副業(複業)解禁で考えたい労災リスクについて 総まとめ

ポイント
  1. 本業から副業(複業)への通勤の場合は副業(複業)先での労災の計算になる
  2. 時代の流れに合った法律の改正が待たれます

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業務中や通勤途中でケガや死亡した場合、労災からその従業員に保障がされることはご存知かと思います。それでは従業員が複数の企業で勤務している場合はどのようになるのでしょうか。今回は副業(複業)をしているひとの労災について詳しく見ていきます。

なぜ副業(複業)で労災が課題になるの?

例えば、本業から副業先へ向かう途中に交通事故等に被災した場合、 その社員は労災保険から補償されるのでしょうか。またその時の補償は本業あるいは副業先いずれの賃金から算出されるのでしょうか?

複数の企業で働くことが考えられる副業(複業)の場合このようなケースが出ていることが考えられます。

今までは、複数の企業で働いている、副業先のための移動中に生じた事故等は労災保険制度の対象ではありませんでした。 これが平成18年に労災保険法が改正され、それ以降は二重就労先への移動途中の災害も通勤災害補償の対象とすることになりました。

この改正によって、本業から副業、あるいは副業から本業へ向かう途中の交通事故等は、 一定の基準を満たせば労災補償でカバーされることとなりました。

一定の基準とは?

一定の基準とは、「合理的経路・方法上で生じ、かつ、その逸脱・中断がない場合」は、通勤災害として労災補償制度の対象となるというものです。
つまり、副業先に向かうために通勤していても、途中で趣味のためのスクールに寄ってから副業先に向かう、途中でデートをしてから副業先に向かうという場合には、「逸脱、中断がある」として通勤災害としての労災補償の対象外となっています。

このような途中に業務に関係のないことをするという「中断や逸脱」がない場合で、通勤災害にあたるとした場合、本業・副業先どちらの平均賃金をもって労災補償給付がなされるかという点が次の課題です。

本業と副業(複業)先のどちらの平均賃金を採用するのでしょうか?

結論からいうと、移動先の平均賃金を基に算出することとされています。
つまり、本業から副業先への移動であれば、 副業側の、副業から本業先への移動であれば、本業側の平均賃金をもって、通勤災害の補償がされることになるのです。

仮に本業先の収入が年収の8割近くを占め、副業先は2割程度の副収入程度である従業員のケースを考えてみましょう。
この場合、本業が終了し、副業先への移動途中に通勤災害に被災した場合は、副業先のお給与を元に補償されますので、本人の年間収入の2割程度に過ぎない 副業先の平均賃金をもって通勤災害に対する補償がされることになります。 この結果、自宅への帰宅途上で被災したときよりも、労災補償の水準が低くなるということが起きるのです。

労災の視点からみたリスク

また、本業が終わってから同じ日につぎの仕事に行くということも考えられます。その際に課題になるのが長時間労働によるリスクです。

長時間労働によるリスク

副業(複業)解禁の最大のリスクは、脳・心臓疾患、精神疾患等の発症という点です。
例えばある従業員の方を例に挙げて考えてみましょう。

長時間労働のリスクの例

前年までは本業において時間外労働が月間40時間程度
相応の残業代支給を受けていたA氏
今年に入り、受注減の影響から残業がゼロになってしまいました。
A氏はあてにしていた残業代収入がなくなり、 生活設計に大きな支障を受ける可能性があります。

このような場合A氏はこれに代わる収入を副業先で得ようとすることもあるでしょう。 一時的な副業先として想定されるのは、コンビニや飲食店や小売業などの時給単価が正社員の時給換算単価と比べて低いケースを選ぶ可能性も大いにあります。このような副業(複業)をする場合、 以前と同様の残業代収入を稼ごうとする場合は、その分、副業先において長時間労働しなければならないことになります。

そうなるとこのような問題が出てきます。
本業先が仮に6時間勤務であったとしても、副業先で8時間働けば、同日14時間勤務ということになります。14時間勤務というのはかなり長い勤務時間です。これは2つの勤務場所が異なっていても同じことです。これを仮に月間20日続けたとすれば、月間残業時間数が120時間にも及ぶ長時間労働となってしまいます。
ちなみに、月80時間を超えると「過労死ライン」と呼ばれ一気に過労死のリスクが高まるのです。この過労死ラインを余裕で超えている状態になっているのです。

また、副業先の仕事は、アルバイト・パートとはいえ、慣れない仕事でしょう。A氏にとっては、相応の肉体的・精神的疲労を招く可能性があるのです その場合、過労死認定基準を上回る過重労働となり、仮に脳心臓疾患あるいは精神疾患を発症すると、労災として認定される可能性が大変高くなるのです。

つまり、今までは過労死には縁がないと考えていた方でもこのような副業(複業)のやりかたをすると、長時間労働になり過労死が他人事ではなくなるということなのです。


こちらも合わせてお読みください
副業禁止の就業規則が有効になるケースとは?

労災認定がされた最近の例

実際、同じような例があります。
実際の例ですが、東京都内の出版社2社で編集アルバイトをしていたBさんです。
Bさんは平成16年10月に自殺してしまった女性です。東京労働者災害補償保険審査官は、過労による自殺として労災認定したという報道もあります。

Bさんは、報道によれば、新宿の出版社で働くため、それまで勤めていた杉並区の出版社に退社を申し出たそうです。ですが社長に請われ副業(複業)状態になりました。そして平成16年10月1日から掛け持ち状態になったそうです。以後、午前中は杉並区の会社で仕事をし、 午後に新宿区の会社に出社、夜は杉並区に戻るという勤務を続けた末、うつ状態となり、同月29日に自殺に至ったとのことです。

このように、副業(複業)するにも同じ日に複数の会社を掛け持ちをすることは長時間労働のリスクがあるのです。

労災の補償とは何か

では、そもそも労災補償について見てみましょう。
労災補償というのは、その労災の元となった会社から受けた給与に基づいて補償額が設定されます。ですので副業(複業)をしている場合、どちらの賃金を適用したらいいのかという課題があるのです。

労災の平均賃金の現在の流れ

これについては、現在のところ昭和28年に旧労働省が示した通達が今なお効力を持っています。

労災の通達・・昭和28年10月2日基収第2048号
内容:市役所職員が本務の時間外に、自宅近くの揚水場見廻人を副業として行っていました。
その副業先の作業中、 運転中のポンプに巻き込まれ死亡した事案。担当の労働基準監督署が所在する局が本省に対して、 どのような方法で平均賃金を算出するか照会した際の回答がこちらです。それは「二重就労時の平均賃金算出は、 被災先の事業所における平均賃金をもってこれに当てる」と回答したものです。

昭和28年の時代の通達が今なお効力を持っています。
副業(複業)の広がりや脳心臓疾患などの複雑困難な事例が増えている現在で、本当にこれが今の時代に合っているのか、大変疑問が残ります。

労災保険法お改正が検討されましたが「今後検討をおこなう」とされたまま現在も改正には至っていません。時代が急速に変化している現在において、法律もそれに合ったものにアップデートしていく必要があるのではないでしょうか。

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