事業承継で借金があったら?債務引受のメリットデメリット、方法のまとめ!

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事業承継の際に問題が生じやすいのが、借金などの債務があるときです。事業を受け継ぐ人の立場からすると、「借金はできれば承継したくない」というのが本音かもしれません。ただ、債務があることがプラスになるケースもあります。

ここでは、事業承継で債務がある場合のメリットやデメリット、債務引受の方法などを解説していきます。

相続での承継では債務も引き継ぐ必要がある

相続にともなって行う事業承継では、事業を引き継ぐ人が他の財産と一緒に債務も承継する必要があります。このような場合、預貯金や不動産などの資産だけを相続し、借金などの債務を免除してもらうことは通常はできません。

債務を引き受けたくないときは、相続放棄をするか、もしくは事業再生をして事業を承継する方法などを選ぶ必要がでてきます。相続放棄は、被相続人の一切の権利を放棄するのが原則です。したがって、この方法を選ぶと預貯金や不動産なども引き継げなくなるため、事業を承継するのは現実的に難しくなります。

事業再生による事業承継は、会社組織を分けて債務をほかの資産と切り離し、事業承継をしやすくする方法です。

こういった方法をとれば、債務に影響されずに承継者が新たに事業を始めることは可能です。ただ、事業再生にはいろいろな条件があり、未払いの借金は債務を引き受けた会社側で精算をしなければなりません。したがって、完全に債務をゼロにするのは困難な場合が多いです。

債務を引き受けるメリット

事業承継で債務がある場合、1つのメリットになるのが「相続税が減る可能性がある」ことです。相続が開始した時点で借金などの債務があると、債務の金額が相続資産から控除されます。相続税の計算をするときは、預貯金の額や不動産の評価額などをもとに税金の額を算出するのが一般的です。

借入金や固定資産税などの公租公課、買掛金などは、相続資産の総額から引けるため、借金があると相続税の金額がいくぶん安くなる可能性があります。 相続税が高くなるのを避けたい人にとって、このような点は特に大きなメリットになるでしょう。

一度にたくさんの税金を支払うのが困難なときにも、債務で相続税が減るとプラスになることがあるかもしれません。

相続税は、延納制度を利用して分割で支払うこともできます。ただ、資産の状況によっては、延納が認められない場合もあります。このようなときは、期限までに相続税をまとめて支払う必要がでてくるため、負担が大きくなるでしょう。

債務を引き受けるデメリット

債務を引き受けるデメリットは、やはり「引き続き借金を払い続ける必要がある」ことです。債務の金額が大きいときは、事業を受け継いだ人の負担が大きくなる可能性があります。また、「新たに融資を受けにくくなる」のもデメリットになるかもしれません。

事業承継にともなって新事業をスタートするときなどは、創業のためのお金が必要になることもあるでしょう。実際、創業をサポートするような融資制度は増えています。ただ、債務があると審査でチェックされてしまうかもしれません。

申込者に債務がある場合、金融機関でも融資に慎重になることが多いです。信用情報などに問題がなくても、すでに大きな債務を抱えているときには融資を断られるケースもでてくるでしょう。新たに事業を承継する場合、承継者本人の実績が少ないため、融資を受けるのが難しい場合もあります。

債務引受の方法1「併存的債務引受」

債務引受の方法の1つである「併存的債務引受」は、元の債務者と引受者(事業の承継者)が同時に債務を負うスタイルです。この方法をとると、債務は引受者に引き継がれますが、元の債務者にも引き続き債務が残ります。

元の債務者と引受者が連帯保証人のような形になって債務を引き継ぐのが、この「併存的債務引受」の特徴です。この方法は相続と同時に事業承継を行うときには難しいですが、債務者が生存しているうちに承継をする場合には1つの選択肢になってきます。

こういった方法で債務を引き受ける場合、承継者は1人で借金を抱える必要がなくなります。 元の債務者と協力して返済を続けられる点は、「併存的債務引受」の1つのメリットと言えるでしょう。

ただ、この債務引受の方法を選択するときは、基本的に債務者との話し合いが必要です。債務の引受人が変わることで債務者が不利益を被る場合があるため、「併存的債務引受」をするときには債務者から同意を得るのが一般的なルールになっています。債務引受の方法2「免責的債務引受」

債務引受の方法2「免責的債務引受」

債務引受の方法の2つ目である「免責的債務引受」は、元の債務者から引受者に完全に債務が移るスタイルです。「免責的債務引受」の場合は、元の債務者に債務は残りません。すべての債務が手続きと同時に引受者に移行するところは、「併存的債務引受」と大きく異なる点です。

このような方法が多く選択されるのは、債務者が高齢だったり、資金がなかったりするときです。ちなみに、この方法で債務引受をするときには、債権者の同意が必要です。

元の債務者よりも承継者の返済能力の方がはるかに高い場合、債権者にとっても「免責的債務引受」はメリットがあります。このような場合、債務者が変わることでよりスムーズに返済してもらえる可能性がでてきます。したがって、債権者の同意を取り付けるのもさほど難しくないでしょう。

ただ、承継者に資力がないと、スムーズに債権者の同意を得るのは少し困難になるかもしれません。資金の状況によっては連帯保証人を求められたり、新たに担保を要求されたりすることがあるため、注意が必要です。

債務引受の事業承継では債権者との話し合いが重要

債務があるときの事業承継で大切になるのが、債権者と十分に話し合いをすることです。債務の引受は、債権者の同意を得て進めるのが基本です。後のトラブルを防ぐためにも、債権者との話し合いのプロセスは疎かにしないようにしましょう。複数の債務がある場合などは、事業承継の手続きも複雑になる可能性があります。

また、事業承継は、相続にともなって行う場合と、前の経営者の生前に行う場合とで進め方が大きく変わります。例えば、相続で事業承継をするときには、相続税がどのくらいかかるかもあらかじめ考えておかなければなりません。

適した債務引受の方法は、ケースによっても変わってくるのが現実です。事業承継をする予定がある場合は、早めに情報を集めて対策を考えておきましょう。

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