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事業承継とは後継者に事業を引き継がせることです。一般的には親族内から後継者を選ぶことを「事業承継」と呼び、M&Aなどで第三者へと事業権を委譲する場合には「事業譲渡」と呼んで区別しています。
そこで、今回は特に事業承継に着目し、引継ぎまでの具体的な実務と事業承継のメリット・デメリットなどについて紹介します。
事業承継の主な流れを紹介!ポイントはできるだけ早めに実行に移すことです
事業承継の最初のステップは後継者の決定です。後継者は一般的に親族の中から選ばれることが多くなっています。この場合、後継者が従業員ならばスムーズな引継ぎも可能ですが、そうでない場合は、後継者が実務経験を積む期間を設けることも必要です。また、経営者は跡を継いでくれるものと考えていても、本人にその意思がない場合も考えておかなくてはなりません。
こうした様々なケースを想定し、事業承継の意思はできるだけ早めに候補者に伝えることが大切です。事業引退間際になってから、事業承継がスムーズにできなかった場合、社内は大混乱に陥ります。こうしたトラブルを回避するためにも、後継者選びは余裕をもって始めましょう。
無事に後継者の指名ができたら、まずは従業員にその旨を伝達しましょう。続いて、取引先や金融機関などにも後継者が決定したことを報告しておきます。この報告もできるだけ速やかにすることが大切です。特に中小企業の仕事は、人間関係などで成り立っている部分も多いので、後継者がスムーズに事業を引き継げるよう、取引先などへの紹介は経営者自らが率先して行うことが大切です。
後継者の指名後は事業承継の具体的な手続きへと移行します。まず、会社の権利を生前に譲渡する場合は生前贈与、亡くなった後にと考えている場合は遺言書を作成することになります。生前贈与の際に必要な贈与契約書や死後に譲渡する際に必要となる遺言書は、弁護士事務所や司法書士事務所などで作成することが可能です。
この贈与契約書や遺言書は、会社や他の親族の資産にも関わる非常に重要な書類です。ここで決める内容は、後々にトラブルの原因ともなりやすい部分なので、作成のときには専門家のアドバイスを参考に、親族や関係者ともよく話し合ってから決めるようにします。
事業承継にかかる書類の作成が終了した後は、取引先や金融機関と交わした保証や担保の名義変更を行います。こうした保証や担保などの名義はビジネスに直結する大切な部分なので、全ての名義の引継ぎは確実に実行しましょう。
名義の引継ぎが完了した後は、贈与契約書や遺言書にサインして正式に事業承継の手続きをします。
以上が事業承継のおもな流れです。事業承継を円滑に行うポイントは早目の準備となっています。多くの人の財産や生活にも関わることなので、将来的に事業承継を考えている人は、早めに専門家のアドバイスを仰いでおきましょう。
事業承継のメリットとは!素早い引継ぎで得られる効果に注目
事業承継の第1のメリットは事業の引継ぎを比較的スムーズに進めやすい点です。企業トップの交代はオーナーだけの問題ではありません。従業員はもちろんのこと取引先や金融機関にも十分な説明が必要となります。こうしたときに次の後継者がトップの親族であれば、従業員や社外の取引先も心理的に受け入れやすくなるため、引継ぎを受け入れてもらいやすくなるのです。
事業の引継ぎがスムーズに進むかどうかは、その後の営業に影響する重大な事柄です。取引先や金融機関も関心を寄せるトップの交代を、スピーディーに処理できるのが事業承継の大きなメリットだといえるでしょう。
第2のメリットは後継者の育成に十分な時間を用意できる点です。事業を引き継ぐ後継者探しには通常かなりの時間を要しますが、もし親族の中から有望な後継者を見つけることができれば、後継者探しにかかる膨大な時間を大幅に短縮できます。この短縮した時間を育成期間に充てれば、企業運営のノウハウや事業理念などもしっかりと後継者に伝えることが可能です。
後継者の育成はその後の事業の命運を左右します。このような企業の最重要課題にしっかりと取り組めるのも事業承継の大きなメリットです。
第3のメリットは自身の死後に発生するかもしれない相続問題に生前から取り組めることです。会社のオーナーが逝去した場合には親権者に会社の権利が移りますが、こうした場合に何の準備もなければ、相続をめぐって親族間で争いが発生する可能性も出てきます。しかし、事業承継を行っておけば、株式や事業用資産を後継者にすべて残すことも可能となるため、大切な会社が相続問題に巻き込まれるのを防げる可能性が高くなります。
事業を相続する権利は後継者以外の親族にもあります。これらの問題を生前にクリアにしておけるのも事業継承の大きなポイントです。
事業承継にはデメリットも!発生しうる問題は事前にチェックしておきましょう
事業承継のデメリットは後継者に必ずしも経営者としての資質が備わっているとは限らない点です。この場合には従業員や取引先から見限られて廃業へと追い込まれることもあり得ます。
また、身内に事業を譲る事業承継は、従業員や取引先から会社を私物化していると受け止められやすいのも難点です。こうなるとたとえ後継者がやる気と資質に溢れた人であったとしても、会社の運営がまるでうまくいかなくなる可能性も出てきます。このように選べる人材が限られてしまうというのが事業承継の大きなデメリットの一つです。
また、会社の経営権を1人の後継者に集中させた場合、他の親族から不満が噴出する可能性もあります。こうした問題の解決は往々にして難しく、相続トラブルの火種となることが少なくありません。
このような争いを避けるためには生前に相続の除外合意や固定合意などを親族全体から取りつけておく必要があります。しかし、これらの合意は法定相続人全ての合意が必要となるなど、かなりハードルの高い方法です。このように相続問題が絡むと、途端に難しくなってしまうのが事業承継のネックだといって良いでしょう。
さらに、事業承継で1人の後継者に経営資源を集中する場合、他の親族にはそれに見合うだけの遺留分を用意しなくてなりません。例えば、他の親族へ生前贈与を利用して財産を分ける方法があります。ただ、こういった生前贈与は国税当局からマークされやすくなるので注意が必要です。税務調査が入ると取引先や金融機関からの目は一気に厳しくなります。
このように事業承継では、税務関係のトラブルが発生しやすいのも大きなデメリットとなっています。
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