債務超過の会社を事業承継するさいに留意しておくべきポイント

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高齢化社会の進展とともに、会社経営者の代替わりのニーズが強まっています。業績が順調な会社であれば事業承継においてもそれほど大きな障害はありませんが、世の中には債務超過に陥っている会社も存在しており、そういった会社の事業を承継させるにはあらかじめ頭に入れておきたいポイントがいくつかあります。

そこで以下では、それらのポイントについて順に見ていくことにしましょう。

そもそも債務超過の会社を譲渡することはできるのか?

まず、そもそも債務超過に陥っているような会社の事業を譲渡することはできるのでしょうか。

結論からいうと、M&Aや会社売却などのスキームを駆使することによって事業譲渡を行うことは可能です。その理由としては、債務超過となった原因がある程度明らかであり、譲渡先の会社やその経営者がその原因を解決することができるだけのスキルやリソースを有している場合には、短期間で業績を回復させることは現実的に期待できるという点を挙げることができます。

そのような譲渡先にとって、債務超過に陥っているがゆえに本来の評価値よりもかなりディスカウントして取得することができる会社というのは非常に魅力的であるため、意外にも債務超過の会社に関心を示す人々は少なからず存在しているのです。

もっとも、そのためにはあくまでも債務超過となった原因が明らかでなければなりません。例えば、人件費の高騰によって十分な人員を雇用することができなくなったということが原因として判明しているのであれば、余剰人員を抱えている会社に譲渡してその労働力を活用することによって状況を打開できると考えられます。

しかし、原因が分かっていないような場合には、その会社を取得しても債務超過を脱する手法が見つけられるとは限らないため、譲渡先を見つけることは困難を極めるでしょう。そのため、債務超過の会社を譲渡するにあたっては、あらかじめその原因をしっかりと特定し、それについて説明できるようにしておくことがポイントです。

経営者だけでは原因特定が難しいという場合には、事業承継を専門としているコンサルタントなどに分析を依頼するというのも一つの方策ですので、少しでも譲渡の可能性を高めるために多少コストをかけても相談してみると良いでしょう。

債務超過の会社の評価方法

次に、会社の事業承継を行う場合には、その会社の有する価値を正確に算定する必要があります。一般にM&Aなどにおいて企業価値評価のために用いられる方法は複数存在しているのですが、その中でももっとも代表的といえるのがDCF法という手法です。DCFというのは、Discount Cash Flowの略語であり、ある会社が将来生み出す価値を現在の価値に換算した値を、その会社の評価額とするという考え方です。

この手法は、今後も継続的に利益が見込める会社においては有効なのですが、例えば現時点で債務超過となっており、将来においても赤字が継続することが想定されるような会社には使うことができません。なぜなら、仮に赤字会社にそのまま適用した場合には、その会社の価値はマイナスとなってしまい、引き取ってもらうためにはお金を払う必要が生じるためです。

ただし、赤字企業であっても、譲渡先の会社とのシナジー効果によって譲渡後には黒字転換が期待できる場合には、そのような利益を現在価値に置き換えてプラスの評価を算定することが可能となります。債務超過に陥っているのであれば、現在価値はマイナスということになるため、将来の利益の現在価値から現時点のマイナス分を差し引いてもプラスが維持できるのであれば、その金額で売却することは現実的であると言えるでしょう。

また、会社の価値評価手法はDCF法だけではなく、債務超過の会社であってもそのまま適用することができる方法の一つに時価純資産法があります。

この方法は、会社の有する純資産の時価を会社の評価額とするという考え方で、ここでいう純資産には会社が有している営業権、すなわち技術力やノウハウなどが含まれます。そのため、そういった無形の資産を大きく評価することができる場合には、債務超過の状況にあったとしても会社の評価額はプラスの値となるわけです。

このように、会社の評価方法は複数存在しているのですが、実際の価値評価においてはそのうちの一つだけを用いるのではなく、複数の手法によって算出された金額の平均値を取るといったやり方が一般的です。

債務超過の会社の事業承継の方法とは

債務超過の会社であってもM&Aの手法を用いることで事業承継を行うことは可能です。具体的には、株式譲渡、事業譲渡、会社分割、合併といった方法によることが考えられます。

まず、一つ目の株式譲渡というのは文字通り会社の株式を譲渡先に買い取ってもらう方法です。全株式を譲渡することによって経営権を移管することが可能であり、手続もそれほど難しくはないことからM&Aにおいては良く用いられています。会社の評価額を全株式数で割った値が、一株当たりの株価となります。

二つ目の事業譲渡は、会社全体を譲渡するのではなく、会社が行っている事業の全部または一部を譲渡するという方法です。株式譲渡の場合は会社のすべてを移管できるため、法人格は経営者の手元に残りません。それに対し、事業譲渡の場合には法人格は残るので、譲渡後に残った会社をいかに清算するのかという問題が発生します。

一方で、譲渡先の会社からすると、株式譲渡の場合には、隠れている会社の問題まで含めて承継してしまうのに対し、事業譲渡の場合には優良な事業のみを選別して承継することが可能です。したがって、例えば簿外債務の存在などのリスクがある会社を承継するような場合には株式譲渡よりも事業譲渡の方が好まれる傾向にあります。

三つの会社分割は、債務超過に陥っている会社から負債部分を別会社として切り出すことによって、残された優良な資産を有する会社だけを譲渡するという方法です。この場合にも切り出した別会社はもとの経営者の手元に残るため、その清算方法が課題となります。

四つ目の合併は、譲渡先の会社と統合するという方法です。新設合併や吸収合併など、合併にはいくつかの種類が存在していますが、いずれも譲渡先と統合するという点では同様です。譲渡先とのシナジー効果が見込める場合にはメリットが大きい方法と言えます。また、赤字企業を統合することで黒字企業が利益を抑えて節税することができるという点も魅力の一つです。

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