優良な金融機関を「自らの肌感覚」で見極める方法
- 金融機関のカラーは、業態別で分けられた話ではなく、都市型か地方型、規模の大小でも分けられる。
- 店内の心地よい緊張度、活気(職員の表情)、担当者の対応振りからその金融機関の考え方などを観察し、肌感覚や、身の丈に合った金融機関と付き合うこと。
元金融マンの西田隆行です。前回の連載第1回では、利用者としてみなさんが感じられる「金融機関に馴染めない、敬遠してしまう」といった心理的要因について考えてみました。金融機関が放つ「バリア」が皆さんの善良な気持ちをシャットダウンさせてしまっている。本来は「皆さんようこそ!」のはずなのに……。そこには金融機関の事情というのがありまして、なかなか両手を広げてウェルカム、というわけにはいかないものがあるのです、という内情をお伝えしました。
第2回はさらに掘り下げて、金融機関で働く行員・職員のマインドから「精神的バリアフリー」に取組んでいる金融機関の見極め方について解説してみたいと思います。
私は37年間、信用金庫に勤めていました。皆さん、信用金庫ってご存知ですか? ひと口に金融機関と言ってもいろいろなタイプ(業態)があります。主要行と呼ばれる国内、国外を問わず営業エリアに持つ大手金融機関。また営業エリアを一定地域に特化して活動している地方銀行、第2地方銀行などはテレビCMなどでご存知の方も多いですね。
これに対して、営業エリアは限定的、融資を利用できるのは営業エリア内で事業を展開している「中小企業」の規模以下の事業者と、個人事業主に限られる金融機関があります。それが信用金庫や信用組合です(各金融機関の特色については改めて詳しく説明します)。私が勤め出した数十年前の話ですが、「銀行は身だしなみを気にして行くところ、信用金庫は仕事姿や普段着でいくところ」というイメージがありました。信用金庫は働く職員も気さくな感じだったと思います。
ローカルで営業をしようとすれば、その地の文化や人間性などに深く溶け込まないとお客様から受け入れてもらえません。お客様との取引の底辺にあるものはフェイス・トゥ・フェイス。地縁、人縁があってこそ取引していただけるのです。ですから、そこで働く職員は「地域性と人を知る」ことを優先されていました。現在では「定性要因の把握」と言われることです。これがあれば、お客様は家族付き合いも同然で、ここにバリアは発生しないはずですね。しかし、この関係性を構築するには時間がかかりますし、コストもかかります。リスクも増えます。これが信用金庫や信用組合にとってのジレンマです。
一方、大手の主要銀行や地方銀行などは、営業エリアが広域なこともありお客様の数も圧倒的に多いわけです。人的な関係性(定性情報)などを収集する人も時間もありません。このため、自ずと数値的な情報である財産状況、収入状況などの定量情報に頼ることとなります。行員の皆さんは、膨大なお客様と情報量からお客様一人ひとりのご要望に対して判断し、最適な答えをご提示することが求められます。このため、後日の不要な誤解によるトラブルを防ぐためにもドラスティック(というか、冷たい?)な判断をするケースもあるでしょう。この傾向は業態別で分けられた話ではなく、都市型か地方型、規模の大小でも同じような傾向があるといえます。
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では、主要行や地方銀行は、よりバリアが強いのか。決してそうではありません。金融機関として、あるいは営業店の支店長として、お客様にとって当行(庫)はどうあるべきか、どんなサービスがお客様に喜ばれるかといった「主語が“お客様”の考え方」が組織の中でどれだけ浸透されているかでバリアの感じ方は違ってくるのです。
10年前と比べて金融機関の事務は量・質ともに膨大に増加しました。一方で、行員数・職員数はよくて横ばいで、多くは減少しています。このギャップを機械化やIT化で埋めています。しかし、人と人とのリレーションシップは機械化では埋まりません。加えて業務の高度化に対応するための能力を高めることに気を取られ、職場に余裕がなくなっています。「余裕なき職場」では新たなアイデアや配慮は生まれません。
さらにほとんどの金融機関は、バブル以降の金融危機の時に採用を控えました。その結果、本来なら若手・中堅行員・職員を指導教育するべき管理職の絶対数が現状では不足しているのです。バブルのツケがこんなところにも出てきているのですね。余裕のない職員にコミュニケーション・スキルを教える指導者も不在——。こうした内部課題を抱える一方で、金融機関はマイナス金利かつカネ余りという逆風の中で、業界内でも消耗戦に拍車がかかっています。本来目指すべき企業目的を見失うリスクが高まっています。そうなあると行きつく先は経営破綻です(ちょっと言い過ぎでしょうか)。
実は、ここに金融機関を見極めるポイントがあるのです。どうするか? とにもかくにも金融機関へ出向いてお店の雰囲気を体感しましょう。できれば朝一番か、午後の初めごろがいいですね。職員さんが仕事モードに乗り切れないうちか、緊張がほぐれる頃が狙い目です。店内の心地よい緊張度、活気(職員の表情)などを観察してください。
・職員はどこを向いていますか?
・パンフレットが乱雑ではありませんか?
・ロビーは掃除が行き届いていますか?
・職員のスペースは整理整頓できていますか?
などなど。それから融資のカウンターへ行って融資の相談(仮の話でも漠然とした話でも結構です)をしてみることです。そのときの担当者の対応振りからその金融機関の考え方が垣間見えることがあります。
・話の深掘り具合
・いろいろな商品メニューの提案
・お客様の目線に沿った対応となっているか
・聞く態度、話す内容など
こうしたことで、その金融機関の値打ちが見えてきます。通り一遍の説明を一方的にまくしたてるようなら(そんなことは少ないでしょうが)、ニコッと笑顔で去ってしまいましょう。「え、それだけで判断できるの?」と思われるでしょうか。確かに、これで金融機関の評価が100%できるとは言いません。しかし、付き合って良い金融機関かどうかの70~80%はこれで分かります。残りの20~30%はその時の担当者の資質によりますが、ダメな場合は「これもご縁がなかったものだ」と割り切ってしまうしかありません。
金融機関を選択する理由には、お店が近くにある、ATMの多さなど利便性が一番に来ます。しかし、こと融資取引となれば、「命の次に大切なお金」が深く関わってきます。皆さんは利便性以上に「この金融機関に自分の将来を託して大丈夫かどうか?」で判断してください。まず肌感覚や、身の丈に合った金融機関と付き合うことを是非ともお薦めします。
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次回は、金融機関を選ぶ際の参考になる金融機関の特徴についてお話しします。
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