従業員のキャリア形成、「やる気スイッチ」を押して信頼感を
- 「働かせ方改革にしない」ポイントを知る
- 企業からのキャリア形成構築から「企業+個人のキャリア形成」へと視点を変える
- 「自律的キャリア構築」の土台となる信頼感は組織に根付いているか
小規模法人の「働き方改革」と自律的キャリアを考える 第1回
長時間労働や残業の削減、働き方改革などが進む日本。しかし実際のところ、小規模法人ではマンパワーの不足から残業を失くすことは正直難しいのが実情です。働き方改革を迫られても、「大手企業や中堅規模の企業ならできるかもしれないが、日々の業務や目先の利益追求で必死な小規模法人にはあまり親近感を持てない」――と考える経営者が多いかもしれません。
しかし、小規模法人の経営者がそう思うのは、キャリア形成に関しての誤解や勘違いが生じている場合があるからではないでしょうか?今回から始まる新シリーズでは、改めて働き方改革と従業員の自律的キャリア形成の在り方について紐解いていきます。第1回は、経営者が捉える従業員の自律的キャリア形成の誤解について。
「キャリアを積む」という言葉には、どういうイメージがあるでしょうか? 一般的には、「計画的に基づいて一歩一歩突き進むムダのない人生設計」と考える人が多いようです。しかし、実際には思うようにいかなかったり、想定外のことが起きて突如困難に陥ったりすることもあるでしょう。また、思いもよらない機会をきっかけに、それまで思い描いていなかったキャリアへと導かれることもあります。そんな苦難や困難を乗り越えていく力を育みながら、個人のキャリアは形成されていくものです。
では、組織の中ではどうでしょうか。現在の日本では、企業側が従業員に対して「昇給」「役職などの昇格」などを提供するような従来の形でキャリア形成を促していくことは難しい時代になりました。今は、企業が促すべきキャリア形成が「企業+従業員個人の視点」へと変化しつつあります。これは、企業内のキャリア・ビジョンに、個人の希望や意志が含まれることを意味します。
従業員が自ら考え、選ぶことで、キャリア形成に対して積極的になります。従業員自身も自分に裁量権があれば、意欲を高めるでしょう。この意欲は従業員一人ひとりによって異なります。この意欲は本人のモチベーションの源泉、つまり「やる気スイッチ」です。
このやる気スイッチは、
・(売り上げなど)個人の成果に応じて給与できちんと還元される
・昇進する
ということだけではありません。
・周りから感謝の言葉をもらえるだけで嬉しい
・縁の下の力持ちとして頼りにされていることに喜びを感じる
というような、目に見えないことで承認されることこそが、やる気スイッチなのだと思う従業員もいます。このような従業員一人ひとりの「やる気スイッチ」を把握することで、今後の新たな人材マネジメントをするきっかけになります。
ここで問題になりがちなことは、自ら考え選ぶという行為を「自分の好きなことだけやったらいい」とはき違えて考えてしまう従業員がいる、ということです。その原因は、主に2つあります。
・会社の方向性と合っていない
・自分の能力とやりたいことがミスマッチしている
これを修正するには、経営者と従業員の「考えている働き方」のすり合わせが必要になります。新スタッフを採用する際にも、100%希望通りの人材を見つけることはなかなか難しいものです。そこばかりを追求していたら結局、いつまでたっても採用ができません。「これだけは譲れない」というこだわりの部分は考慮し、ほかは「折り合いを見計らって譲歩して採用を決める」ことになるでしょう。
企業内における自律的キャリア形成についても、経営者と従業員の双方が調整していくための面談する場が必要になります。能力部分でもミスマッチであれば、スキル研修の場が必要になります。そしてもう一つ、経営者側が注意したいことは、「従業員の自主性を重んじるから、自分で考えてくれ」という状況にすることです。
経営者は「従業員に任せている」と自負しているのかもしれませんが、従業員は反対に投げやり感を感じてしまい、会社に対して疑念を抱く可能性がでてきます。「自律」という言葉が「会社は期待していないから、あとは自分で考えて頑張ってね」と言われている気がしてならないのです。これは、仕事ができる従業員ほど思ってしまいがちな傾向があります。
自律的キャリア形成を育むための前提条件として必要なのは、あくまで「会社に対する信頼感」があることです。信頼感がない状況で「自律」というような言葉を出すと、離職や独立という方向へと動いてしまう従業員も出てきてしまいます。会社への信頼感という「土台」があやふやなのであれば、まずはその信頼関係を構築していくことが最重要課題になるでしょう。この土台さえできていれば、従業員の個々のキャリア形成はきっと充実した形になります。
小規模法人の場合、従業員全てが幹部候補である場合もあるでしょう。だから、大企業とは違ってポストも十分用意されていて、業績が上向いた分だけ従業員のキャリアも連動して上昇していく、と考えている経営者もいるでしょう。でも実際には、経営状況や売り上げ規模などが伸び悩み、経営者が考えているようにならないケースも多く見受けられます。実際、小規模法人へ企業内キャリアコンサルティングをした際に、従業員からこんな相談を受けたことがあります。
「僕の名刺にはマネージャーという肩書があるのですが、マネジメント業務なんて一度もやったことがなく、現場をこなすことで精一杯な毎日です。この肩書に何の意味があるんですかね……」
つまり、この従業員の「やる気スイッチ」は肩書ではない何かという事になります。その何かに気づかない経営者は「外からは見栄えのよい肩書を与えることで満足してもらえるだろう」と勘違いをしてしまいがちです。反対に、この従業員の本当の「やる気スイッチ」がわかれば、企業が繁栄した分だけ従業員のキャリア形成も連動していき、満足感も高め、信頼感が醸成されていきます。従業員一人ひとりの「やる気スイッチ」を把握できているか、今一度確認してみると、企業内人材育成のポイントが見つかるかもしれませんね。
―従業員の働く意義を考える―
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