事業承継を行うときにどのように会社法を活用すればいい?

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「会社法を用いて事業承継を行いたいがどうすればいいのかわからない」という経営者はいるでしょう。

ここでは、誰を後継者にするかは決まったものの、会社の経営権をどう引き継ぐのかまで決めていない人に対して、会社法を活用した事業承継の方法を紹介します。後継者に自社株を引き継ぐには会社法が重要になってきますので、しっかり内容を把握しておきましょう。

そもそも会社法って何?

会社法とは、簡単にいうと会社に関するありとあらゆる規則を法律としてまとめたものです。つまり、会社の設立や解散、組織運営や資金調達などを行う際に守らなければならないルールがまとまった法律ということです。

例えば、会社法の中のひとつに、株式会社を設立する際には、設立手続きを進める発起人は、取締役を選任しなければならないといったルールがあります。会社法の条文は、全部で979条もあるので、全ての条文を覚えるのは非現実的です。しかし、会社を経営するのであれば、会社法は知識として蓄えておかなければならないものですので、最低でも必要なものは把握しておくようにしましょう。

会社には株式会社と持株会社のふたつがあり、会社法にはそれぞれに対応した条文があります。株式会社ならば、会社の設立や株式の発行、会計方法、取締役期間の設置や解散など経営の中心となる部分が記載された第2編を、持株会社ならば合名会社、合資会社、合同会社に関する規定が定められた第3編は把握しておくほうがいいでしょう。

また、会社組織の再編や変更、合併や会社分割、株式交換や株式移転などの手続きに関する条文が記載された第5編と、株式会社の解散命令や、訴訟、非訟、登記、公告に関する条文が記載された第7編も目を通しておく必要があります。

事業承継をする場合に会社法を活用したほうがいい

会社法を利用することで、後継者に自社株を引き継ぎやすくなりました。会社法を利用せずに事業承継を行うと、後継者に議決権を集中させることができずに、意図していない人に会社の経営権を奪われることもあります。また、株式が自由に売り買いされ、株式が分散し経営が不安定になることも充分考えられます。

そこで、後継者に自社株を譲渡したいときに会社法を用いるのです。会社法を活用することで、種類株式や属人的株式を発行することができ、後継者に議決権を集中させ経営の安定化を図ることができます。

ちなみに、自社株が高額の場合は、株式を生前贈与すると後継者にかかる税金の負担が極めて大きくなってしまうので、後継者に経営権を確実に相続しながら税金対策をするために遺言書を作成し死後贈与にするといいでしょう。

種類株式を発行しよう

種類株式とは、会社法108条に基づいて、株式会社が剰余金の配当とそれとは異なる権利を付与した株式のことをいいます。例えば、剰余金の配当を受け取る権利はあるが株主総会の議決権がないというような種類株式があり、この種類株式を取得した人は、配当金はもらえるが会社の方針に口出しはできないということになります。

このような議決権を付与していない種類株式や取締役・監査役の選任・解任に関する権限を付与した種類株式などを発行することで、株主の中でも優位な人と劣位な人の線引きをすることができます。

議決権の優劣をつけることも重要ですが、定款で全ての株式に譲渡制限を設定し、株式が自由に売買されないようにしておくこともポイントです。非公開会社にすることで、株式の分散を防ぐことができ、経営を安定させることができるからです。

属人的株式を発行しよう

種類株式とは別に属人的株式の発行も行っておきましょう。属人的株式とは、持株数にかかわらず株主ごとに剰余金の配当を受ける権利や残余財産の分配を受ける権利、株主総会における議決権が付与された株式のことです。

属人的株式の優れた点は、登記を必要とせず定款で決めるのみで成立するため、第3者が誰がどのような属人的株式を取得しているのかを知ることができないという点です。属人的株式は、非公開会社でのみ発行することができるので、種類株式を発行する際には、必ず全ての株式に譲渡制限を設けるようにしておきましょう。

属人的株式を発行するには、株主ごとに異なる取り扱いをするという内容を定款で決める必要があります。後継者が持つ1株に多数の議決権を付与して、持株が多い株主よりも後継者に議決権を集中させることがポイントです。また、経営に参加させたくない相続人には、議決権を制限した株式を取得させることで、株主の中でも劣位にさせることもできます。

議決権制限株式は非公開会社の場合、発行数に上限がないので、権限を持たせたくない人の分を用意することが可能です。 そして、定款で議決権制限株式を取得した人にその株式を会社に売り渡すように請求することができるということを決めておけば、強制的に株式を買い取ることもできます。

但し、株式の売り渡しを請求する際には、その度に株主総会の特別決議で株式の種類や数と株式を持つ人の名前や名称を決議しなければなりません。また、事業の相続や一般承継があったことを当人が知った日から1年以内でなければ、売り渡しを請求することができないことも把握しておきましょう。

遺言書を作成しよう

遺言書は、後継者に自社株や不動産などの資産を円滑に引き継ぐために重要です。後継者が遺族間に複数いる場合は、トラブルになる可能性があるからです。

遺言書を作成する方法は、自筆証書遺言と公正証書遺言、秘密証書遺言の3パターンあります。

遺言者が自筆した上で押印して作成する自筆証書遺言は、書き方を間違えれば無効になることもあり、相続人に偽造される可能性があるので、管理にリスクが伴います。

公正証書遺言は、遺言者が公証人に遺言書の作成と保管を依頼する方法で、秘密証書遺言は遺言者自身が作成した遺言書を公証人に保管してもらう方法です。 公正証書遺言と秘密証書遺言は、盗難や偽造の心配もなく、特に公正証書遺言は専門家が作成するため無効になることもありません。どちらも費用がかかってしまいますが、管理や効果の確実性を考えると公正証書遺言が最も安心なのではないでしょうか。

しかし、注意しなければならないのは遺言書を作成する時期です。あまりにも作成が早すぎると、作成したころと相続するころでは状況が大きく変化していることがあります。相続する予定だった後継者が相続を放棄している場合や他界している場合など、遺言書の内容に沿えない状況になっていれば効果が発揮できません。

遺言者が亡くなってからでは遺言書の内容を訂正することができないため、小まめに遺言書の内容は更新しておきましょう。

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