三河主門

「だれもが起業して自ら仕事を作れる」とノーベル平和賞受賞・ユヌス博士が断言する理由(あすへのヒント)

ポイント(この記事は3分で読み終わります)
  1. 2006年度にノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス博士
  2. 人間はだれでも起業して、自ら仕事を作り出せる

もっとも話を聞きたい人たちのひとりに先週、会うことができました。世界で最貧国の1つに数えられるバングラデシュで、貧しい農村の人々への無担保小口融資(マイクロクレジット)で「グラミン銀行」を創設し、世界に先駆けてこのマイクロクレジットを世界に発信したムハマド・ユヌス博士。その功績が讃えられ、2006年度にはノーベル平和賞を受賞しました。

マイクロクレジットとは、抵当や担保になりそうな資産がない人に向け、仕事を始められる少額の資金を、無担保で契約書もつくらずに貸す融資制度です。農村で、とくに何も持っている資産がない女性たちに向けて多くの資金を貸し出し、それで食事を作り農作物を育てて売り、何万人もが自活できるようにした。ユヌス博士は、いわば「社会起業家の巨人」と呼べる人なのです。

京都で3月25日に開かれた講演会では、筆者の会社でプレスリリースの作成を請け負ったこともあり、とても間近でユヌス博士の発言を聞いていました。さまざまな学びが多い講演でしたが、当サイト「助っ人」の編集者として一番響いたのが、次の言葉でした。

人間はだれでも起業して、自ら仕事を作り出せるのです。そういう風にできているし、それが自然なのです

「グラミン」とはバングラデシュの人口(約1億6000万人)の9割以上が話すベンガル語で「村の」という意味。その「村の銀行」は貧しくて教育を受けられず、文字を読み書きできない人にも融資して、多くの起業家を育てました。彼ら彼女らは商売を始めて得たお金で、自分の子どもたちを学校に通わせることができるようになりました。

しかし、せっかく高度な教育を受けても、村には仕事がありません。働き口、就職先がないのです。「せっかく教育を受けさせたのに……」と愚痴をこぼす親たちに、ユヌス博士はしかし、敢然と言い放ちました。

「そこで私は親たちに言ったのです。『就職先とか、仕事をもらうことを探すことはやめにしましょう』と。そもそも仕事をもらうというのは、昔ながらの古い考え方ではないか、と。自分が仕事をつくる側に回る、仕事を創造していくことが自然なことなのです。そんなの無理だという人には『母親として、あなた自身を見せなさい』と言いました。字が読み書きできないお母さんでも少額の20~40ドルで立派に起業して仕事をつくってきた。教育を受けた子どもたちに、それができないはずはないのですから」

講演後のパネルディスカッションでも、ユヌス博士はこう主張していました。

「誰かに仕事をもらうという発想自体が、そもそもおかしいのではないでしょうか?『リタイア(退職)』という言葉があります。これはとても強い「恐怖」をもたらしますよね。ある時期が来たら辞めなきゃいけない。もう役に立たないから不要だといわれる。このネガティブな言葉ゆえに、その日が近づくにつれ神経質になっていきます。年金ももらえ、退職金ももらったけれども、何をしていいかわからない。つまり、リタイアという自体が大きな問題になってしまうのです」

「私が言いたいのは『リタイア』という言葉には意味がないということ。不要な人間というのはいない。人間は常に有用であり、常に活動し止めることはない。最後に息をひきとるまでクリエイティブであるのです」

まさに、新しく「事を起こす」ことの心を、はげしく鼓舞される言葉の数々でした。街にいる金持ちにのみ資金を融資し、返済のあてがない貧しい人は相手にしない既存の銀行というシステム。ユヌス博士は、この全く逆をやったのです。

「銀行設立から41年が立ちました。バングラデッシュの国中に約600の支所がありますが、全部が村にあり、街にはまだ1つもありません。『村でお金を貸す』が私の約束です。銀行の逆を、真っ先にやったわけです。金持ちではなく、貧しい人に貸す。より貧しい人には、より多く貸せる。抵当や担保は不要、契約文書もなし。グラミン銀行には法律家もいません。普通の銀行がやっていることを全てやめたが、うまく回っているのです。実際に99%以上の借り手が着実に返済しています。普通の銀行は国一番の金持ちからでも返してもらえないこともありますが、グラミン銀行は全員がきちんと返済しています」

講演後の質疑応答で、高校生が質問した「なぜ貧困はなくならないのか」という素朴な疑問に、ユヌス博士はこう答えていました。
「貧困をつくり出しているのはそこに住む貧しい人々ではない。世界の経済システムが貧困の原因になっている。そのシステムを根本から変えることができれば、貧困はなくなる。貧しくて金融システムに頼れない人が、資金を得て自分で生活していけるようにすることが重要だ」


現在の資本主義は、より多くを持つ人にお金がより集まるシステムだと、博士は説明します。お金は磁石のようなもの。大きな資産を持って入れば、より多くを引きつける。貧しい人の稼いだお金も磁力を持つが、より大きな磁力に引っ張られてしまう――。
「上位1%の超富裕層が世界の富の半分を所有したら、地球上の99%の人が残る半分を分け合わなければならない。そして悲劇が起こる。これをなくすには、システムを変えなければならない」
カギカッコ内は引用です。より詳しく知りたい方は、京都の講演会を主催した関西の教育塾大手、成基コミュニティグループが配信したプレスリリースをご参照ください。

また、ユヌス博士は日本語訳の新刊「3つのゼロの世界」(山田文・訳、早川書房・刊、英書タイトル:「A World of Three Zeros」)の発売を記念して、来日公演したものです。興味のある方は、こちらの本もぜひお読みください。

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著者プロフィール

三河主門

2017年5月に日本経済新聞社を退社して独立。各種新聞・雑誌・ウェブメディアに記事を執筆しながら、フリーランスの編集者、メディア・リレーションのコンサルティングとしても活動している。17年11月に「Mikawa&Co.合同会社」を設立、中小企業・スタートアップベンチャーのためのPR(広報)コンサルティング、セミナーなどを手掛けるほか、教育関連コンテンツの製作も開始した。 日経記者時代は主に企業取材を担当。産業部(現・企業報道部)記者として長い経験がある。2007~10年にバンコク支局長として駐在した経験と人脈を生かし、タイのビジネス・社会・文化を研究・紹介する活動に長く携わる。