事業承継との向き合い方⑥~引継ぐ側(後継者)の覚悟とタスク~
- 引継ぐ側の覚悟
- 引継ぐ側のタスク
- 経営者の心構え
事業を引継ぐ立場として、事業承継はどうあるべきなのか。
父親が経営者で自身が長男。子供の頃から工場で親父の働く背中を見て育ち、気が付けば見様見真似で機械をいじり金属加工の真似事をしていた。学校を出てそのまま親父の工場で働き、昼夜を問わず二人で頑張って工場を切り盛りしてきた。妻を迎え、子供も授かり、仕事に一層生き甲斐を持てるようになってきた。最近、なんとなく親父の背中に老いを感じる。そろそろ自分が先頭に立って、親父を楽にさせたい・・・
この長男には事業承継という大命題を振りかざさずとも、父親のDNAが長男に引き継がれているかのように、自然に「親父の跡を継ぐ」という意識が体に沁み込まれている。
・工場で生み出された製品が世の中の役に立っている(これからも)
・取引先との経済的共存と信頼関係
・生業として家族の生きる糧となっている
・今の仕事に対する誇り
・工場を成長させた父親の事業に対する想い入れ・・・
事業承継を構成するこれらキーワードが、父親と協働する内に有言無言で親から子に引き継がれているのだ。しかし、一方で引継ぐ側の子供には、この覚悟が出来るまでに並々ならぬ葛藤があったに違いない。親子だからこその衝突もあっただろう、将来に対する大きな(華やかな)夢もあっただろう、小さな町工場の将来に抱く不安もあっただろう、妻や子にかける経済的不安や家族との共有できる時間への不安・・・
こうしたハードルを越えて子供は親の経営する工場を引継ぐ決断をする。なにも親子間だけの話ではない。広い意味での親族間や役員・従業員への事業承継には、程度の差はあれどこうしたドラマは起こっている。
では、引継ぐ側の後継者にとって、何が“引継ぐ”決め手となるのか?それは引継ぐ「覚悟」である。その「覚悟」はどのように生まれるのだろうか。
人はその個人が持つ価値観、人生観、資質、スキルなどのパーソナリティや、個人を取巻く外部環境(家族環境等も含め)によっても、「覚悟」に大きな影響を受ける。
しかし、究極的にはその仕事が『好きか嫌いか』『面白いか面白くないか』で覚悟は決まる。「人のため、家族のため、社会のため」は大義名分としては必要なのかもしれない。しかしそれだけでは自分を賭すことは出来ない。長続きしないのだ。その仕事が『好きか嫌いか』『面白いか面白くないか』を自分の中でとことん突き詰め、腑に落ちた時に‟覚悟”が生まれる。
事業の後継を託されたときに、引継ぐ者はこのことにしっかりと向き合い、覚悟をもって引継ぐことが求められる。
事業を引継ぐ者にとって、事業承継を進める上で考えておかなければならないことは、シームレスな企業活動が維持されていることである。事業承継によって経営判断が停滞し企業活動が進まない、ということがあってはならない。企業には常にユーザーや取引先が存在し、企業の作り出すアウトプットを待っている。企業の停滞はアウトプットがストップするということだ。これでは企業の社会的期待に応じられていない。ユーザーや取引先は待ってはくれない。そうなると企業の存続が危ぶまれる、ということにもつながりかねない。
円滑な事業承継を進めるための、引継ぐ側からみたチェックポイントについて、以下の項目を挙げてみた。
1.自らの承継計画を作成する
・前任者方針承継→後継者方針周知→後継者方針着手 の段階的実行計画
※まず社内のコンセンサスを得る(性急な進行は避ける)
2.前任者の経営方針・戦略の評価
・前任者の経営方針・戦略のうち、踏襲する部分と改善する部分に分ける
・否定をしない。改善は良いものをさらに前に進める方向で検討する
3.自社の経営資源の分析
・ヒト・モノ・カネ・情報・知財などの観点から客観的に評価
・自らの経営方針が企業の活動に表れるために必要な人材の見極め
・後継者の目指す経営方針・戦略にとって不足しているものは何かを知る
4.後継者の独自方針・戦略の立案、実行
・後継者が目指す“企業のあるべき姿”を明確にする(経営方針)
・経営方針を具体化するための方策を策定する(戦略)
・役員・幹部と徹底的にディスカッションして戦略を固める
・社員全員に発表(わかりやすい内容で後継者自らの言葉で伝える)
・社員とのコミュニケーションを深める
・後継者は必ず新規事業を立ち上げる
事業承継後、しばらくは後継者・役員従業員間で手探り状態が続く。後継者が社内で試される段階である。後継者は無用な社内の混乱を招かないような配慮が必要となる。その間、自身が今後執っていく経営に必要な社内情報を収集し、組織を効率的に動かせるノウハウを蓄積することが重要なタスクとなる。
経営者の行動は、社内外からいつも注目されている。経営者の関心事はどこにあるのか、を役員従業員は敏感に感じ取っている。虚飾は通用しない。その意味で経営者は常に真剣勝負なのだ。経営者のひたむきに流す汗は従業員の心に届く。経営者自身が高みを目指し切磋琢磨する姿勢と努力が、ひいては従業員を磨き組織を強くする。
経営者の最大のタスクは、この汗の量である。
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