旅館はもっと伝えなきゃいけない!「陶芸の宿はなぶさ」三代目の挑戦

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外国人観光客が増加し続けるなか、旅行業や旅館業などで起業しようと考えている人や、ITなどの新しい切り口からこれらの業界に切り込もうと考えている人もいるかもしれません。そうしたビジネスの種を掴むためには、まず何よりも現場の状況を知る必要があります。

今回は三代続く伊豆長岡温泉の旅館「陶芸の宿はなぶさ」の三代目として、様々な挑戦を続けている花房光宏さんをお訪ねして、旅館業界が抱えている問題や花房さんが起こしてきたアクション、そして今後のビジネスの展望についてお話しいただきました。

修行から帰って直面した旅館業の問題点

花房さんは大学卒業後、家業を継ぐ前提で栄養士の専門学校に行かれていますが、そのまますぐに実家に戻られたんですか?

助っ人編集部

花房 光宏

いいえ。そのあと東京の品川で有名な和食の料理人の下に入って、4〜5年修行していました。実家に帰ってきたのは今から5年くらい前です。

帰ってきて、どんな課題が見えてきましたか?

助っ人編集部

花房 光宏

いわゆる旅館の料理って、面白くないなと思いましたね。

というのは?

助っ人編集部

花房 光宏

「当たり前」が多すぎるんですよ。釜飯が置いてあって、鍋が置いてあって、前菜がここに置いてあって、みたいな。本当は料理だけで「ああ、伊豆に来たな」と思ってもらえなきゃいけないのに、別に伊豆の長岡温泉に来なくても、全国どこでも食べられるような料理を出してるんです。

だから僕は伊豆名産の鮎を刺身で出してみたり、同じく名産のわさびを使ってひつまぶしならぬ「伊豆まぶし」を勝手に考えて作ってみたりしてきました。

伊豆まぶしは、わさびをすりおろしてごはんに乗っけて、鰹節と濃口醤油で食べるわさび丼という伊豆の料理のアレンジ版です。

これをひつまぶしみたいな食べ方ができるようにしたくて、間に出汁を取るときに使った鰹節や昆布を炊いたものとか、鰹節で作った錦松梅、大根の皮で作った漬物を付け合わせにして2回目を食べてもらって、最後にお出汁で3回目を食べてもらうという形にしました。 あとは料理だけじゃなく、業務面でも当たり前が多いなと感じましたね。

布団を敷くは必ずチェックインしてから、といったことですか?

助っ人編集部

花房 光宏

それもそうですね。お客様によっては着いてすぐ横になりたいという方もいるわけですから、最初から敷いてあっても問題ないはずです。 他にもネット予約の時に名前や住所を全部入力しているのに、チェックインの時にまた手書きさせるのも何十年も前からの慣習ですし、「3時チェックインの10時アウト」とか「旅館は日本酒を出すもの」みたいなのも同じです。

そういう部分をなんとかしたいと思ったから、僕はソムリエの資格も持っているし、「はなぶさ」では良いワインも用意しています。

旅館をやっている20代後半から30代前半くらいの友人たちで集まって、源氏山という山でお花見をしながらワインに合うお弁当を食べる「桜ワイン会」なるものを開いたり、中伊豆ワイナリーというワイナリーの人を呼んでワイン会を開いたりもしてきました。

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花房 光宏

仕事そのものが面白くないというか、ハリがないのも変えていきたいと思っています。ゴールデンウィーク、お盆、正月は別として、基本的にはずっと平坦な、同じルーティンの中で動いているのが旅館業という仕事です。

特に「はなぶさ」には60歳を超えたベテランのフロントや番頭、女中が多くて、若い人もいるにはいますが、従業員の年齢の平均をとると60歳くらいになってしまいます。するとますますルーティンに凝り固まってしまって、消費者目線で新しいことをやろうという考えにはならないんですよね。

忙しいというのもあって、休みの日もどこにも泊まりに行かずに家にいるという人も多いんですが、それだと消費者目線で何かをしようという話にはなりません。

「当たり前」をどんどん変えて、旅館をもっと面白く

 

どうすればそういった状況を変えられるんでしょうか?

助っ人編集部

花房 光宏

旅館業って薄利ビジネスで、利益率が10%を超えると優良企業だと言われています。「はなぶさ」の場合、一番売上が高い時期でも6%くらいしかありませんでした。こういう利益構造を変えないと、どうにもならないと思っています。

旅館業は本来、食べる・寝る・着るを全部提供する総合エンターテイメント業です。だからもっと面白くなるはず。そうすれば利益も上がるし、仕事も楽しくなりますよね。 なので今は、既存の「泊まりに来てもらう」という売り方だけではなくて、プラスで別の売り方をしていくというやり方を考えています。

今僕がやっているようなFacebookとTwitterを通じたオリジナル商品のネット販売もそうですが、良し悪しは別として素泊まりプランを充実させる「泊食分離」も選択肢に入れています。

オリジナル商品のネット販売というのはどういったものですか?

助っ人編集部

花房 光宏

もともとは友達がやっている「山六ひもの店」のものすごく美味しい干物を、FacebookやTwitterのDMを使って売ったのがきっかけでした。 そこで自分も何かしらオリジナル商品を売りに出したいなと思うようになって、最初に出したのが「ペペロンおにぎり」です。

旅館の前菜に「ペペロンホタルイカ」というのを入れていたんですが、これを作る時に余るオイルがもったいないと思って、そこに大根の葉っぱとかを入れて、塩コショウをして、ごはんに混ぜておにぎりにしたものです。

自分のまかないだということでSNSで紹介したら「それを売ってくれ」という話になって……という感じですね。それ以降は「鮎の干物」「鶏皮サラミ」なども販売しています。

売上としては大きいんですか?

助っ人編集部

花房 光宏

いえ、額にすると全然大したことないですよ。でも旅館業の利益率に比べたら利益率は高いし、平日の手の空いた時間に調理場やフロントのメンバーに調理やパッキングを任せれば、少なくとも従業員の「何も利益を出さない時間」を減らせますよね。

今は僕だけが商品を考えて開発しているという状態なので、今後は調理長とかにも力を貸してもらって、形にしていきたいなと考えています。

「はなぶさ」には70歳を超えたミツコさんという女中さんがいるんですが、この人が作るもつ煮込みが信じられないくらい美味しいんです。 今は彼女をうまくノセて(笑)、このもつ煮込みを商品化しようと画策しています。そうやって従業員を巻き込んで色々な試みができたら、仕事も楽しくなると思うんですよね。

これから「経営者」になりたい

個人としての課題みたいなものはありますか?

助っ人編集部

花房 光宏

経営者として、会社の進む方向を見つけられるようになりたいですね。これも「当たり前」の一つなんですが、旅館をやっている友達の大半は「女将さんが自分の奥さんで、自分も現場で一緒に働いて……」が正義だという考えを持っています。

でも僕は違っていて、結婚しても奥さんには旅館で働いて欲しくないと思っていたり、自分も将来は社長を雇って別のことをやりたいと思っていたりします。

でも今のように現場の仕事に追われているような状況だと、そういった新しいことを考えている余裕がありません。現場のトップと経営者という二足の草鞋を履かざるを得ないんです。 その意味で僕はまだ「経営者」ではないと思っています。これからちゃんとした経営者になっていきたいですね。

仕事をする上で大切なのは作る・変える・伝える

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仕事をする上で大切にしていることはありますか?

助っ人編集部

花房 光宏

一つは「丁寧に、きれいに、美味しく作る」です。僕はあくまで板前ですから、これは大前提です。あとは決まりきったもの、当たり前を信じずに変えていくことです。

旅館業として、ですか?

助っ人編集部

花房 光宏

それもありますが、単純に板前としても同じですね。日本料理にはたくさんの決まりごとがあるんですが、僕はあえてそれを「本当かよ」と疑ってかかるようにしています。

例えばバルサミコ酢やニンニクって日本料理ではほとんど使われないんですが、僕は平気で使います。ナンプラーの和え物を作ったこともあります。そういう「ちょっと面白いかな」と思ったものはどんどん試します。 あとは自分たちがやっていることをしっかり伝える努力をする、です。

例えば「はなぶさ」の朝食は二段重を出していますが、以前レビューで「出来合いのお弁当を出されました」と書かれたことがあります。でもそれは徹頭徹尾全部手作りのものでした。

工場で作った出来合いの料理が発達した現在、手作りの綺麗な料理は”手作りである”ということが伝わりづらいのです。それならと、旅館側はあえて少しだけ不恰好なものを作ったりしますがそれは僕らの本望ではない。

ですので、SNSを使って作り方やこだわりを発信したりして、ちゃんと伝わるように努力しないといけないんですよね。 だから僕はブログを使って積極的に発信しているし、それを見てくれたお客様も「はなぶさ」を利用してくださるんだと思っています。

花房さんのお話を聞いていると、旅館業にもまだまだ変わるための余白があるんだなと思わされます。

助っ人編集部

花房 光宏

本当にまだまだありますよ。お土産も定番のものを何も考えずに置くのではなくて自分たちで新しく作ってみようとか、クリスマスシーズンはとにかく暇だからラブホテルならぬ「ラブ旅館」として2組限定とかで営業しても面白いですよね。

あとは僕がお酒が大好きなので、ウェルカムドリンクからテキーラが入っていたり、プロのまかないをおつまみに地酒や地元のクラフトビールを飲めたりするプランもやってみたいですね。

そのプラン最高ですね。ぜひやって欲しい。

助っ人編集部

花房 光宏

旅館としての基本を押さえた上でそういう新しい商品やサービスを作って、きちんと発信して、それを受け取ったお客様からポジティブなフィードバックが返ってきたら、きっと旅館はもっと面白くなるし、仕事ももっと楽しくなります。頑張っていきたいですね。

参考になるお話をたくさんありがとうございました!今後の「陶芸の宿はなぶさ」の展開が楽しみです!

助っ人編集部

■陶芸の宿はなぶさ  公式サイト:https://yadohanabusa.com/

 

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