うまくいく事業承継の共通点は?事例集の探し方

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これから事業承継しようとする方も、事業承継で事業を継ごうとする方も、大方の方にとっては、おそらく事業承継は一生に一度の出来事です。

他の会社ではどうしているかを知りたい、できれば参考にしたい、というニーズも多いと思います。

今回は、事業承継がうまくいった事例の概要と、実際の事例集の探し方についてまとめました。

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第1章 事業承継がうまくいった事例の概要

これまで、数々の事業承継の場面に立ち会わせていただいたり、事業承継のご相談をお受けしてきました。

親族内承継、親族外承継、そしてM&Aなど複数の事業承継のかたちを見てきましたが、その中でも成功した事例に共通することをまとめました。

(1)早くからの準備に越したことはない

特例事業承継税制が創設されてから特に、事業承継というと、自社株式の引継ぎや相続税対策のことをイメージする方が多いかもしれません。しかし、事業承継で一番大切なのは、後継者を経営者として教育する人的承継です。

例えば、息子など親族に承継をする場合、代表などの権限を承継する予定の少なくとも5年前までには入社させておきたいところです。

会社の業務を一通り経験させ、従業員との関係性を育んでおく必要があります。また、代表になるまでに、先代経営者がどのように経営をしてきたかをしっかり見せておくことが必要です。社外の関係者にも、この間に周知をさせておきます。

そして、後継者が代表に就任し、バトンタッチしたのちは、先代経営者はすぐに引退するのではなく、数年間は後継者のよき相談相手として伴走することが大切です。

このように、人的承継を完了させるには、だいたい10年ぐらいの時間が必要です。承継のタイミングの後継者の年齢ボリュームゾーンは40代ですから、後継者候補が30代半ばくらいに差し掛かったときに事業承継を本格的に考えるとよいと思います。

(2)継ぎたくなる魅力的な会社へ磨き上げをする

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親族内承継や親族外承継、M&Aの方法のいずれにも関わることですが、承継する人が継ぎたくなる会社にしておくことが必要です。

魅力的な会社というのは、とてもわかりやすくいうと、黒字が出しやすいという意味です。誰も赤字の会社を継ぎたいとは思いません。

継ぎたいと思える会社にしておくと、承継はうまくいきますし、M&Aで売却するときも、比較的高い値段で売却することが可能でしょう。

私が関わった事例では、従業員30人を抱える製造業で、社長が60代後半になり、後継者がいないことから、外部へ売却することを決めました。社長は、売却するにしても、内部の従業員に承継するにしても、毎期しっかり黒字を確保でないと安心して継いでもらえないだろうと思い、誰が経営しても儲かるビジネスモデルづくりに奔走されました。

その後、銀行系のM&A仲介会社の協力で、売却先も見つかり、収益性を高く評価してもらうことができました。最終的に先代の社長は数億円の退職金と株式譲渡金を受け取り、しばらく相談役で後継会社のアドバイザーを務めたのち、引退されました。老後資金も十分に確保でき、まさにハッピーリタイアが実現できたということです。

(3)M&Aには時間がかかることを認識しておく

M&Aが盛んになり、案件数が増加してきたとはいえ、やはり相手先を見つけて、諸条件を交渉して決め、承継するには、1年以上の時間を要します。

相手が見つかるまでに少なくとも半年、そこから財務状況の開示や調査、条件の詰めなどで、こちらも少なくとも半年はかかります。

後継者がいないなどの事情で、売却先を探すのであれば、早めに事業引継ぎ支援センターやM&Aを仲介してくれる金融機関などに相談しておくことが先決です。

(4)専門家や支援機関を上手に使う

親族内承継の場合で、父から息子への承継を予定している場合、身近すぎるゆえに2人で話をすると言い合いになってしまう、ということがありました。

また、親族外承継で、従業員に会社を継いでほしいと思っているけれど、どのように継いでもらったらいいのかわからず、従業員に不安を与えてしまうのではないかという心配をされている経営者もいらっしゃいました。

第三者へ引き継ぐM&Aのケースでも、買い手の提示する売却金額をそのまま受け入れていいのかどうか、また、従業員の引継ぎなどこちらの条件をどこまで伝えていいのか、悩まれることが少なくありません。

このようなときは、事業承継が得意な税理士や弁護士、コンサルタントなどの専門家に相談し、必要に応じてその場をファシリテートしてもらったり、わかりやすく通訳をしてもらう役になってもらうとスムーズです。客観的な目で見たアドバイスも積極的に受けると良いと思います。

事業承継には相続の問題も絡むことがあります。あれこれ悩むよりも、専門家の知見を活かしたコンサルティングを利用することが、解決までの時間短縮に繋がります。

第2章 事業承継の事例集の探し方

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参考にするために、他社の事業承継の事例を参考にしたいと思われる方も多いでしょう。一方で、事業承継の内容には、個人情報が含まれますから、細かいところまでは開示されていないことがほとんどです。

それでも、事業承継の参考にと事例集をホームページ上で紹介したり、冊子を配布しているところもありますので、一例をご紹介致しますね。

(1)日本政策金融公庫の刊行物

日本政策金融公庫 事業承継刊行物には、下記のような事例集が紹介されています。

たくすチカラ

2つめに紹介されている冊子です。

事業承継に際して、経営者や後継者がどのような想いを持ち、どのような課題に取り組んだのかを紹介する事例集です。

親族内承継の事例が1例、親族外承継で従業員や役員に承継した事例が2例、親族外承継で第三者に承継した事例が2例、紹介されています。

どのような方式で前社長からの承継を進めていったのか、専門家とはどのように連携していき、スムーズな承継につなげたか、資金の工面はどうしたのか、また、第三者に引き継いだ事例では、どのように引き継ぐ人材を探したのかなどがまとめられています。

これまでの経緯とやってきたことを図解で示し、当事者のインタビュー方式でまとめられていますので、非常にわかりやすく、自分ごとに置き換えやすい構成でできています。

実際にお客様にご紹介したときも、わかりやすい、参考にしたいという感想をいただいておりますので、よろしければ、ご覧ください。

事業承継事例集(みらいへのバトン別冊)

5つめに紹介されている冊子です。

たくすチカラよりも前に発行された事例集になります。たくすチカラよりも多くの事例を掲載しています。

こちらの事例集を入手するには、日本政策金融公庫に連絡の上、取り寄せいただくことになります。

・この他にも、日本政策金融公庫は情報の宝庫

日本政策金融公庫は、これらの他にも、事業承継ほか中小企業にまつわるさまざまなテーマの研究データや研究論文を発表しています。

事業承継に関心があることを伝えると、日本政策金融公庫論集を頂いたことがありました。

こんな事業承継の事例集はないかと相談してみることも一つの方法だと思います。

(2)事業引継ぎ支援センター

事業引継ぎ支援センターとは、後継者のいない中小企業・小規模事業者の「事業引継ぎ」を支援する国の事業を実施する機関です。

特に、各地域における親族外承継で、第三者に対するものについてのサポートを重点的に行なっている拠点となります。各都道府県に、事業引継ぎ支援センターが置かれ、組織されています。

どんなことをしている機関なのでしょうか。

事業引継ぎ支援センターに登録された仲介者と連携してM&Aの支援を行っています。

具体的には、下記の通りです。

・事業引継ぎにまつわる、あらゆる相談の窓口

「M&Aとして株式の買収を持ちかけられているけれど、どう対応したら良いのだろうか?」
「もし会社を売却するときは、どうしたらよいのだろうか?売却できるのだろうか?」

といったあらゆる業種の事業引継ぎにまつわる相談を無料で受けてくれます。

民間機関を活用してM&Aを実行する際のセカンドオピニオンとしても活用できるメリットもあります。

相談には、中小企業診断士の方を中心に、ベテランの専門家が対応しているようです。(実際、私が関わった第三者への譲渡案件の際も、数多くの実績をもつ中小企業診断士の方が対応して下さいました)

・譲渡までの一連の手続きや契約書の作成等のサポート

経験豊富な専門家(弁護士、司法書士、公認会計士、税理士、中小企業診断士等)と連携してトラブルのない成約をバックアップしてくれます。必要に応じて、有料になります。

・譲渡先を見つけるマッチングをサポート

譲渡先を見つけるためのサポートもしてくれます。事業引継ぎ支援センターは、47都道府県にありますから、お互いに情報を共有してのマッチングも行われているようです。

このように、事業引継ぎ支援センターでは、日々多くの情報が集まります。成約事例を多く持っているのも、この事業引継ぎ支援センターです。

ホームページでも一部成約事例を紹介している事業引継ぎ支援センターがあります。成約事例や相談の事例紹介を掲載している事業引継ぎ支援センターのサイトをピックアップ致しました。

北海道事業引継ぎ支援センター 事例紹介
青森県事業引継ぎ支援センター 事例紹介
宮城県事業引継ぎ支援センター 事例紹介
栃木県事業引継ぎ支援センター 事例紹介
東京都事業引継ぎ支援センター 事例紹介
福井県事業引継ぎ支援センター 事例紹介
山梨県事業引継ぎ支援センター 事例紹介
長野県事業引継ぎ支援センター 事例紹介
静岡県事業引継ぎ支援センター 事例紹介
兵庫県事業引継ぎ支援センター 事例紹介
愛媛県事業引継ぎ支援センター 事例紹介
福岡県事業引継ぎ支援センター 事例紹介
長崎県事業引継ぎ支援センター 事例紹介
熊本県事業引継ぎ支援センター 事例紹介
大分県事業引継ぎ支援センター 事例紹介
宮崎県事業引継ぎ支援センター 事例紹介

事業承継に関するあらゆる相談を受け付けています。事業を引き継いでもらう先を探している、または、第三者から事業を引継ぎたいという場合は、事業引継ぎ支援センターを活用して相手を探すことも可能です。

(3)日本M&Aセンター M&A成功事例集

日本M&Aセンターは、日本最大手のM&A仲介会社であり、専門家や金融機関と連携し、数多くのM&Aの制約事例を持っています。

日本M&Aセンター 成約事例・成約実績

こちらの事例集も参考になると思います。

まとめ

事業承継の事例は、自社での事業承継を考えるにあたり、とても参考になると思います。情報と支援機関を上手に活用し、早めの準備が何より大切です。悔いのない事業承継をしていきましょう。

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著者プロフィール

神佐 真由美

神佐 真由美

京都大学経済学部在学中から「プロフェッショナルになるために手に職を」と税理士を志す。卒業後は、税理士を顧客とする株式会社TKCに入社し、税理士事務所を顧客にシステムコンサルティング営業に4年間従事。本当に中小企業経営者にとって、役に立てるプロフェッショナルはどうあるべきかを問い続け、研究する。税理士試験5科目合格後、税理士業界へ転身。
自ら道を切り拓く経営者に尊敬の念を抱き、経営者にとって「一番身近なパートナー」になるべく、起業支援や資金調達支援、経営改善や組織再編、最近では事業承継支援など多くの経験を積む。経営計画を一緒につくり、業績管理のしくみづくりを通して、未来を見通せ、自ら課題を見つけ、安心して挑戦できる経営環境づくりが得意。大阪産業創造館のあきない・経営サポーターも務め、セミナー実績も多数。「経営者のための資金繰り基礎講座」「本当に自社にとって必要?事業承継税制セミナー」など。

<関連サイト>
角谷会計事務所
未来を魅せる税理士 神佐真由美のブログ