未来の起業家を生み出す!30人の高校生が学ぶ起業塾での風景〜郁文館高校が挑む現役経営者による講義〜

更新日:2018.08.09

現役起業家による高校生にむけた起業講演

7月某日、起業を志すおよそ30人の高校生が放課後の教室に集まった。学校法人郁文館夢学園が運営する郁文館高等学校(東京都文京区)での授業風景だ。登壇しているのは、株式会社エクスト(大阪市西区)の高畑欽哉社長。同社は社内コミュニケーションツールやWEBの制作と販売をおこなうIT企業だ。90分間の講義で、高畑社長は生徒たちに創業時のエピソードや、自身の人生を通じて学んだことを語った。

郁文館高校は明治22年設立の由緒ある学校。平成15年からワタミ株式会社創業者で、実業家の渡邉美樹氏が郁文館夢学園理事長を務めている。同校では2018年度から「起業塾」と呼ばれる授業を企画し、有志の高校生たちが参加している。

高校生起業家の排出を目的とした日本初のカリキュラム

起業塾では、高校1年生から3年生まで一貫で起業家になるために必要な知識や経験を得るためのプログラムが組まれている。内容は、座学や経営者による講義、学内外への出店による起業体験など。


※高校3年間で学ぶカリキュラムの概要

同校では起業を実現するために有益な環境として、 

1.周囲に起業家がいること
2.起業に成功すれば社会的地位が得られること
3.起業することが望ましいと思うこと
4.起業するために必要な知識、能力、経験があること
5.周囲に起業に有利な機会があると思うこと

という5つの条件を挙げ、これらをすべて網羅する環境をこのカリキュラムで提供するという。

現役起業家による講義の内容

プログラムのなかでも、現役起業家と接点を持てる貴重な機会となるのが今回の講義だ。講義では高畑社長を含めた14人の現役経営者が、週ごとに講義形式で授業をおこなう。今回はその記念すべき第1回目の授業だった。この日の高畑社長の講義の表題は「踏まれても咲くタンポポの笑顔かな」。

壁を乗り越えるマインドの部分が極めて重要であることを伝える内容だった。「僕らが体験したことは、僕らの体験であって、それが正解というわけではない。一つの情報として、受け取ってもらいたい。自分の中で、自身の経験と照らし合わせて欲しい」と高畑社長は切り出した。

「ITの力で働く人を幸せにする」というエクスト社のビジョンの成り立ちや、事業内容について高畑社長自らがプレゼン。高校時代の野球部で学んだ「努力の大切さ」と「努力では越えられない壁がある」という経験、また、父親の経営する会社が倒産し、借金を背負った状態で家電販売店を継いだ苦労話もあった。「起業当初は銀行がどこもお金を貸してくれない」、「メーカーも商品を卸してくれない」、「残った借金をどうしたか」などのリアルな経験が、その中で語られた。


教壇に立つ株式会社エクストの高畑欽哉社長

ピーター・ドラッカーによって提唱された、企業の唯一の目的は「顧客の創造」であるというあまりに有名な主張など、明日からの起業にすぐ必要となってくる実践的な内容についても高畑社長は解説。「顧客の創造」に必要となるふたつが、マーケティングとイノベーションだ。

マーケティングにおける弱者の戦略

スタートアップである自分たちが大手企業と戦って勝利をおさめるにはどうしたらいいのか。明かされたエクスト社の販売戦略のなかで、筆者にとって特に印象深かったのが、5つの弱者戦略だ。

  • 局地戦(コミュニティリーダー)
  • 接近戦
  • 一騎打ち
  • 集中
  • 陽動

全国的な知名度は低いエクスト社。しかし、4,500社の経営者が集まる特定のコミュニティのなかでは知らぬ人はいないほど。このブランドができあがっているなかで年間十数回セミナーも実施。このフィールドのなかで戦っている限り、どんな大手にも負けない。

まず1つのマーケットに限定し、そのなかですごく喜ばれるものを作ると、世間にも通用するものができあがってくるといった経験則が語られた。「覚えておいてほしい。経営に魔法はない。これさえすれば、売れるということは一生ない。努力して商品をつくりあげることが必要」と高畑社長は力説する。

2つのイノベーション

「イノベーションとは、まだ誰も解決していない顧客の困りごとを解決し、新しい価値を提供することである。昨日まで応えられなかったことに、今日応えることがイノベーション。もしみなさんが、誰かの課題を解決できれば立派なイノベーションになる」(高畑社長)イノベーションには、既存のサービスを改善していく持続的イノベーションと、まったく新しいサービスをつくる破壊的イノベーションがある。

また、破壊的イノベーションの業界には3つのトレンドがあり、これから起業する場合は以下の3つの波に乗ったビジネスを検討することを高畑社長は高校生らにおすすめしていた。

  • シェアリングエコノミー
  • 自動運転
  • AI活用

今まさにシェアリングエコノミーが台頭し、自動運転やAIの技術は実用レベルに近づいているさなか。「これから成長する分野に目を向けて、そこで自分ができることを探して見て欲しい。自分が変化の先頭に立って『今まで誰もやっていないことをやってみよう』という気持ちでぜひとも仕事に接していただきたい。そのためには大事なことは『自分はできるという発想を持つ』こと。自分ができると思う人が、何かを成し遂げていく。自分が掲げた理念やビジョンにワクワクしなかったら、多分何をやってもうまくいかない。自分たちが仕事を通じて何を成し遂げたいかを考えてみてほしい」と高畑社長は熱弁した。

講義の終わりに

講義の最後は「実力を磨く」ということの重要性で締めくくられた。高畑社長が考える「実力を磨くために必要なこと」は5つ。

  • ビジョンを指し示す力
  • 自己開示して人を惹きつける力
  • 勉強すること。知の探索と知の深化。1つの業種を研究してエキスパートになると同時に新しい技術を探して既存のものと組み合わせる。
  • 自分より能力の高い人と協力すること
  • 成功するまで続ける力

「起業や人生にも、いいことも悪いこともある。どのような生き方をしたいか。お小遣いを何に使ったか、空いた時間を何に使ったか。それが積み重なってその人の人生が決まる」と生徒たちに訴えかけた。

講義終了後、生徒たちからは次々と質問が飛んだ。「ビジョンは自分のために立てるべきですか、相手のために立てるべきですか」といった根本的な質問や、「現在ゲームソフトを開発しています。販売に際して気をつけるべき点はありますか?」といった具体的な質問もあった。

講義を受ける生徒たち

高畑社長は一つ一つの質問に丁寧に応じ、「答えは誰もわからない。既存のルールに縛られず、自分で考える癖をつけてほしい」と締めくくった。授業を終えた生徒たちは「響くものがあった。起業に対する思いが強まった」「早速、紹介された本を読むなどの行動に移したい」といった感想を口にしていた。

その他のカリキュラム

経営者による講義は全14回。その他、経営やビジネスに関する座学などもおこなわれる。座学では、エリアごとの市場規模の調査方法やマーケティング用語などを学ぶ。毎年9月末におこなわれる文化祭では、起業体験の機会もある。株式会社の運営を学ぶ教育の一環として、生徒たちは模擬の株式会社を設立し、ビジネスモデル検討、資金調達、販売活動、配当金計算、株主総会解散までを行う。

また、学外出店による実体験を通じ、よりリアルな社会を体験できる「アントレプレナーシッププログラム」も用意されている。同校では授業カリキュラムをこれからも練りあげ、拡充していく予定とのこと。今回の講義だけを見ても、普通の高校の授業ではありえない、実践的な内容だった。

この起業塾から、次世代の起業家が輩出される日も近いかもしれない。

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プロフィール

林聖人

林聖人
林聖人のTwitterアカウント

フリーランスライター。
大学卒業後、商社で輸入品の流通事業に8年間携わる。
月100時間を超える残業や、生産性の低い働き方を続けることに疑問を抱き、2018年に「働き方」専門のライター・ジャーナリストとして独立。
また独立前に8つの副業を経験し、自身でも「副業」を専門テーマに実態調査や、情報発信をおこなう。
2017年から、日本最大の起業・開業・独立者向けポータルサイト「助っ人」(www.suke10.com)の編集チームで「働き方・副業」に関する記事を担当している。


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