三河主門
林聖人
桃井美里

VRで挑む「吃音」治療、医療分野でも広がる可能性【番外編1】

ポイント(この記事は3分で読み終わります)
  1. 吃音×VR?その活用法とは
  2. 「障害」と国が認めないゆえの不幸も
  3. 「人前で話す」VRで緊張を緩和

動き出すVRエンタメ【番外編1】

吃音×VR?その活用法とは

VR(仮想現実)の活用は、あらゆる分野で広がり、医療分野でもVRを生かして課題解決に挑もうとする企業が増えているという。日本では「どもり=吃音(きつおん)」と呼ばれる症状を矯正する「吃音症の改善プログラム」を実現しようと準備を進めている人物がいる。吃音症にまつわる社会課題を、どのように解決しようとしているのか。

吃音のある方々の就労をはじめとした当事者支援のNPO法人・どーもわーく(東京・新宿)でインターンとして働きながら、起業準備を進めている梅津円さん(25)は、かつて自身も吃音症に悩んだ経験がある。吃音症とは、言葉がうまく話せない病気であり、障害の一種だ。

第83回アカデミー賞を受賞したイギリス映画「英国王のスピーチ」でも、吃音症に悩むイギリス王ジョージ6世の姿が描かれている。映画を通じて知っている方も多いのではないだろうか。梅津さんによると、吃音症の人は日本では120万人、世界では7600万人いるという。

吃音症とVRは一見、関連性がなさそうに思うかもしれない。一体、どのようにしてVRで吃音矯正をしようというのか。

吃音矯正VRに使用するデバイス

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「障害」と国が認めないゆえの不幸も

幼少期には人口全体の5%の人が吃音症になるといわれる。4%は成長に伴って自然に治るが、1%は大人になっても症状が残るとのことだ。

かつては梅津さん自身も、吃音症に悩まされる中の一人だった。だが、週4回の接客業で3カ月間働いた経験を通じて、自身の吃音を改善することができたという。そうした自身の経験を経て、「吃音者の課題解決がしたい」という思いが芽生えた。

当時、通っていた職場では吃音症に対する理解もあり、恵まれた環境だったと梅津さんは振り返る。だが、世の中で一般には吃音症についての理解はまだ少なく、吃音症の人が働きながら症状を改善できるような労働環境はまだまだ少ないのが現状だ。

吃音症は、仕事などを通じて自分が話す内容が理解され、認められると改善に向かうというデータがある。一方、仕事のミスなどで怒鳴られたりすると大幅に悪化するという。

非常にナイーブなので、治療するためには周りの人の理解が必要になる。しかし、現実的にそのような労働環境をつくることも見つけ出すことも難しい。吃音症を理解している人自体が少ないからだ。そもそも吃音症の人の中にも、自分が吃音症だという自覚がない人が多いという。


VRによるメンタルヘルス改善の領域で多彩な活動をしている梅津さん

「吃音者にとって、どもりは表面的な悩みなんです」(梅津さん)。どもりよりも、それに伴うストレスや、不安のような心理的な悩みの方が深刻なのだという。社交不安障害や対人恐怖症へとつながる恐れがあるからだ。このような課題を、梅津さんはどうやって解決していこうとしているのだろうか。

「人前で話す」VRで緊張を緩和

吃音症の原因は脳にあるといわれる。治療するには「言語聴覚士」という国家資格が必要だが、資格保有者が少なく、病院によっては100人待ちというケースもある。治療には早くても3カ月、長いときは数年かかるという。一度治療を受けても、次の治療までに間が空いてしまうことで、効果が実感できず、途中で治療をやめてしまう人もいる。

一度症状が改善しても、日常生活に戻ると、症状が再発することも多い。このため、自宅などでの定期的なメンテナンスが必要だが、話す練習ができる場所を身近で見つけることは難しい。梅津さんは、理想的な治療環境を再現する空間をVR内につくることで、吃音矯正を実現するサービスをつくろうと考えた。

「吃音矯正するために理想的な環境をVRで再現できれば、どこにいても、どんな人にも提供できる」(梅津さん)

VR空間で聞き手の数を1人、2人と増やしていく。そうして慣れることで、最終的には大人数を前にしたスピーチもできるようになるという。実際に、就職面接を再現したVRを体験させてもらった。画面内で、自分から見て左側に男性、右側に女性の面接官がスーツ姿で座っている。年齢はどちらも30代くらいだ。男性は無愛想で、圧迫感がある。


ゴーグルの向こうには面接官の姿が!

「1分間で自己PRをお願いします。」と女性が言う。こちらが話をしている間は時折相づちをうったり、首をかしげたりしている。面接官とリアルに目が合うので、見られているという実感が湧いてくる。非常にリアリティがあると感じた。実際に人前でするコミュニケーションと、VR空間の中でするコミュニケーションでは、話し手の緊張度は変わらないという研究結果がある。没入感が少ないヘッドマウントディスプレーだと、治療効果は全くないという。治療につなげるには、より没入感の高い機材を使う必要がある。

今後は、音声に反応して相手の表情や反応が変えられるような技術開発が必要だと梅津さんは考える。ただ、アプリなどのソフト面の開発だけでは解決できないため、治療に適した機材が出そろうのを待っているとのことだ。

その他の事例

吃音症以外にも、医療業界においてVRでの症状改善の事例はある。例えば、高所恐怖症の患者にVRで治療をおこなったところ、自主的にジェットコースターに乗るようになったという。また、バルセロナ大学の研究事例で、うつ病の患者にVRによる治療をおこない15人中9人の症状が改善。その後も4人が長期的に改善していったとの事例もある。

梅津さんは現在、梅津さん以外の主要メンバー4人と、その他のボランティアメンバーで活動している。吃音者の就労支援をしている「NPO法人どーもわーく」とも協力関係を築いている。

今後、吃音矯正サービスを運営するには臨床試験、研究が必要で、「医療機関や研究機関との提携も進めていきたい」と梅津さんは話す。医療分野でのVR活用は今後、一段と進むことになりそうだ。

梅津さんは2018年の夏に行われる吃音関係者が世界中から集まるカンファレンスでもポスター発表を行う予定

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著者プロフィール

三河主門

2017年5月に日本経済新聞社を退社して独立。各種新聞・雑誌・ウェブメディアに記事を執筆しながら、フリーランスの編集者、メディア・リレーションのコンサルティングとしても活動している。17年11月に「Mikawa&Co.合同会社」を設立、中小企業・スタートアップベンチャーのためのPR(広報)コンサルティング、セミナーなどを手掛けるほか、教育関連コンテンツの製作も開始した。 日経記者時代は主に企業取材を担当。産業部(現・企業報道部)記者として長い経験がある。2007~10年にバンコク支局長として駐在した経験と人脈を生かし、タイのビジネス・社会・文化を研究・紹介する活動に長く携わる。

林聖人

フリーランスライター。 大学卒業後、商社で輸入品の流通事業に8年間携わる。 月100時間を超える残業や、生産性の低い働き方を続けることに疑問を抱き、2018年に「働き方」専門のライター・ジャーナリストとして独立。 また独立前に8つの副業を経験し、自身でも「副業」を専門テーマに実態調査や、情報発信をおこなう。 2017年から、日本最大の起業・開業・独立者向けポータルサイト「助っ人」(www.suke10.com)の編集チームで「働き方・副業」に関する記事を担当している。

桃井美里

2018年から、日本最大の起業・開業・独立者向けポータルサイト「助っ人」(www.suke10.com)の編集チームで、コラムを担当。 こども写真館「スタジオマリオ」の店長を経て「助っ人」編集部へ。 イラストや写真を用いて、難しく考えられがちな『起業』をもっと身近に感じることのできるコンテンツの発信に取り組む。 フリーのナレーター・MCとしても活動中。