事業承継はいつ実行すればいいのか、適切となる3つのタイミング

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事業承継をする場合は後継者の育成だけでなく、それをいつ実施するのかというタイミングもまた考慮しなければいけません。業種や業績によって適切なタイミングは若干変化はするものの、適切なタイミングにはある程度は共通点があります。それはどんなときなのでしょうか。

今回は、事業承継をする上で適切なタイミングを3つほど紹介します。

後継者の年齢が若い時

事業承継をうまく実行したい場合は後継者の年齢が重要となります。できる限り後継者が40代のうちに事業承継を完了するようにするといいでしょう。仕事への意欲は年齢によって変化する性質があり、一般的には40歳から49歳のときが最も仕事への意欲が高いのが特徴です。そのため、後継者が40代のときに事業承継すると、その後の経営がうまくいく可能性が高くなります。

これに対して、50代を過ぎてからの事業を引き継がせると、後継者は「もっと若い時から事業を任せてほしかった」と思うようになり、40代と比較して仕事へのモチベーションが下がってしまい、事業承継自体が失敗する恐れがあります。

また、後継者の年齢だけでなく、経営者側の年齢も考慮しなければいけません。経営者が事業承継を考えるようになるのは60代から80代と年齢にばらつきがありますが、今後のことも考えて60代など早いうちから事業承継をおこなうようにしましょう。

その理由は経営者の考え方にあります。若いときには多少無理をしても仕事に支障はでませんが、年を取るほどに体が衰えて昔のように仕事ができなくなることから、「経営者を辞めたい」や「今おこなっている事業を縮小したい」などのネガティブな思考が出てしまうことがあります。

ネガティブな思考が後継者や社員たちに伝わると企業の運営に何かしらの支障がでる場合があるので、各自のモチベーションを維持するためにも早い段階で事業承継をするようにしましょう。

なお、事業承継はすぐにできるものではありません。どんなに後継者の能力が優れていたとしても5年から10年の期間が必要となります。そのため、ある程度計画を立ててから事業承継をすることが必要です。

後継者が事業を任せるのにふさわしい人物になったとき

事業承継のタイミングは年齢だけではありません。「事業承継するにふさわしい人物になった」と思えるようになったときもまた適切なタイミングとなります。経営者は企業で最も重要なポジションにいるため、決断力や交渉力など様々なスキルが求められるのですが、スキル以外にも持っておきたい要素があります。

その1つが「企業の経営理念を共有している」ということです。企業とはただ利益を上げるだけの集団ではありません。社会に対して何かしらの役割を持ちその役割を果たす必要があります。そのために必要なのが経営理念です。それが後継者にも共有されていないと企業の社会的役割が不明確になり、企業自体が瓦解してしまう恐れがあります。

必要な要素の2つ目は「社員たちから認められていること」です。企業は経営者だけでなく、その下にいる社員たちがいることによって成り立っています。

そのため後継者は現在の経営者だけでなく、これから一緒に働く社員たちからも「新しい経営者」として認められなければいけません。認められないまま事業承継をしてしまうと社員たちの不信を招いてしまい、大量離職といった良くないことが起きる可能性があるので気をつけましょう。

3つ目の要素は「経営者としての自覚があるか」ということです。事業を引き継がせる際は、後継者の能力だけでなく、態度なども注意深く観察するようにしましょう。「自分がこれからこの会社を引っ張っていく」という意識を持っているのか、あるいは「仕方なく後継者をやらされている」など、後継者がどのような意識を持って仕事をしているのかを見分ける必要があります。

後継者の心の中に経営者としての自覚があれば、その後の経営は問題ないですが、自覚がないまま任せてしまうと、何もしなくなってしまうなどの問題を引き起こすことがあります。仕事の様子をつぶさに観察して、後継者の態度を見分けるようにしましょう。

経営がある程度安定しているときに事業承継をおこなう

事業承継は後継者の能力や意欲だけでなく、企業の経営状況にも注意が必要です。基本的には「業績が安定しているとき」に事業承継をおこなうようにしましょう。その理由は「経営者が交代した直後は一時的に経営が不安定になってしまう」からです。

経営者が変わるということは企業に大きな変化を与えることになります。仕事の関係者の中には現在の経営者のことを信頼しているからこそ仕事をくれる取引先や、発注費用を値引きしてくれる企業などもあるでしょう。

新しい人物が経営者になると、現在の経営者の信頼によって成り立っていたものが一旦白紙になります。すると、仕事が減ったり、仕入原価が増加したりと経営に何かしらの問題が発生する可能性があるのです。 ただし、この現象は一時的なものであり、後継者もしっかりと自分の責務をこなしていけば周囲からの信頼が得られ、次第に経営が安定していくでしょう。

その信頼を得るまでの期間を持ちこたえられるようするためにも、業績が安定した時を見計らって事業承継をおこなうことが大切になります。

さらに、業績が安定しているときに事業承継をするのにはもう一つ理由があり、それが「社員たちのモチベーションを維持するため」です。

業績不振だから経営者自ら辞任をするというのは、業績不振の企業ではよくある光景かもしれません。ですが、こうした状況で事業承継をすると、残された社員たちは「自分たちがこれから苦しい思いをするのに、経営者はそれが嫌で去っていった」などと思うようになり、企業に対して非協力的になってしまう場合があります。

たとえ後継者が優れた能力を持っていたとしても社員たちの協力なくしては業績不振の克服はできません。そのため、業績が良くない状態での事業承継はなるべく避けるようにしましょう。

これに対して、ある程度業績が安定した状態で事業承継をした場合は、「経営者は勝手にやめた」と社員たちが認識してしまうことはありません。それどころか「より事業の拡大をするのだな」「若い経営者になって事業が更に良くなるかもしれない」などと好意的に受け止めてくれて仕事へのモチベーションが上る可能性が考えられます。

ですので、事業承継をする場合はなるべく業績が安定している状況を見計らって実施するようにしましょう。

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