三河主門
林聖人
桃井美里

「VRは次代のコンテンツ」、アーケードスタイルを貫く老舗ゲームセンターの戦略【番外編②】

ポイント(この記事は3分で読み終わります)
  1. 常連客や女性らが来やすい環境づくりが必要
  2. VR施設のリスクは「回転率ダウン」

アミューズメントビル「ロサ会館」(東京・豊島)
動き出すVR
第6回【番外編】


タイトステーション池袋ロサ店

VR(仮想現実)エンターテインメントは今後、東京から地方へと広がっていく有力なコンテンツとして期待されており、多くのアミューズメント施設がVR機器の導入に前向きだとの調査結果もある。そんな中で、VRの導入を見送っている企業もある。池袋で50年間ランドマークとして存在しているアミューズメントビル「ロサ会館」(東京・豊島)だ。今は導入しないその狙いについて、ロサ会館を運営するロサラーンドの伊部知顕取締役に話を聞く機会を得た。

VRを導入することによって、最初は来店する客が増えるかもしれないが、明日もまた来るかというとわからない

伊部さんは近隣のアミューズメント施設にVRゲームが導入された後でも、ロサ会館にあるアミューズメント施設の収入に影響はでなかったと証言する。戦後すぐに西池袋で映画館「シネマ・ロサ」他を開業し、娯楽として大当たり。計4館にまで拡大した。1968年10月、稼いだ資金で池袋に8階建てのビルを建設し、日本で初めてとなる総合アミューズメント施設を開設。業界の先駆者として注目を集めた。

ビルの中には、映画館のほかにボウリング場やビリヤード場、飲食店などが入った。芸能関係者とのつながりも多く、かつては俳優の船越英二さんの割烹もあった。オープン直後は1階のテナントが思うように埋まらず苦労した。しかし、のちにタイトーを創業したミハエル・コーガン氏との出会いにより、空いていた1階に導入したのがゲームセンターだった。それが現在のタイトーステーションである。

1978年、タイトーが発売したアーケードゲーム「スペースインベーダー」が空前のブームとなり、ゲームセンターは隆盛を極めた。現在も、「電車でGO」などタイトーの人気ゲームのほか、麻雀やメダルゲームなどの昔ながらのコンテンツを楽しめるアミューズメント施設として利用されている。

常連客や女性らが来やすい環境づくりが必要


現在タイトーステーションの客層は高齢者やインバウンドの外国人観光客が増え、特に常連客は60代〜70代が多いという。高齢者の顧客にとって心地よい空間をつくるために、来店客にコーヒーをサービスするなどの工夫をしている。

「今日は〇〇さん、来てないですね」。そんな会話がスタッフや常連客の間で交わされる。「居心地を追求しながら、リピーターをしっかりつくって行く仕組みが大切」と伊部さんは強調する。さらに、ビリヤード場を禁煙にするなど、それまで少なかった女性顧客を取り込むための環境づくりを進めた。結果、子供や女性の客層が増えたという。
 

<タイトステーション池袋ロサ店の三木店長>女性ならではの気づかいが店内にも表れている


いい環境を作ればいい顧客が集まることを自身の経験から学んだ」と、伊部さんは振り返る。

どれだけ顧客のライフスタイルに組み入れられるかもカギだと伊部さんは説明する。例えば、毎週水曜日の午前10時になると、常連同士が集まってボウリングを楽しんでいるという。その後は一緒にランチに出かけるなど、常連客に習慣の一部として利用してもらう流れをつくっている。

フェイズブックなどのSNSに時間を使う人が増えている中、「ここだけの価値を提供していかないと顧客が来店してくれなくなる」(伊部さん)という危機感がある。
 

毎日来店する常連客もいるという

VR施設のリスクは「回転率ダウン」

VRアミューズメント機器の導入について、伊部さんはどう考えているのか。

「ゲームセンターは回転が勝負」(伊部さん)。スペースを取るVRを導入すると、全体に設置できるゲーム機器の数は減る。また、メインの客層である高齢者にとっては、ヘッドマウントディスプレーをつける作業自体が「面倒に感じるワンクッションになり、敬遠される可能性が高い」と伊部さんはみる。着脱に時間がかかり、回転率が下がることにもつながりかねない。
 

<ロサラーンドの伊部知顕取締役>

さらに、VRは「とにかくどんどんコンテンツを変え続ける必要がある」(伊部さん)。変え続けるためには、どうしても施設のオペレーション(運営)の負荷が大きくなる。新しいコンテンツを顧客が十分に楽しめるように、オペレーションを担当するスタッフの教育も必要になるからだ。

VRを使わなくても、従来のゲームコンテンツで他店との通信型の対抗イベントを開催することで、来店動機につながっている例もあるという。伊部さんは「新しいスタイルのアーケード型ゲームセンターをつくっていきたい」と語る。まだゲームセンターに来たことがない客層を開拓していきたいという考えだ。そのためには大きなフックが必要で、既存のやり方の延長だけではできない。それと同時に、ディズニーランドのような「大型アミューズメント施設にはない身近さを打ち出していきたい」と伊部さんは話す。

VR台頭という新しい次代の流れの中でも、アミューズメント業界が自らを盛り上げるために必要なカギは、まだまだ掘り起こされていない、というのが老舗ゲームセンターを運営するロサラーンドの見解のようだ。

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著者プロフィール

三河主門

2017年5月に日本経済新聞社を退社して独立。各種新聞・雑誌・ウェブメディアに記事を執筆しながら、フリーランスの編集者、メディア・リレーションのコンサルティングとしても活動している。17年11月に「Mikawa&Co.合同会社」を設立、中小企業・スタートアップベンチャーのためのPR(広報)コンサルティング、セミナーなどを手掛けるほか、教育関連コンテンツの製作も開始した。 日経記者時代は主に企業取材を担当。産業部(現・企業報道部)記者として長い経験がある。2007~10年にバンコク支局長として駐在した経験と人脈を生かし、タイのビジネス・社会・文化を研究・紹介する活動に長く携わる。

林聖人

フリーランスライター。 大学卒業後、商社で輸入品の流通事業に8年間携わる。 月100時間を超える残業や、生産性の低い働き方を続けることに疑問を抱き、2018年に「働き方」専門のライター・ジャーナリストとして独立。 また独立前に8つの副業を経験し、自身でも「副業」を専門テーマに実態調査や、情報発信をおこなう。 2017年から、日本最大の起業・開業・独立者向けポータルサイト「助っ人」(www.suke10.com)の編集チームで「働き方・副業」に関する記事を担当している。

桃井美里

2018年から、日本最大の起業・開業・独立者向けポータルサイト「助っ人」(www.suke10.com)の編集チームで、コラムを担当。 こども写真館「スタジオマリオ」の店長を経て「助っ人」編集部へ。 イラストや写真を用いて、難しく考えられがちな『起業』をもっと身近に感じることのできるコンテンツの発信に取り組む。 フリーのナレーター・MCとしても活動中。