事業承継との向き合い方④~なぜモメるのか?親子間のボタンの掛け違いから考える事業承継~

ポイント
  1. 託す側の想いと引継ぐ側の想い
  2. ボタンの掛け違いを防ぐには~社内で取組むこと~
  3. ボタンの掛け違いを防ぐには~外部の活用~

目次 [非表示]

託す想い・引継ぐ想い

事業承継でよくあるケースの一つが、親子間の想いの“ボタンの掛け違い”である。経営者の子供が早くから親を手伝って企業に入り、実績も周囲から認められている。“この子が社長の跡を継ぐ”ことは明らかだ。しかし経営者である親は子供にこのことを明言しない。経営者としての教育を子供に対して、その目的を告げないままに指導し、黙々と日々を過ごしている。

親の想い

経営者の親は子供に対し、自分の想いを面と向かって語りたがらない。照れもあろうが深謀遠慮もそうさせる。

「この会社、お前に継いでほしい」と子供に言うことは、親にとっても相当の覚悟がいる。子供の人生は子どものもの。家庭があるならなおさらのことだ。まして、経営が順調ならまだしも、多額の借金を抱えながら業績が右肩下がりの状況なら、この言葉は重い。自分の代で身軽くしてから子供に継いでもらいたい。その親心が決断を鈍らせ、事態の打開を遅らせる。

子供の想い

子供は物心がついた頃から、朝から晩まで、休みもほとんどなく一生懸命働く親の姿を見て育った。不足なく学校にも行かせてもらい、遊ぶ金も不自由なく与えてもらい、家庭も持てた。今度は自分が親を継いで会社を盛り立てる番だ、と親に強制されるでもなく会社に入り、頑張ってきた。自分ならやれる・・・

しかし親から「継いでくれ」の言葉が出ない。まだ老け込む年齢ではないからか、自分はまだ半人前にしか映っていないのか、もどかしい想いを抱きながら仕事を続けている。最近業績が芳しくないことは自分にもわかる。社長である親の表情が冴えない。自分も責任の一端を担いたい。けれど親は自分を何故か遠ざけている気がする。何故なんだ?何故相談してくれない?

やがて衝突

お互いのうっぷんが積もり積もったときに、感情がぶつかる。行きつくところ、「この会社はお前に譲らない!」「誰がこんな会社継いでやるものか!」お互いの想いの外の外にある言葉が出てしまう。言ったが最後、引っ込みがつかない。

そんなとき両者の間に入って事を収めてくれる人がいれば救われるが、いなかったら・・・事業承継が暗礁に乗り上げてしまう。このようなドラマチックな話が、実は日本中の中小企業に多くあるのだ。更に言えば、親子の衝突が怖くて燻ぶらせている経営者はもっと多い。

経営者が真面目であればあるほど、ピカピカの企業にして子供に事業を譲りたいと考える。しかし経営を取り巻く環境は厳しい。売上を伸ばし、収益を増やし、借金をなくし、新鋭の設備投資を成し終えて子供に事業を託す親の目論見は、はるか彼方へ遠ざかる。だから・・・子供に「継いでくれ」との言葉が喉から出せない悩みを抱える経営者が非常に多いのだ。

“ボタンの掛け違い”をどうすれば減らせるのか?

1.経営をオープンにする
まず、経営者は孤独である。まして業況が低迷すれば、自責の念から自分の殻に閉じこもりがちになる。そうなると良いアイデアが浮かばなくなり適切な経営判断が出来なくなる。売上が伸びず、収益も減っていく。負のスパイラルに落ち込んでいくことになる。

この負の連鎖を断ち切るために、経営者は企業内で業績をオープンにする場所を作ることが必要だ。社員全員であれ、経営幹部だけであれ構わない。自分の考え、話を共有するメンバーを一人でも多く作ることだ。(当然ながら子供もメンバーに入れる)

運営においても、社長による一方的なコミュニケーションではなく、自由に意見が言える環境を約束することは必須である。風通しを良くすること。これがなければ時間の無駄になる。

2.事業承継を客観的に捉える
自由闊達な場所が作れたら、経営理念や経営方針、事業計画を俎上に上げて皆と話し合う。会社の根幹的な事柄を皆と議論することで、メンバーの会社に対する意識のベクトルが合ってくる。その議論の中に事業承継のテーマを入れることで、客観的な意見が聞き取れ、社内のコンセンサスが得やすくなる。

3.第三者を活用する
それでも親子間の事業承継は感情面も含めてナイーブな側面もある。先ほど述べた感情的な衝突も起こり得る。一旦これが発生すると修復までに費やす時間と労力はあまりにも大きい。従って親子間で尊敬できる第三者を事前に作っておくことが必要である。例えば、中立的な親族、顧問税理士や、顧問アドバイザー、あるいは古くから在籍し両者を良く知る役員(従業員)などが候補者として考えられる。

4.公的な経営支援機関に相談する
社内に適切なチームが作れない、周囲に腹を割って相談出来る人がいない、と考えるなら、近くにある公的な経営支援窓口(商工会議所、商工会、地方自治体などで設置されている「よろず支援拠点」「事業引継ぎ支援センター」など)に相談する。ここでは第三者の専門家などの事業承継へのアドバイスが受けられる他、経営全般にわたるアドバイスも受けられる)幅広いサポート体制が受けられるとともに、何より第三者に相談することで、経営者本人の考えが自身で客観的に整理出来るメリットがある。
「よろず支援拠点」についてはこちらから 「事業引継ぎ支援センター」についてはこちらから

事業承継を円滑に進めるためには、こうした周りを巻き込みながら進めていくことが望ましく、登場人物にとって皆の幸福につながる、より有意義な事業承継に近づくこととなる。

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著者プロフィール

西田 隆行

西田 隆行

中小企業診断士。1980年大学卒業後信用金庫に勤務。中小企業や小規模事業者へ資金繰りや財務のコンサルティングを行っている。また地域の中核企業、老舗企業の再生に深く関与。「事業を継続するための財務戦略」をメインテーマに活動している。2017年12月から、日本最大の起業・開業・独立者向けポータルサイト「助っ人」(www.suke10.com)の編集チームで、主に「銀行とのつきあい方、資金調達、事業承継」をテーマとしたコラムを担当している。