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事業承継を成功させるためには、入念な計画を立てることや、その計画をスピーディに実行に移すことが非常に大切です。
しかし、それだけではなく現経営者が企業にどれだけの財産を残せるかというのも成否を左右します。
そして、企業に残せる財産の額に大きな影響を与えうるのが遺留分です。
ここでは、事業承継に関わってくる遺留分の特例について解説します。
遺留分とは
遺留分というのは、被相続人の財産を相続するときに最低限保証されている財産割合のことです。
最低保証ですから、被相続人がどのような内容の遺言を残したとしても、それに関係なく、遺留分の割合に応じて財産を相続できます。
遺留分が定められている理由は、もしも遺言によって財産が全く関係ない人に渡った場合、被相続人の妻や子供が生活できなくなる可能性があるからです。
遺留分の割合は、法定相続分の2分の1と定められています。
被相続人の法定相続人が配偶者1人の場合、法定相続割合は1ですが、遺留分の割合は2分の1です。
また、法定相続人が配偶者と子供2人の場合、法定相続の割合は配偶者が2分の1、子供がそれぞれ4分の1ずつになりますが、遺留分では配偶者が4分の1、子供がそれぞれ8分の1となります。
ただし、被相続人の兄弟姉妹には遺留分はありません。兄弟姉妹は法定相続人ですし、相続順位も3位ですが、遺留分に関しては請求できないのです。
また、遺留分は何もしなくても保証されるわけではなく、「遺留分減殺請求権」を行使することによって、認められます。
行使方法として、「遺留分を請求します」と相手に伝えただけでも効力が発生しますが、実際には書面で通知することが一般的です。
例えば、被相続人の財産が、全く関係のないAさんに遺言で渡った場合、被相続人の配偶者と子供には遺留分減殺請求権があります。
しかし、Aさんに対して請求権を行使する旨を伝えることではじめて、被相続人の配偶者と子供は遺留分割合に応じた財産の相続ができるようになるのです。
さらに、遺留分の計算時に用いる財産には、すでに贈与されていた財産も含めることにも注意が必要です。
被相続人に配偶者と子供がいて、配偶者が、被相続人の生前にすでに財産の4分の1を贈られていた場合、遺留分はありません。
事業承継と遺留分の関係
遺留分は事業承継とどのように関係してくるのでしょうか。
経営者は大抵の場合、企業の存続のためにできるだけ沢山の財産を、後継者に対して残そうとします。
そのためにとられるのが、贈与や遺言といった方法です。
しかし、その方法が無条件に認められると、後継者以外の相続人は、本来得られるはずだった財産が減少します。
そこで、後継者以外の相続人が自身の不利益を防ぐために考えるのが、遺留分減殺請求権の行使です。
ところが遺留分減殺請求権を行使されると、今度は企業に残る財産が減ってしまいます。
その減少分はかなり大きく、もともとあまり規模が大きくない企業だと、経営が立ち行かなくなるリスクさえあります。
会社が破綻してしまっては被相続人の遺言を守れないということになり、それもまた問題です。
遺留分について民法に特例が定められている
遺留分によって会社の経営が危機に陥ってしまうことのないように、民法には遺留分についての特例が定められています。
内容を簡単に言うと、特例がなければ、遺留分があるために相続財産のうち最大でも50%しか企業に残すことができなかったところを、特例によって50%以上残すことができるようになるのです。
その特例というのが、除外合意と固定合意です。
除外合意は、生前に被相続人から贈与された株式の一部または全部において、遺留分計算時の相続財産に含めないということを決めることです。
除外合意が認められるためには、法定相続人全員の同意があることが条件となります。
企業の経営権に大きな影響を与えるのは、株式です。
経営方針にもよりますが、通常は企業自身で、自社株のほとんどを保有します。
ところが、遺留分減殺請求権を行使された際には企業株式まで渡さなければならないとすると、株式が分散してしまいます。
場合によっては、そこからさらに第三者に株式が渡り、経営権の剥奪につながるリスクもあります。
そのために、除外合意が認められているのです。
一方の固定合意は、生前に贈与された株式の一部または全部について、合意に達したときの価格で遺留分財産を算定することとするものです。
株式の評価額計算には、相続時の価格が用いられます。生前に贈与された株式であってもそれは変わらず、贈与時ではなく相続時価格です。
しかし、それでは贈与されたときよりも相続時の価格が上がっていた場合、後継者は不公平感を持ちかねません。
贈与されたときよりも相続時の株式価格の方が高いというのは、後継者が頑張って業績をアップさせたということです。
けれども、価格上昇分も遺留分の計算に加えてしまうため、後継者の頑張りが後継者に還元されるのではなく、他の相続人に還元されることになるからです。
それを防ぐのが固定合意です。
なお固定合意においても、法定相続人全員の同意があることが、合意が成立するための条件です。
このように、企業により多くの財産を残すための対策として除外合意と固定合意がありますが、非後継者が自身のためにできる対策も、特例として設けられています。
それは付随合意です。
付随合意を利用すれば、遺留分の計算をするときに除外する財産を、あらかじめ決めることができます。
合意のための条件は、付随合意をしようとしている人が、除外合意と固定合意のいずれか一方、もしくは両方に合意していることです。
ここまで説明したように、除外合意と固定合意は事業承継に有利な特例です。
しかし、法定相続人全員の同意があることが条件のため、実効性という点ではややハードルが高いものとなっています。そのため、2018年には、遺留分に関する特例を見直す民法改正案が出されました。
「相続開始から10年より前の贈与であれば遺留分には含めない」という内容が盛り込まれており、もし成立すれば、事業承継をより進めやすくなるでしょう。
除外合意と固定合意のための手続き方法
除外合意と固定合意が認められるためには、法定相続人が全員合意に達した旨の合意書を、法定相続人全員で作成しなければなりません。
そして、合意書が作成されてから1ヶ月以内に、経済産業大臣宛てに確認申請を行います。確認が下りたら、今度は家庭裁判所に申し立てをします。
この申し立ても、確認が下りてから1ヶ月以内に行うことが必要です。
申し立てが認められ許可が下りることで、除外合意や固定合意が適用になります。
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