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事業承継において、後継者が自社の非上場株式を贈与・相続する際、多額の贈与税や相続税が発生します。この税の納付を猶予する制度が「事業承継税制」です。平成30年度の税制改正でさまざまな点が変更されました。
そこで今回は、事業承継税制の改正における変更点や、メリット・デメリット、制度を利用するための条件などを解説します。
事業承継税制の改正により生まれるメリットとデメリット
平成30年度に「事業承継制度」の改正が行われました。これにより、税制を活用できる中小企業の範囲が広がり、より負担を軽減しながらスムーズに事業承継を行うことが可能になります。
ただし、税制の改正にはメリットだけでなく、デメリットもあることを忘れてはいけません。デメリットを考慮せず制度を利用すると、かえって大きな負担が生じてしまう可能性もあります。
税制改正にともなうメリットとデメリット、両方を理解したうえで、有効に制度を活用していくことが大切です。
事業承継税制の概要
事業承継を行う場合、後継者が経営者から自社株式の贈与・相続を受けることにより、多額の贈与税や相続税が発生し、後継者への大きな負担となることがあります。事業を承継する際はさまざまな費用がかさむため、できる限り金銭的な負担を軽減することが、事業承継をスムーズに行ううえで重要なポイントになります。
そのような事業承継時の税負担の軽減を目的とし、定められたのが「事業承継税制」です。制度を利用することで、事業承継を行う際に発生する贈与税や相続税の納付の猶予を受けられます。
なお、制度を利用するには、さまざまな条件の適用範囲内であることが必要です。
事業承継税制の改正による変更点
平成30年度に税制改正により、それまでの措置から変更されたさまざまなポイントがあります。
例えば、一般措置では納付猶予の対象とできるのは、総株式数の最大3分の2まででしたが、改正後の特例措置では全株式が対象となります。また、納税猶予の税額の割合も、一般措置では贈与が100%、相続が80%でしたが、改正後の特例措置では贈与税・相続税ともに100%の税額額の猶予が可能です。
また、雇用確保要件に関しては、改正前は承継後5年間において、平均8割の雇用維持が必要でしたが、改正後は要件の弾力化がされています。また、事業の継続が困難な事由が生じた場合の免除措置も新たにもうけられています。
このような変更点は改正前より、メリットの大きい部分であると言えるでしょう。 ただし、改正後の事業承継税制には、注意しなければならない点もあります。
今回の税制改正はあくまで10年間の措置であり、適用期限は制度改正から10年以内の贈与・相続などにのみ適用されることになります。10年の措置期間を過ぎても、改正後の特例措置が継続されることが保障されているわけではないことを、念頭におく必要があります。
また、納税は免除されるわけではなく、あくまで猶予です。納付が猶予される状態を継続的に維持できれば、実質免除のようなものとも考えられますが、猶予が認められない状態になれば、贈与税や相続税を納付しなければなりません。一括で全額納付が求められるほか、猶予期間分の利子も払う必要があります。
特例措置は納付猶予になる範囲や割合が大きいというメリットがありますが、その分もしも猶予の状態がなくなれば、大きな金額を納付する必要が発生することも留意しておかなければならないでしょう。
事業承継税制を受けるための4つの条件
事業承継税制を受けるためには、さまざまな適用条件をクリアしている必要があります。そこで、4つの主な条件について説明します。
対象となる経営者と後継者の条件
改正前は、承継パターンが「複数の株主から1人の後継者」であったところ、改正により「複数の株主から最大3人の後継者」に変更されました。
また、相続時精算課税の適用に関して、改正前は60歳以上の者から20歳以上の推定相続人や孫に贈与する場合という範囲の限定がありましたが、改正後は60歳以上の者から20歳以上の者への贈与と、範囲が大幅に広がっています。これによって、例えば娘婿を後継者にする際や、外部から後継者を招聘する際も、納税猶予を受けることができるため、より多くの中小企業が事業承継の負担を減らすことができます。
対象となる中小企業の条件 事業承継税制は「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(経営承継円滑化法)の認定を受けている非上場会社の事業承継にかかるものです。この点に関しては、改正前も改正後も変更はありません。
事業継続に関する条件 一般措置では不要でしたが、特例措置では5年以内の特例承継計画の提出が求められます。認定支援機関の確認を受けたうえで、2023年3月31日まで都道府県知事に提出し確認を受けることが必要です。
相続税などの免除に関する条件 改正後の事業承継税制では、事業の継続が困難な事由が生じた場合、免除の措置を受けることが可能です。主な事由としては、後継者がなくなった場合や、経営承継期間の経過後に「免除対象贈与」を行った場合などが挙げられます。
ただし、5年以内に後継者が代表でなくなった場合や、後継者が取得した株式を他人への譲渡などで手放した場合など、納税猶予の打ち切り対象の事由が発生した場合は、税額の一括納付及び利子の納付を求められます。
事業承継税制の改正にかかるデメリットとは
それでは、事業承継税制を改正することに関するデメリットを最後にご紹介します。
税制改正に明るい専門家が少ない 事業承継税制はメリットが大きい制度ですが、適用条件などが複雑な部分もあり、経営者や後継者が自分たちだけで制度のすみずみまで理解し、制度を利用するための手続きなどを全て行うのはやや難しいところもあります。そのため、事業承継や経営支援の専門家のサポートを受けながら、制度を活用するという方法がスムーズです。
ただし、平成30年度の税制改正がなされ、制度の幅がより広がったと同時に、より複雑になった部分もあります。このことによって、税制改正のすみずみまで明るい、改正税制の知見が豊富な専門家が少ないというデメリットがあります。
どんなに便利な制度でも、十分に活用できなければ負担を減らすことはできません。また、事業承継税制は、申請期限が決まっているため、時期を逸せず手続きをする必要もあります。事業承継税制に関する記事や資料から情報を収集するとともに、手厚いサポートをしてくれる専門家を探し、有効に税制を活用しましょう。
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