事業承継との向き合い方⑩~幸せな事業承継を実現するために~
- プレ事業承継で考えること
- 事業承継時のポイント
- ポスト事業承継で引き継ぐ側の留意点
事業承継は、現経営者一代限りの特殊な目的を持った企業でない限り、どんな企業にも必ず訪れるイベントである。向き合い方次第では企業の成長への重要な推進エンジンにもなるし、廃業に陥る要因にもなる。
経営者にとって他のどんな経営判断より難しいのは、事業承継の成否に関して、自身ではすべてをコントロール出来ないことにある。なぜなら、ポスト事業承継の場面では経営者でないからである。退任後の企業のあるべき姿、株主や従業員などのステークホルダーが退任後に得られる幸福度などにも配慮した事業承継の遂行が、事業を託す側の経営者に求められる。こうした困難な事業承継を成し遂げることが、経営者にとって最大のミッションとなる。
事業承継は一夜にして出来ない。一般的に5~10年を要すると言われている。しっかりと計画を立てて、周到に準備をしながら進めていかなければならない。今回、幸せな事業承継を実現させるためのチェックポイントをまとめてみた。
皆さんがこれから事業承継に立ち向かわれる際の参考になれば幸いである。
事業承継が眼前の経営課題として見えてくる前の段階である。
1.事業のプロフィールを見直す
・経営理念
企業が目指す方向を正しく表されているか
誰が聞いてもよくわかる、その企業を表す言葉となっているか
従業員・パートに至るまで周知・理解されているか
企業の行動規範に結びついているか
・企業のコアコンピタンス
企業が社会に貢献出来ているものは何か
企業が社会に貢献出来るものは何か
企業の存在価値は何か
・企業のSWOTは明確か
強み(競合他社と明確に差別化出来るもの)
弱み(競合他社からみて劣るところ)
機会(今後企業の成長が見込まれる市場、技術等、これらを生み出す社会情勢)
脅威(企業の強みが失われる、経営資源が損なわれるケースが生じる社会情勢)
・取引先、商流、支援者は明確か
取引先別売上シェアと利益貢献シェア等
2.経営方針・戦略を見直す
・経営方針
経営理念やコアコンピタンスに基づいたものになっているか
目先の利益追求になっていないか
中・長期的ビジョンが表されているか
従業員・パートにも
・経営戦略・
内容は具体的か、行動に移せるか
実現可能なものか
活動が客観的に評価出来る内容か
・方針、戦略の策定プロセス・・・一方的なトップダウンになっていないか
幹部の総意となるまで議論されているか
以上の取組は、すでに多くの企業でルーティンとして行われている。このような事業を「見える化」すること、事業の中核的基盤を社内全員で共有すること、そして全員が何のために働くのか、どのように働くのかを意識していれば、企業内のベクトルは同一方向を向く。目的意識を明確に持った組織は強い。こうした企業へ成長させることが、事業承継を迎えた際に、後継者の選定、教育が効率的に進み、社内外への承継プロセスのスムーズな進行に寄与する。
経営面
1.事業承継計画作成
2.後継者の選定
3.交代期を見据えた事前教育
4.事業引継ぎと社内コンセンサスの醸成
5.後継者スタッフの整備・登用
6.後継者による事業計画作成
7.新規事業立上げ準備
個人資産面
1.株主の確認(絶対的支配株数の確保)
2.株価評価と個人総資産の再評価
3.資産分配に対する意思表示と相続人間での意思統一
4.株式移動と税金対策の検討
5.セカンドライフのプラン作成
経営面においては、事業目的に沿った後継者の選定を行う。そして、後継者がスムーズに経営者として就任し、社内外からのサポートを得られる環境整備を現経営者が行う必要がある。更に、後継者による新規事業の取組みを支援する環境を用意することが大切で、これにより企業の活性化が期待出来る。
また個人資産の観点から、自身の株式は経営者交代時に後継者に譲渡するのが望ましい。これが将来の相続時にずれ込むと、その後の後継者の努力による株価上昇分を相続財産評価に跳ね返らせることになる。経営者の退任時に譲渡するとなれば、贈与税が課税されることとなるが、期限付きではあるが、事業承継税制の改正で贈与税の猶予が拡充されており、こうした特典を活用しながら効率的な株式移転を検討すべきである。
経営者が後継者に経営交代を済ませた後も、しばらくは後継者の補佐役として後継者が順調に業務の執行が出来るように努めなければならない。
この場合の留意すべき事項として、
1.経営者は後継者であることを社内外に徹底。混乱するような言動は慎む
2.新経営者を全面的にバックアップする意思表示を特に社外にPRする
3.補佐役の期限・権限は明確にしておく
4.後継者への引継ぎ事項(特に対外的事項)は漏れなく、ダブりなく行う
後継者にとって引継ぎ当初の経営判断の不安なところを適宜補佐すれば、後継者にとって心強いスタートが切れることになる。しかし、過保護は禁物である。行き過ぎると経営権の侵害につながるからだ。このことを誰も咎められない。気が付けば院政体制と映ってしまう。だからこそ、経営を引継いだ旧経営者は一層自身の行動を律しながら補佐役に徹しなければならない。新経営者や従業員に対する十分な配慮が必要となる。こうして、事業承継が順調に成し遂げられたときに、引き渡した旧経営者は役目を終えることになる。
事業承継に100%の承継はない。要は、事業承継というイベントを行いながら、企業が成長に向かってシームレスな活動が出来ていること、不要な経営資源の消費が発生しないこと、何よりも企業のポテンシャルが事業承継により高められれば、事業承継は成功したと考えていい。
事業承継は、経営者としての最後にして最大の腕の見せ所である。“立つ鳥跡を濁さず”と第三者から評価されることが、経営者にとって最高の讃辞ではないだろうか。
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