【2027年末までの10年間がお得】個人の事業承継における新たな税制優遇制度について

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事業承継に関して、企業経営者が抱える悩みの一つには、後継者に事業を引き継ぐ際に発生する、贈与税や相続税といった、多額の税負担があるでしょう。2018年、政府は、中小企業における経営者の高齢化を背景に、事業承継に対し、2027年末までの税制優遇措置として、贈与・相続にかかる税負担を軽減する特例措置を新たに設けました。

ここでは、この特例措置について詳しく確認してみましょう。

特例措置が設けられた背景

中小企業における後継者不足を背景に、中小企業経営者の間では、高齢化が深刻化しています。こうした中、後継者を得ることができずに廃業に追い込まれる中小企業は後を絶ちません。そうした状況が放置されれば、日本社会全体における少子高齢化とも相まって、事態はますます悪化することでしょう。

こうした事態に歯止めをかけ、そのような危機的状況に置かれる中小企業を救い、存続させるためには、現在の経営者からその後継者へと、円滑に事業承継がなされる必要があります。

しかし、事業承継に際して、後継者が、非上場株式を相続や贈与により引き継ぐと、多額の贈与税や相続税が発生します。そうすると、多額の税負担を敬遠した中小企業経営者が、ますます廃業の途を選んでしまうということにもなりかねません。日本の企業の大部分を占め、日本経済を支えている中小企業が立ち行かなくなることは、日本経済そのものにとって大きな損失となります。

そのため、政府は、中小企業における事業承継の障壁を取り除き、後継者不足の危機を解消するという課題に取り組むことを迫られました。

すでに、日本では、中小企業の経営者が保有する非上場株式を後継者が贈与や相続により取得する場合には、その後継者が納付すべき贈与税や相続税の納付が猶予され、その後、一定要件を満たしつつ、先代経営者または後継者が死亡した場合には、納税が猶予されていた税金が免除されるという事業承継税制が採用されていました。

これに加えて、政府は、以上のような背景のもとで、中小企業における事業承継の障壁を取り除き、後継者不足の危機を解消するという課題を解決するために、事業承継に関する新たな税制優遇政策を設けたのです。それが、冒頭で紹介した特例措置です。

事業承継時の税負担をゼロに

特例措置が導入されるまでの事業承継税制のもとでは、納税猶予の対象となる非上場株式には制限が加えられていました。すなわち、承継される総株式数の3分の2までが猶予の対象とされ、残りの3分の1は猶予の対象外とされていました。

また、猶予される納税額の割合も、80パーセントにとどまり、20パーセント分については事業承継時に納税しなければならなかったのです。そのため、事業承継の際に、相当の額の税金を支払うことが避けられないという状況にありました。

このような多額の税負担が、事業承継の妨げとなっていたことには疑いがありません。 そこで、新たに導入された特例措置のもとでは、こうした制約が撤廃されました。つまり、承継される全株式と、納税額の100パーセントが猶予の対象となり、事業承継にかかる贈与税・相続税の全てについて猶予を受けることができるようになったのです。

これにより、事業承継時の税負担をゼロにすることが可能となりました。 しかも、後継者により、一定の条件を満たしながら経営が継続されれば、その後も猶予を半永久的に受け続けることができ、事業承継にかかる税負担そのものをゼロにすることが可能になったと言えます。

この事から、事業承継に伴う最も大きな障害の一つが解消されたのです。したがって、この特例措置は、非常にお得な制度であるといえるでしょう。

猶予後の雇用維持要件の緩和

特例措置が導入されるまでの事業承継税制のもとでは、税制面での優遇を受ける条件として、事業承継時から5年間、平均8割以上の雇用を維持しなければなりませんでした。しかも、雇用を維持することができなかった場合には、猶予を打ち切られ、猶予されていた税金を支払わなければならないことになっていたのです。

経済産業省の外局として設置され、中小企業の育成、発展に関する事務などを所掌する中小企業庁は、そのことが中小企業経営者らによる制度利用の委縮を招き、制度の実効性が損なわれていたと分析しています。

そこで、特例措置のもとでは、優遇措置の利用を促進するために、後継者が事業承継後に8割の雇用を維持することができない場合には、都道府県知事に対して、雇用を維持できない理由を記載した報告書を提出し、その確認を受ければ、引き続き、猶予を受け続けることができるというものに改められました。

これにより、優遇措置を受けた後の経営状態の変動への懸念は、制度の利用を躊躇する要因としては極めて小さいものになったと言えます。

廃業時点での納税額の再計算と差額の減免

特例措置が導入されるまでの事業承継税制のもとでは、事業承継後に、後継者が株式を売却したり、会社が合併・廃業したりした場合には、納税猶予は打ち切られ、承継当時の本来の相続税額または贈与税額を納付することが求められました。このことも、税制優遇を受けた後の経営状態の変化を懸念する企業経営者らに、事業承継税制の利用を躊躇させる原因となっていたのです。

そこで、この特例措置でのもとは、一定の要件を満たす場合には、廃業等の時点での株価により、税額が再計算され、承継当時の税額との間の差額分の免除を受けることができるようになりました。

2027年末までがチャンス!

他にも、この特例措置のもとでは、税制優遇を受ける上での様々な要件の緩和がなされています。例えば、中小企業の実状にあわせて、多様な事業承継を支援するために、優遇措置の適用対象となる後継者の数については、従来は1人しか認められなかったのに対し、特例措置のもとでは、最大3人まで認められるようになりました。

また、事業を譲り渡す先代の経営者についても、代表権を有する1人の者に限られていましたが、親族外からの複数の株主からの承継が、優遇措置の対象に加えられたのです。 後継者への事業の引継ぎを考えている中小企業経営者にとっては、この特例措置が設けられている2027末年までが、お得に事業承継を行うチャンスと言えるでしょう。

ただし、この特例措置を受ける条件として、2023年3月までに、事前の計画書を作成することが求められる点に注意が必要です。

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