事業承継時に納税しなくてはならない税金とその対策は?

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事業承継には相続と贈与があり、そのどちらの場合でも税金が課されます。特に経営資金の少ない中小企業にとっては、承継時の納税額は少なくしたいものです。

事業承継時にはどのような税金がかかるのでしょうか。また、それらを節税する方法と、平成30年に実施された法改正で適用されやすくなった事業承継税制について解説します。

事業承継時にかかる税金

事業承継後に多額の税金を納めることになると、経営資金が減少し、承継後の安定的な経営が難しくなる場合があります。特に中小企業では税金の支払いが経営を圧迫する可能性が高いです。事業承継時は主に相続税と贈与税が発生します。経営者が亡くなってから事業を承継する場合は相続税、生前に株式を贈与した場合は贈与税の支払いが必要になります。

まず、相続税は事業承継でも個人で相続する時と税率が同じです。この税率は税務署が公開しているため、計算は簡単にできます。しかし、株価が明確でない非上場株式の場合は、相続開始時点での評価額を算出することが必要です。ですが、この評価額を正確に算出するには、企業を多角的に評価しなくてはならないため、非常に手間がかかります。

また、相続税を減らすには、あらかじめ現金を不動産に変えておくことが有効です。不動産は相続税の評価額が低いので、同じ金額分でも評価額を減らせます。

一方、贈与税は、株式の贈与税率が高いことがデメリットですが、贈与税には控除があり、110万円分以下を贈与することで節税ができます。さらに、株価が低くなったタイミングを狙って贈与を進めていくことで節税になりますが、承継にかかる期間が長くなりがちなのがネックです。

なお、被相続人が亡くなる3年前までに行なわれた贈与分に対しては相続税が課されることに注意しましょう。節税のためには、被相続人が健康であるうちに計画的に贈与を進めていく必要があります。

そこで、節税対策として利用されるのが平成30年に改正された事業承継税制です。

事業承継税制とは

中小企業の事業承継時に、非上場株式に多額の相続税が課税されると、円滑な事業承継が難しくなります。この問題を解決するために、特例として非上場株式にかかる相続税の納税を猶予してもらえる事業承継税制があり、別名「相続税の納税猶予」とも言います。言葉の通り納税を猶予してもらえるだけで、免除されるのではありませんが、相続税を節税できるというメリットがあります。

ただし、この制度が適用されるにはいくつかの条件を満たすことが必要です。

まず、相続の開始から8ヶ月以内に、都道府県知事の認定を受けるための申請をしなくてはなりません。相続税の申告期限は10ヶ月ですが、それまでに認定を受けるために、早い段階での申請が必要です。申請は、中小企業庁のホームページで「事業承継税制に係る認定等の申請様式」から、必要な申告書をダウンロードできます。

次に、被相続人が会社の代表権を持っており、相続開始前に50%以上の議決権を保有していたこと、加えて相続人が相続開始から5ヶ月経過までの期間に会社の代表権を持ち、相続開始時に50%以上の議決権を保有していることも事業承継税制を受ける要件です。つまり、後継者が5ヶ月以内に決まらない場合、事業承継税制は適用されません。なおかつ、担保を提供する必要もあり、通常は非上場株式のすべてを担保に提供するのが一般的です。

なお、事業承継税制は、「上場企業」「中小企業者に該当しない会社」「風俗営業会社」「資産管理会社」「総収入金額、従業員数がゼロの会社」では利用できません。中小企業の基準は中小企業庁に記載があり、この基準に該当しなければ事業承継税制は適用されないのです。

事業承継税制で納税猶予を受けるメリットはなんと言っても相続税の節税になることでしょう。非上場株式は換金が難しく、相続税が課せられても納税できない事態に陥ることがあります。こうした場合に受けられる事業承継税制は会社を円滑に承継する上で有益な措置と言えるでしょう。

さらに、猶予を取り消されることなく会社経営を続けていくことで、半永久的に相続税が猶予されるので、実質的に免除と言える状況にもなります。

一方で、事業承継税制は打ち切られることがあり、打ち切られるとこれまで猶予されていた相続税を一括で納税しなくてはなりません。また、猶予されていた期間分の利子税もかかります。

事業承継税制を打ち切られる事由は多々ありますが、主な事由としては後継者が代表でなくなった場合や、後継者が同族内で筆頭株主でなくなった場合、減資した場合、会社が解散した場合(合併による解散は打ち切り事由とはなりません)、そして継続届出書を提出し忘れた場合などが挙げられます。

平成30年に事業承継税制が改正された部分

事業承継税制という制度自体は平成21年からありました。しかし、これまでは制約が多く、ほとんどの中小企業で使いづらい制度だったのです。現在、中小企業経営者の多くは団塊の世代で、事業承継を考えなくてはならない時期に突入しています。

事業承継が進まない現状は社会問題となっており、このまま事業承継が進まず中小企業が解散していくと、多くの雇用とGDPが喪失します。平成30年の事業承継税制の改正は、事業承継を後押しする狙いがあり、旧来の制度と比較すると事業承継をするメリットが大きくなっています。

改正前と改正後では、複数の変更点がありますが、まずは代表者の数です。改正前は、代表となる後継者は1人まででしたが、改正後には3人まで認められるようになりました。そして、猶予対象の株式は、発行済の3分の2のみだったのが、改正後は取得したすべての株式について猶予対象となり、猶予割合も80%から100%に増えています。

さらに、改正後、株式の取得先は代表者以外からの承継でも認められるようになりました。 また、改正前は、5年間は相続時の雇用の8割を維持することも要件でしたが、改正後は理由を明記の上所定の書類を提出すれば猶予を打ち切られなくなりました。

中小企業では人手不足が深刻で、雇用の8割を確保するのは満たすのが難しい要件の1つでした。しかも、この要件を満たさなくなると猶予されていた相続税を一括で納めなくてはいけなかったのです。中小企業経営者を悩ませていたこの従業員数の問題が解決されたことで事業承継税制を利用するハードルがさらに低くなりました。

この事業承継税制の適用は、令和9年12月31日までの間に相続された株式に適用されます。適用要件が大幅に緩和されたので、多くの自社株を保有する中小企業経営者には事業承継のまたとない機会と言えるでしょう。

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