うまいパン、職人経験がないから作れる

更新日:2017.11.27

「5日間だけの研修で、未経験のあなたもベーカリーを開業できる」といううたい文句で全国に150店舗以上のパン屋さんの立ち上げを支援してきた、おかやま工房(岡山市)。ロイヤリティー料は取らずに、店舗オーナーが低コストでベーカリーを開店し、相互に勉強会で研鑽し合うことで経営力を高める画期的な仕組み「リエゾンプロジェクト」を生み出したのが、おかやま工房の河上祐隆(つねたか)社長(55)だ。(Sponsored by おかやま工房) (前回記事はこちら


短期間でパンづくりとベーカリー経営に習熟させるという方法を考え出したのは、偶然の要素が大きかった。

パン職人としての「常識の壁」にぶち当たる

   河上社長は、高校を卒業してからパン製造の道に入った、いわば「たたき上げ」の職人だ。師匠である経営者がいる店に入って学びながら、汗と涙をかいてパンづくりの技を磨く世界。厳しい先輩も多くおり、「時には(パン生地をのばす)棒で殴られた」(河上社長)という、鉄拳制裁もまだ残る時代だった。そんな厳しい修業を積み重ね、河上社長は22歳で大阪・羽曳野市に自らがオーナーとなるベーカリーを開いて独立した。1990年には岡山市にもベーカリーを開業し、これが現在のおかやま工房の前身となった。

 岡山県での1号店  ※今は他の人に店舗を譲っている
 

   自分の店を繁盛させる努力を続けるかたわらで、後輩が修業を終えてベーカリーを開こうとする時には積極的に支援した。独立したての後輩に、経営者としてパンづくり以外のノウハウを学んでもらおうと心血を注いできた。「勉強が嫌いだから職人になった、という人が業界には多い。だけど、パンづくりの技術だけで店は続かない。そこをなんとかしたいと思った」(河上社長)。

   だが、この時はまだ「ベーカリーを開くには長年の修業と熟練の技がないと無理だ」と河上社長は信じていたという。「それが業界の常識だった」。2008年からは海外への雄飛にあこがれて、インドネシアなどでベーカリーのプロデュースやコンサルティングの仕事にも乗り出した。

   転機が訪れたのは、そんな時だった。福島県にイタリアンレストランを構える友人から、「店で出すパンのつくり方を指南してほしい」と頼み込まれた。そのレストランの敷地にも店を設けて、「相乗効果で集客力を高めたいから」との依頼だった。

1週間の「一時帰国」でパンづくり指南に開眼

   「イタリアンのシェフとはいえ、パンづくりの経験もないのにベーカリーをやりたいというのは無謀だと思った。なので、当初は断った」と河上社長は当時を振り返る。しかも、そのころ自分自身はアジアを中心に海外を転々としていた。短期間で教えることなど不可能。ましてや経営を続けるなんてーー。

  だが、何度も何度も頼み込まれるうち、熱意に負けて引き受けた。「自分が日本に居られるのは1週間しかない。その間にパンづくりの技術とベーカリー経営を覚えてもらう」と宣言した。

おかやま工房の国富店
 

通常のベーカリーで使う大型オーブンなどの設備を置くことや扱うことは難しいと考え、「ミニベーカリーを開くための機械を探すことから始めた」(河上社長)。実際の教育プログラムを考案し、一時帰国するとすぐに福島へ向かい、友人のイタリアンシェフに1週間でパンづくりを指導した。

この経験が、現在の「未経験者でも5日間の研修でベーカリーを開業できる」というリエゾンプロジェクトの土台となった。福島県のイタリアンレストランはその後、ミニベーカーリーを軌道に乗せ、2店舗目も設けたという。河上社長は「自分自身の自信にもなったし、新しいパン屋づくりの道筋が見えてきた」と当時を話す。2009年からは本格的にリエゾンプロジェクトを立ち上げ、職人としての経験のない人たちに「パン屋の開き方」を指導する支援事業を始めた。

「だますのか」 業界からは批判

 だが、当初は風当たりも強かった。特に製パン業界からは「5日間でパン屋を開くなんて絶対ムリだ」と非難された。「お前は人をだまして商売しようとしてるんか! と先輩に怒鳴られたこともあった」(河上社長)。

 なかなか人も集まらず、プロジェクトは当初、赤字が続きだったという。だが、小さな設備を使って、通常よりも少ない初期投資で未経験者でもベーカリーを開業できるというリエゾンプロジェクトは、「団塊の世代」が退職を迎える時期とも重なり、徐々に注目を集めた。「退職を迎えている人達から『自分でもできるだろうか』と問い合わせが増えてきた」(河上社長)のだ。

おかやま工房の国富店
 

 こうして、じわじわと時流にも乗り、ベーカリの開店志願者が増えていった。現在でもリエゾンプロジェクトでベーカリーを立ち上げる人の多くが50代や60代だという。通常のベーカリーなら大きなデッキオーブンやマシンを使うため、シニア層は体力的にも経営を続けるのは難しい。だが、小さな設備でパンを焼くミニベーカリーは「体力という観点では70〜80代まで可能だと思う。もちろん女性でも」と河上社長は言う。

「飽きない味」つくり続ける店に

22歳で自身が独立するとき、河上社長は師匠からこんな教えを受けた。

「うまいパンをつくるな」

これは今もリエゾンプロジェクトでパン屋をめざす人たちに教える極意だという。「うまいパンは、小麦粉に凝ってバターやクリームを増やしたりすれば誰でもできるんです。でも、そういうパンは一時的には売れても、そのうち見向きもされなくなる。本当に長続きするのは『飽きないで食べ続けられる味』。師匠の言葉は、それが本質だと思います」と河上社長は強調する。

それゆえか、リエゾンプロジェクトでは職人を受け付けず、未経験者の応募にしか対応しないという。「職人はどうしても、うまいパンづくりに走ってしまう。そして続かなくなる例が多いのです」。飽きないパンづくりを徹底したことで、河上社長が経営する岡山市の店舗は1店舗に1日1200人が訪れる大人気店になっているという。

大阪でのパンクック ※創業店舗 今は店舗自体がない
 

「フランチャイズ方式ではないので、全面的にバックアップはしませんし、一人ひとりのオーナーには自分の好みで個性ある店をつくってもらいたい。でも、売れるお店を訪れて、互いに勉強し合うことで、各オーナーが経営力を高めていくようにしたいんです」(河上社長)。

リエゾンプロジェクトは、現在では日本国内で本店乗る岡山のほか、東京に2カ所(三田、五反田)、大阪、札幌に研修センターを置く(札幌は常駐社員なし)。また、海外でも米国とカナダで店を開くオーナーが出てきたという。

100%国産で無添加の生地を使ったパンづくりを、未経験者が学んでベーカリーを開業するリエゾンプロジェクト。河上社長は「本当においしいパンを知らない人が、まだ多い。パンの需要が伸びる一方で(前回記事参照)、パン屋の数は減っている。市場が伸びる余地は大いにあると思っています」と力を込めた。
 

記事が役に立ったらシェアしてもらえると嬉しいです!

関連記事

メニューを閉じる