大手テレビメディアがスタートアップ投資を急ぐ理由(あすへのヒント)

更新日:2018.04.15

日本の大手メディア、特に「キー局」と呼ばれるテレビ大手がベンチャー企業への投資を加速している。大手企業がコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)を立ち上げて新技術やサービスを持つスタートアップに投資するケースが広がりを見せる中、大手テレビ局の持ち株会社もCVCを設立して、さまざまな分野の新規企業に投資をしはじめている。

背景には、テレビ局が「メディアの王様」的な立場にあったこれまでとは違い、ネット時代になって急速に影響力を失いつつあることへの危機感の強さがある。大きな力を持っていた業界や企業が、時代の移り変わりでその勢力に陰りが見え始めたとき、次代に生き残るためにビジネスチャンスを積極的に拾おうとする動きなのだろう。

メディア系スタートアップのJX通信社(東京・千代田、米重克洋社長)は4月13日、フジ・スタートアップ・ベンチャーズ(東京・港)とテレビ朝日ホールディングス(東京・港)を引受先とする第三者割当増資を実施したと発表した。テレビ局2社がJX通信社に出資をした格好だ。JX通信社は2008年に代表の米重氏が学生時代に創業したスタートアップで、AI(人工知能)を使ってSNSなどインターネット上の情報を集めて速報するなどの新しいサービスを報道機関に提供している。

新たに出資したテレビ系2社のうち、フジ・スタートアップ・ベンチャーズはフジテレビの持ち株会社、フジ・メディア・ホールディングス(HD)のCVCにあたる。フジ・メディアHDはCVCであるフジ・スタートアップ・ベンチャーズを2013年1月に設立。これまでも16年にAIを使って複数のSNSから画像を抽出して解析するサービスや、AIアナウンサー「荒木ゆい」など開発したスタートアップのSpectee(スペクティー、東京・新宿)などに出資している。

フジやテレビ朝日がJX通信社への出資を発表された同じ4月13日、テレビ・ラジオ局のTBS(東京放送)を抱えるTBSホールディングス(HD)も、自社のCVCであるTBSイノベーション・パートナーズ(東京・港)を通じて、メディアやコンテンツ、エンターテインメント、IT分野など国内外のスタートアップに投資する、総額30億円規模の新しいファンド(投資事業組合)を立ち上げると発表した。

TBSイノベーションも2013年の設立。18億円規模だった第1号ファンドで出資した企業には、上場を果たした家計簿アプリのマネーフォワード、ビッグデータ分析のデータセクションなどもある。投資による経験を生かして、2号ファンドでは規模を拡大し、VR(仮想現実)などの最新技術を持つスタートアップに投資して、本業である映像関連事業を強化する狙いだという。

テレビ各社の動きに共通するのは、豊富な資金力があっても、自社だけの技術力と人的資源では新しい時代にふさわしいメディアをつくれない苦悩を抱えていることだ。過去には新聞よりも速いといわれたテレビ報道。高額なCMを放送することで得た資金力と、人気就職先として人材を集めたマンパワーで、これまでは事故や災害の現場を速報してきた。

だが、現在ではテレビ報道よりも速く情報が流れていくSNSという巨大な情報プラットフォームをたくさんの人々が利用している。カメラ付きスマートフォンが隅々まで普及し、災害や火災、事件、事故などの発生から時間をおかずに映像が流れる時代になった。さらに、人々が自身の意見をSNS上にストレートに流すことが可能になったことで、偏向のあるような報道姿勢が見られれば視聴者からSNSで問い詰められる事態も起きている。

大手テレビだけでなく、多くの日本の大企業が全体的に過去の成功体験から脱却を図ろうと、スタートアップに投資するCVCを立ち上げている。経済系ウェブメディアのBUSINESS INSIDER JAPAN(ビジネス・インサイダー・ジャパン)の記事によると、財務省がまとめた日本企業の内部留保(利益剰余金)の総額は2017年3月31日時点で460兆6122億円になったという。過去最高に積み上がった内部留保は、自社だけのリソースでは作り出せないビジネスの種を求めて、CVCとなってスタートアップに向かい始めている。

 まだまだ大企業のスタートアップ探しは熱を帯びそうだが、肝心のスタートアップ=起業家はどうか。金融セクターなどが一段と人材放出を進めている今、その受け皿としても、また日本が世界の中で新しい競争力を蓄えるためにも、ますますスタートアップを立ち上げる人々の新しい発想とチャレンジ、そして行動が求められている。

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プロフィール

三河主門

三河主門

2017年5月に日本経済新聞社を退社して独立。各種新聞・雑誌・ウェブメディアに記事を執筆しながら、フリーランスの編集者、メディア・リレーションのコンサルティングとしても活動している。日本最大の起業・開業・独立者向けポータルサイト「助っ人」(www.suke10.com)で編集長。17年11月に「Mikawa&Co.合同会社」を設立、中小企業・スタートアップベンチャーのためのPR(広報)コンサルティング、セミナーなどを手掛けるほか、教育関連コンテンツの製作も開始した。
日経記者時代は主に企業取材を担当。産業部(現・企業報道部)記者として長い経験がある。2007~10年にバンコク支局長として駐在した経験と人脈を生かし、タイのビジネス・社会・文化を研究・紹介する活動に長く携わる。


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