佐渡島で現代の三賢人は何を教えたか(学校蔵リポート①)――先入観に左右されない「学び方」とは?

更新日:2018.07.09

「学ぶ」とは何か――。それを改めて考えさせられるイベントに、今年も参加した。

新潟市の沖合に横たわる佐渡島。島の南西部にある旧・西三川小学校は、日本海に沈んでいく夕日があまりに美しく「日本一、夕日がきれいな小学校」とも呼ばれていた。しかし、児童数の減少で2010年に廃校となってしまった。

その校舎を買い取って、夏に仕込む日本酒を醸造する酒蔵にしたのが、佐渡島に本社のある尾畑酒造(新潟県佐渡市)だ。「学校蔵」と名付けて再生したのが2014年。その年に「せっかく元は学校なのだから、佐渡で学ぶ場所を設けたい」と始めたのが、夏に開かれる「学校蔵の特別授業」だ。

尾畑酒造社長の平島健社長を「校長」に、尾畑酒造の“跡取り娘”だった尾畑留美子専務を「学級委員長」とし、ご夫婦で始めた学校蔵の特別授業は、全国から毎年100人超が集まって学びや地域活性化について話し合う、ちょっとした「白熱教室」となっている。

学校蔵の事業と特別授業を立ち上げた尾畑酒造の平島健社長(右)と尾畑留美子専務夫妻

2018年で5回目を迎えたその特別授業で講師となったのは、日本総合研究所の主席研究員である藻谷浩介氏、東京大学社会科学研究所の教授である玄田有史氏、そしてライフネット生命の創業メンバーで現在は立命館アジア太平洋大学(APU)の学長を務める出口治明氏の3人だ。“現代の三賢人”は佐渡で、日本と世界について何を話したのか? 尾畑酒造の快諾を得て、3人の講義内容から3回にわたって「起業家が考える『学び』とは?」についてリポートする。

 

地方の歩き、現場で実態を見てこそ「数字のウラ」がわかる

2018年の特別授業でトップバッターとなった講師は藻谷浩介さんだ。「デフレの正体」「里山資本主義」などの著作で、客観的なデータ・数字と綿密な調査で現代日本経済のファクトを示し、「地方の経済・社会の立て直し方」を提唱してきた論客だ。過去5回の「学校蔵の特別授業」すべてで講師を務めている。

今年の講義テーマは「地方通いのススメ」だ。


写真:尾畑酒造提供
藻谷 浩介(もたに・こうすけ)
日本総合研究所主席研究員。東京大学法学部卒業。米国ニューヨーク市コロンビア大学経営大学院(ビジネススクール)卒業。2000年頃より、地域振興や人口成熟問題に関し精力的に研究・著作・講演を行う。日本政策投資銀行地域企画部で特任顧問 (非常勤)。特定非営利活動法人ComPus地域経営支援ネットワーク理事長 (無報酬)。著書「デフレの正体」「里山資本主義」(共に角川Oneテーマ21)、「観光立国の正体」(山田桂一郎氏との共著、新潮新書)、「世界まちかど地政学」(毎日新聞出版)、「経済成長なき幸福国家論」(平田オリザ氏との対談、毎日新聞出版)ほか。1964年山口県生まれ。

地方研究のプロがテーマに「ふさわしくない」?

ちなみに、学校蔵の特別授業で各講師が語るテーマは、主催者である尾畑酒造の校長や学級委員長が考え出し、講師に投げかけるスタイルをとっている。藻谷さんは「地方通いのススメ」というテーマに対し、授業の冒頭で「自分が語るには本当ならふさわしくない」と前置きした。藻谷さんは、地方創生に関連する調査や研究ではプロ中のプロだ。国内にある全市町村をすでに歩ききっており、そのほとんどを50回以上は踏破している猛者でもある。

「地方通いのススメ」が自身にふさわしくない、といった理由を、藻谷さんは「新しい土地を訪れた時の感動がない」と説明した。感動とはおそらく、藻谷さんにとっての発見であり、「学び」であるのだろう。

講義は、こんな質問から始まった。

「東京という都会にいるのと、地方にいるのとでは、どちらの方が、日本の実情がよく見えるか?」

藻谷さんは授業に参加した「生徒」たちに手を上げさせて、周りがどう考えているかを客観的に把握させるスタイルで講義を進めていく。

ヒト、モノ、カネが集まる日本の首都、東京。ここには情報も集まり、さまざまな日本全国のデータを押さえている官庁も集う。だが、それでもなお全国のことが理解しにくい例として、佐渡と東京の「高齢化率」「生活保護率」などの数字を挙げて解説した。

高齢化が進む佐渡、生活ができない東京

例えば、2010年の高齢化率。100人のうち何パーセントが65歳以上かを示す数字だ。佐渡島にある佐渡市の高齢化率は10年に約40%。対する東京は22%であり、比率的には東京の方が高齢者の割合は全体の中では小さいことになる。一方、これが2015年になるとどうか。東京では高齢者の数は10年比で13%も増加したが、佐渡市ではこれがマイナス0.3%となったという。人数にして10年より21人が死亡などにより減少したのだ。働くために地元を出ていく人口の「社会減」に加えて、残った人が寿命を迎えていよいよ少なくなっていく「自然減」の局面を迎えていることを物語っている。

だが、高齢になって働けなくなった層が受給者のほとんどである生活保護受給者の比率をみてみると、どうか。生活保護率は「人口1000人あたりに何人いるか」を数値化したものだ。東京都の保護率は平均で2.4%という。最も少ない中央区では0.8%で、最も多い足立区は3.8%ある。日本の都市では大阪市が5.43%、京都市が3.07%だという(厚生労働省「生活保護制度の現状について」17年5月)。

これに対して、高齢化率の高い佐渡市の生活保護率は、藻谷さんによるとわずか0.77%だという。これは、東京でもっとも生活保護率が小さい中央区をも下回る数値だ。

「どういうことかというと、佐渡の高齢者は圧倒的に食べていけているんです。病院も東京では2時間、3時間待つのが当たり前ですが、これは高齢者が過去にないスピードで急増しているから。しかも稼げないから生活保護率も高い傾向にある」

この事実を見たときに、「数字だけでは語れない、地方で現場を見ないと分からない事実がある」と藻谷さんは指摘しました。

「地方に通って日本を見るということは、ある時は上から、またある時は斜めから、そして下から、中からといろんな角度でものごとを見ることにつながります」

もちろん、知らない地方を訪れても、わずか数時間だけでは「全体を把握できないこともある」と藻谷さん。氏ほど地方を隅々まで何度も歩いてきた人でないと見えないこともあるだろう。しかし、「例えば、佐渡では高齢でも働いて元気に暮らし、趣味を楽しんでいる人が多いな、ということが分かれば、データや数字で描かれた真実が見えてくる。地方に行って、その現場で実態をみてこそ、数字が生きてくる」と強調して、約50分の授業を締めくくった。

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プロフィール

三河主門

三河主門

2017年5月に日本経済新聞社を退社して独立。各種新聞・雑誌・ウェブメディアに記事を執筆しながら、フリーランスの編集者、メディア・リレーションのコンサルティングとしても活動している。日本最大の起業・開業・独立者向けポータルサイト「助っ人」(www.suke10.com)で編集長。17年11月に「Mikawa&Co.合同会社」を設立、中小企業・スタートアップベンチャーのためのPR(広報)コンサルティング、セミナーなどを手掛けるほか、教育関連コンテンツの製作も開始した。
日経記者時代は主に企業取材を担当。産業部(現・企業報道部)記者として長い経験がある。2007~10年にバンコク支局長として駐在した経験と人脈を生かし、タイのビジネス・社会・文化を研究・紹介する活動に長く携わる。


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