に「このような場合には、どうするか」を具体的に相談しておき、応接室が利用できない場合は、外で依頼者と会う等と言う解決策を設けておけば問題がないと言う事もできます。

②仕事が多い方が事務員にかかる経費として得をする

これも、報酬を別で会計している場合に起こる事ですが、共同事務所において、事務員を一名だけ雇っている場合、その事務員の給料は経費として落とす事になるわけですが、その給料と言う経費を折半している場合、仕事が多い方が必然的に得をし、仕事が少ない方は、そこまで事務員を使っていないのに、同じ金額を出さなければならないと言う不公平が生じてしまいます。

人は、些細な事で不満が出てしまう生き物ですから、そのような小さな事から仲違いを起こして共同経営できなくなりました・・となるとせっかく共同経営を始めたのに解散と言う事になりますから、残念な結果となると言う表現をする事も可能です。

③些細な係りで揉め事になる場合がある

事務所を経営する上で、どうしても行う必要があるのが、ゴミ出しや清掃です。これは、どちらかに比重をかけにくいですから、共同で行う方が良いです。

しかし、このような些細な事でも、揉め事になる場合があるのです。ですから、この小さな事についても、事前にお互い確認をしておくべきでしょう。

④経営をする上で全ての事を1人で決められない

個人事業主であれば、責任は全て経営する本人だけにありますから、事業を拡大させたり、行う事全て独断で決める事が可能です。

しかし、経営をして行く上で、共同で行っている場合については、お互いに合意しなければならない場面が出てきます。この時、意見が真っ向から分かれてしまうと、収集がつかなくなります。これもデメリットの1つだと言う事ができます。

⑤その他のデメリット

その他にもデメリットとして、プライバシーが少なくなってしまったり、貴重品の管理を厳格にしなければならなかったりと、様々なデメリットが上げられますが、事前に確認する事によって回避できる事もありますから、開業する前の段階でしっかりと話し合っておくべきだと言えるでしょう。

以上のように、共同経営をする上では、メリット・デメリットもあります。

4.まとめ

いかがでしたでしょうか。士業の共同経営が増えているには、以上のような背景や、メリット・デメリットが存在しています。


しかし、共同経営を行う上で1番大切にしなければならないのは、士業同士の相性と言えます。相性が悪ければ、上手く行く事も、相性の問題だけで上手くいかないと言う事が出てきます。まずは、その辺りも十分に検討した上で、しっかりとルールを定めた状態で立ち上げる事が大切だと言えるのです。

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