アリババが参入表明した「AIチップ」開発競争、新技術の台頭をスタートアップはどう生かすか(あすへのヒント)

更新日:2018.05.12

日本ゴールデンウィークを前に、世界的に盛り上がったAI(人工知能)関連のニュースが、東京から発信された。4月26日、早稲田大学で講演した中国のネット通販最大手、アリババ集団の馬雲(ジャック・マー)会長が突如、明言した内容が世界中に伝わったのだ。

「(アリババは)AIによる推理・計算に使われる半導体チップの開発に参入する」

いわゆる「AIチップ」の開発に乗り出すと断言したのだ。これには早大の大隈記念講堂に集まった約1200人の聴衆だけでなく、取材するために列席した報道関係者も度肝を抜かれた。

AIチップとは、AIの高速処理を可能にするために開発された半導体のことだ。AIは人間との対話などの中で、スムーズに情報を処理して何を答えるべきかを「類推」し、的確に素早く答えられなければ、使い勝手は悪くなる。そこで、膨大なデータ情報を特別に処理するチップを開発することがIT各社にとって急務になってきた。AIチップはこうした要請を受けて開発されつつあるもので、パソコンなどで使う画像処理用チップやCPU(中央演算処理装置)の数十倍は速く駆動してエネルギー効率も良いのが最大の特徴だ。

マー氏が見据えるのは単なるAIだけでなく、あらゆるものがネットにつながる「IoT(Internet of Things)」の普及や、自動運転技術の進展によって今後、今まで以上に膨大な情報処理能力が必要になるとの考えからだ。現在、半導体は米国が開発の主流になっているが、マー氏は講演で「半導体チップ市場は米国がコントロールしてきたが、売ってもらえなくなったらどうするのか」と話し、だれでも使えるようにすべきだとの考えを披露。自社だけでなく、日本や韓国など他国でも開発すべきだと強調したという。

アリババだけではない。実は「GAFA」と称される米国のIT大手4社のグーグル、アマゾン・ドット・コム、フェイスブック、アップルのいずれもがAIチップの開発に参入すると表明している。これに加えて、半導体最大手の米インテルや画像処理半導体最大手の米エヌビディア(NVIDIA)なども当然ながら、将来に収益の柱にしようとの狙いで開発を強化している。

ではアリババやフェイスブック、アマゾンなどが、半導体専業メーカーのインテルのようにAIチップを製造して製品化して販売するのかといえば、おそらく違うだろう。

だが、自社の確固たるプラットフォームを持つIT大手が、今後さらに増えていく膨大な情報を自社のデータセンターで的確かつ素早く処理していくには、その「キモ」となるAI処理技術を半導体メーカーに握られたくないと考えても不思議はない。自社のプラットフォームにふさわしいAI技術をさらに磨くためにも、独自にAIチップを設計・開発する必要性が出てきたということだ。

こうなると世の中でAIチップ、もしくは半導体の設計などに秀でたエンジニア(技術者)と、新しい設計思想や開発の発想を持つ人材やスタートアップを、いかに他社より先に取り込んでいくかが重要になる。

各社の動きも先鋭化し始めている。エヌビディアは4月23日、ソフトバンクグループが全額出資するAIに特化して若手起業家の育成を目指しているインキュベーター会社、ディープコア(DEEPCORE、東京・港、仁木勝雅社長)と提携したと発表。AIチップの開発に向けた人材育成や起業家の支援を協力して進める方針を打ち出した。

日本の公的機関も動き出した。国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は4月20日、新たにAIチップや次世代コンピューティングに関する研究開発事業を始めると発表し、その第1弾として「革新的AIエッジコンピューティング技術の開発」を公募すると明らかにした。最先端のAIチップ技術を持つ人材やスタートアップを支援することで、日本もトップ集団で走っていくことを目指すものだ。

すべてのスタートアップがAIを主軸とするわけではないが、こうした開発競争から見えてくる未来の風景には、だれもが影響を受けるに違いない。2018年が「AIチップ元年」だとすれば、5年後、10年後には我々の生活へと浸透してきて、「それなしには多くの人が仕事をできない、暮らせない」といった時代になるかもしれない。その風景をめがけて、起業家は何ができるのかを考える時期にきている。

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プロフィール

三河主門

三河主門

2017年5月に日本経済新聞社を退社して独立。各種新聞・雑誌・ウェブメディアに記事を執筆しながら、フリーランスの編集者、メディア・リレーションのコンサルティングとしても活動している。17年11月に「Mikawa&Co.合同会社」を設立、中小企業・スタートアップベンチャーのためのPR(広報)コンサルティング、セミナーなどを手掛けるほか、教育関連コンテンツの製作も開始した。
日経記者時代は主に企業取材を担当。産業部(現・企業報道部)記者として長い経験がある。2007~10年にバンコク支局長として駐在した経験と人脈を生かし、タイのビジネス・社会・文化を研究・紹介する活動に長く携わる。


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