150万戸のVR物件データを管理。不動産業界に革命を起こすナーブの挑戦
- 「不動産」と「VR」ライフスタイルにそったVR活用
- 旅行業界もVRで変わる?

【動き出すVRエンタメ⑤】
VR(仮想現実)を使ったサービスは、エンターテインメント業界だけにとどまらない。旅行、車、ウェディングなどの業界にも広がり続ける。そんな中、長年IT化が進んでいなかった不動産業界の課題をVRで解決している企業がある。VRの進化と普及によって、われわれのライフスタイルは今後どのように変化していくのか。
「買うが変わると、世界が変わる」――。そんな理念をかかげ、「情報で買う社会」を、「感覚で買う社会」へ変えようとしているスタートアップがある。VRコンテンツによる各種サービスを企業に提供しているナーブ(東京・千代田、多田英起社長)だ。手がけているVRサービスは、不動産、旅行、車、ウェディングなど、ライフスタイル分野の全般に広がろうとしている。
ナーブの主要サービスの一つが「VR内見」だ。あらかじめ不動産のVRデータを撮影し、クラウド上で管理することで、部屋の中や、建物の外側をリアルに体験することができる。
「現在は、数字でものを買う社会なんです」と多田社長はいう。
VRの説明をする多田社長
例えば、ある不動産物件を探している消費者は、広さが35平方メートルだという数字(情報)を基にして、購入する物件をイメージする。だが、本当に35平方メートルの広さを感覚的に理解している人は、どれだけいるだろう?数字の情報はいろいろとあふれているが、それだけでは理解しづらく、あまり意味のない情報も多い。そうした情報が「感覚で理解できれば、もっと豊かな社会になる」と多田社長は夢を描く。
「人がイメージする情報にはズレがある。正方形の7畳と、長細い9畳だと正方形の方が広く感じるが、説明が難しい。人間は体験したことでしか『感覚の物差し』をつくれない。VRで仮想体験することで、それらをより理解することができる」(多田社長)ナーブのVRサービスは、ゲームのようなエンターテインメント以外のライフスタイル分野で展開を目指しており、不動産、旅行、車、ウェディングなど多岐に渡る。その中で、マーケット開拓はもっとも進んでいるのが不動産業界だという。
360度部屋の中を見ることができる
ナーブと協力してVR内見の普及を進めているセキスイハイム不動産(東京・台東)は、「積不会」という販売業者のネットワークで、VR内見サービスを紹介している。積不会の会員で、すでにVR内見を導入している賃貸SHOPニチワ(東京・渋谷)の巣鴨営業所では、2018年1月~3月の成約件数は前年同期比で20%増えたという。実際の利用者からも「写真で見るよりも、部屋の内部のイメージが湧く」と評判だ。
VRを活用するメリットは大きい。例えば、賃貸に出る予定の部屋に、まだ人が住んでいる場合だ。これまでなら似たような形の部屋や、隣の部屋を案内してイメージを伝えることしかできなかった。だがVRを使えば、まだ人が住んでいる物件の「内見」も可能になる。部屋を実際に見ずに、VR内見だけで成約が決まる例もあったという。
不動産会社ではパソコンを使ってお客さんに説明を行う(田井営業部エンタープライズユニット長)
不動産会社にとっても、物件選定のピークである2~3月の繁忙期に、対応できる客数が増えたという利点も大きい。営業の人数は限られており、決められた時間の中で接客件数を増やさなければ制約につながらない。VR内見の利用によって移動時間がゼロになれば、検討できる物件の数も格段に増える。 このほか、VRの部屋を内見できることで「社員教育に使えた」など、予想していなかった使われ方も出てきた。
実際にVRを導入するまでの作業は大変だった。あらかじめ物件のデータを撮影してVR内に入れなければならないからだ。現在、ナーブは150万戸のデータをクラウド上で管理している。物件のデータを公開している会社はほかにはないが、「業界一の水準」と自負している。
ナーブによると、VR内見サービスを導入した不動産会社の成約率は、全体で5~10%程度は改善しているという。来店客数や購買の頻度、そして顧客満足度も高まった。
このような成果が数字として出るまでには、「5年かかった」と多田社長はいう。VRを導入した当初は、通常の業務が多忙なこともあってか、なかなか使われない問題もあった。システム自体の運用も100回以上、失敗。「こんなVRなんてサービスは使えない」とストレートにダメ出しされることもあった。その都度、地道に改善を繰り返して、「使えるようになるまで、仕組みづくりに耐えてきた」と、多田社長は振り返る。決して派手な改革ではない地味なアップデートをひたすら続けた結果、VR内見はいつの間にかなくてはならない便利なツールになっていた。
不動産物件の購入者や賃貸希望者にとっても、好みではない物件のスクリーニングにも役立つという。内見にわざわざ行って、ドアを開けた瞬間に「購入しない」と即断するような手間が省けるからだ。購入者側も多くの物件を見られるようになり、相場観にも詳しくなるというメリットもある。
もともとプロの不動産業者と購入者では不動産に対する理解度が違うが、VRという共通言語を足すことでお互いの意思疎通が深まるという。来店者がVRで見ている画面を、不動産の販売担当者がパソコンでも共有できる。「あれ」「これ」といった感覚的な言葉を使っても、顧客とのコミュニケーションが成り立つようになるのだ。実際に導入先の販売店から、ナーブに対して「売れない営業マンが売れるようになった」といったフィードバックもあったという。
VR内見のデバイス導入費用は1台あたり月額2万1000円。Wi-Fiがない環境でも、届いたその日から使えるという。不動産業界はITに慣れない人も多いが、そういった人でも抵抗なく使える工夫がされている。
不動産内見で使用するVRデバイス
「不動産屋に来る人はVRを体験しに来るわけではない。『あの箱みたいなメガネ、便利でよかったね』という感想を得られればそれでいい」と多田社長は言う。来店客が重たいヘッドギアで、髪型が崩れるのを嫌がる事も想定し、ヘッド部分に固定しなくてもいい形状になっている。
今後、同社は旅行分野でサービスを強化していくという。ホテルやビーチを事前に体験することを思い描いている。例えば、サイパンとグアムの違いを感覚で理解している人は少ない。その違いは何回も行った人でないとわからない。VRであれば、それらの違いを体験したうえで、どちらに行くか決めることができる。「VRを見ないで旅行するのはあり得ない社会をつくっていきたい」と多田社長。さらに、ANAホールディングスと提携しての「バーチャルトリップ事業」にも着手したほか、今年4月23日にはエアビーアンドビー(Airbnb)ジャパンとの業務提携も発表した。
「VRの領域は広い。ナーブがやっていることはVR業界のほんの一部。世界のVR市場は2020年に15兆円になるといわれていて、音楽マーケットが10個入るくらいのサイズ。しかも、開拓されていない分野はまだまだある。教育業界やドローンとの連携など、VRの可能性はもっともっとたくさんある」。次々と事業構想を語る多田社長の目は、遠く未来を見すえていた。
イラスト・桃井美里
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