創業者が陥りそうな「起業のワナ」を体系的に網羅した新・教科書(書評ビブログ)

更新日:2018.05.30

「起業の科学 スタートアップサイエンス」(日経BP社)

経済が成熟したといわれて久しい日本だが、今ほど起業やスタートアップが注目されている時代はないだろう。戦後の高度経済成長から続いてきた大企業信仰は薄れ、学生時代から起業する人、若いうちに会社勤めを辞めて、もしくはシニアが離職・退職して自分の会社を起こす例も増えている。

そんな時代にハマったのが「起業の科学 スタートアップサイエンス」(日経BP社・刊)だ。著者の田所雅之氏は大学卒業後、外資系コンサルティング会社で経営戦略を顧客企業に提示する仕事をした後で独立。エドテック(教育技術)のスタートアップを3社、米シリコンバレーでEC(電子商取引)のプラットフォームを提供するスタートアップを立ち上げた経験を持つ。その後はベンチャーキャピタルのパートナーとなった。現在は日本とシリコンバレーにある数社で戦略アドバイザーやボードメンバーになっているほか、事業創造会社ブルー・マーリン・パートナーズ(東京・港)や、ウェブマーケティング会社ベーシック(東京・千代田)でのCSO(最高戦略責任者)も務める。17年にはスタートアップの支援会社も新設し、多彩な活躍を続けている。

その経験に加えて、1000人以上の起業家や投資家に話を聞いたり、書籍や経営分析などを読み込んだりしながら、「スタートアップを立ち上げて成功させるための勘どころ」を1750枚のスライドにまとめたという。これを書籍化したのが「起業の科学 スタートアップサイエンス」だ。同書は2017年11月の発売。1カ月あまりで販売部数が2万部を突破し、起業の解説書としては例を見ない売れ行きをみせた。その大部のスライドそのものも「スタートアップサイエンス2017」としてアップしており、書籍購入者は参考にできるようになっている。

著者自身がスタートアップを立ち上げた経験を振り返り、「あの頃、この本に出会えていたら、自分と自分が始めたスタートアップの運命が大きく変わったか」を基準に書いた、と説明する。

書籍を読む人に対して、

・自分達が正しい方向に進んでいるかを判断するコンパスを提供する
・時期尚早な拡大を防ぐためのガイドラインを提供する
・各ステージの目標を具体的なアクションに落とし込むノウハウ、ツールを提供する

というのを目標にしているという。

著者は、スタートアップこそが「世界をより良い場所にすることができる」という考えを信奉していて、「20世紀の後半から21世紀の前半を振り返ったとき世界に最もインパクトを与えたものの1つがスタートアップではないだろうか」と強調する。確かに、今の世に米アップルやマイクロソフト、グーグル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コムが存在していなかったとしたら、どんなにか違う社会だったか……。すでに我々には想像がつかないほど、スタートアップが世界を変えてきたことは、著者の指摘通りだろう。

そして、スタートアップの定義として、「既存市場を再定義するような破壊的イノベーションである」「巨額のリターンを短期間で生む」「初期は(サービスの利用者が)少数だが、一気に多くの人に届けることができる」など6つの要素を挙げる。そうでないビジネス、例えば「既存市場をベースにした持続的イノベーション」で、「市場があることが証明されていて、市場環境の変化も少ない」などの多くの商売は「スモールビジネス」であるとして、明確に区別する。

そのうえで、スタートアップを始める際には、何が重要なのかを体系的に解説する。例えば、スタートアップにとっての「良いアイデア」とは何か? これに対して、「自分ごとの課題を解決せよ」などと具体的にアイデアの絞り込み方を提案する。自分ごととは、自分が暮らしていく中で、もしくは人生で困難にあった場面で、自分自身がどうにかしたい課題を解いてくれるソリューションに「ダイヤの原石がきっとある」と指摘する。

つまり、「なぜあなたが、それをするのか?」だ。世の中を大きく変えるような新しいアイデアを思いついて起業しても、自分の経験や人生の困難を克服するような課題に対しての強い想いがないと、そしてその課題の質を高めないと、起業したファウンダー(創業者)のあなたに「人(投資家やパートナー、従業員)はついてこない」と喝破する。

構成としては、スタートアップのアイデアの検証方法を詳細に解説する「IDEA VERIFICATION」(第1章)から始まり、課題の質を上げる「CUSTOMER PROBLEM FIT」(第2章)、解決方法(ソリューション)を検証する「PROBLEM SOLUTION FIT」(第3章)、人が欲しがるものを創り出す「PRODUCT MARKET FIT」(第4章)、そしてスケールする(多くの人に製品やサービスを使ってもらえる)ためにどう動くかを説いた「TRANSITION TO SCALE」(第5章)の各ステージについて、検討の手法を説明していく。

スタートアップの成功に向けた道筋を解説した「新しい起業の教科書」ともいえる。筆者が定義する、「世の中を大きく変えるスタートアップ」の経営者だけでなく、新しくビジネスを始めるスモールビジネスを含めた全ての経営者に、多くの気づきがあるだろう。

●新刊紹介

『起業の科学 スタートアップサイエンス』
田所 雅之 著
日経BP社 
2017/11 280ページ 2300円(税別)

著者について

田所 雅之(たどころ・まさゆき)氏
1978年生まれ。大学を卒業後、外資系のコンサルティングファームに入社し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後は、日本で企業向け研修会社と経営コンサルティング会社、エドテック(教育技術)のスタートアップの3社、米国でECプラットフォームのスタートアップを起業し、シリコンバレーで活動した。 日本に帰国後、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。また欧州最大級のスタートアップイベントのアジア版、Pioneers Asiaなどで、スライド資料やプレゼンなどを基に世界各地のスタートアップ約1500社の評価を行ってきた。 日本とシリコンバレーのスタートアップ数社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めながら、事業創造会社ブルー・マーリン・パートナーズ(東京・港)のCSO(最高戦略責任者)、ウェブマーケティング会社ベーシック(東京・千代田)のCSOも務める。2017年、新たにスタートアップの支援会社も設立した。 その経験を生かして作成したスライド集『スタートアップサイエンス2017』は全世界で約5万回シェアという大きな反響を呼んだ。

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プロフィール

三河主門

三河主門

2017年5月に日本経済新聞社を退社して独立。各種新聞・雑誌・ウェブメディアに記事を執筆しながら、フリーランスの編集者、メディア・リレーションのコンサルティングとしても活動している。日本最大の起業・開業・独立者向けポータルサイト「助っ人」(www.suke10.com)で編集長。17年11月に「Mikawa&Co.合同会社」を設立、中小企業・スタートアップベンチャーのためのPR(広報)コンサルティング、セミナーなどを手掛けるほか、教育関連コンテンツの製作も開始した。
日経記者時代は主に企業取材を担当。産業部(現・企業報道部)記者として長い経験がある。2007~10年にバンコク支局長として駐在した経験と人脈を生かし、タイのビジネス・社会・文化を研究・紹介する活動に長く携わる。


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