事業承継との向き合い方⑦~周囲をどう巻き込むか~
- 経営者は孤独
- 誰を巻き込むか
- いつ巻き込むか
経営者は、経営企業に関するすべての意思決定を行い、その結果への全責任を負っている。経営方針や戦略の策定に際して、社内で協議して決定することも多々あるだろう。しかし、その選択がミスジャッジだとしても、だからといってメンバーに責任は負わせられない。協議は意思決定ではない。協議は意思決定を促す手段だからだ。企業の意思決定は、唯一経営者だけが行える行為である。
唯一無二な立場にいると、経営者は自ら判断することに馴染んでくる。業績が順調なときに、新規事業の検討や新規設備投資などの前向きな判断なら、経営者にとってさほどの苦は感じない。しかし、業績が下振れし、事業の撤退や業務縮小、人員削減などの後ろ向きな判断は、経営者にとって心痛を伴う苦しさである。
経営者が窮境に陥れば陥るほど、自身の判断の選択肢は限られる。そんなとき、社内のメンバーと相談出来る環境があれば、経営者はどれだけ救われるだろう。平時なうちに、経営者が社内のメンバーと協議出来る環境を作っているかが、有事に問われてくるのである。
事業承継も経営者にとって重大な有事である。後継者の選定から、企業の将来性、従業員など社内体制の動揺、取引先との関係性など、不安要因が先に頭をよぎってくる。こうなると思考が負のスパイラルに陥り、客観的な判断が不足する。そして不要なトラブルが発生することになる。
そうならないためにも、経営者が事業承継を行うにあたって検討すべき重要項目の一つが「周囲を巻き込む」ことである。
経営者にとって、経営会社は“自分の分身”に等しい。長年、全精力を費やして成長させてきた事業の承継は、“社長の成績表”であり“人生の成績表”として評価されるようなものだ。社長としてのプライドが晒される場面となる。また、経営者の精神的支柱となっていた企業経営からの退任は大きな寂寥感を生む。こうした心情が揺れ動く時期に、経営者は後継者をはじめ関係者との間に確執を生みやすい。
一方、後継者からみた場合、事業承継による事業の空白は許されない。さりながら、明日から突然経営判断を委ねられても、正直不安が先に立つ。経営者から事前の帝王学は必要だ。また、経営者としての経験、実績が浅いうちは、事業内外を俯瞰しての判断は難しい。適切な助言、提言をしてもらえるサポーターが必要となる。
こうしてみると、経営者にとって腹の内を安心して話せる人物、後継者にとって全幅の信頼を置け、かつ一緒に活動してもらえる人物を巻き込むことになろう。例えば、顧問の税理士・弁護士やコンサルタント、信頼のおけるステークホルダー、古くからいる役員、後継者と同年代の従業員などになろう。このうちから必要なサポートに応じて、関係性を作り上げることが必要だ。
周囲を巻き込むのは、経営者が事業承継を意識する段階の早いうちからとなる。後継者の選定から、準備、承継のタイミングなど、事業承継のプロセスは多段階を経ることになる。経営者は日々の業務を行いながら、事業承継プロセスの早い段階から信頼のおける第三者にアドバイスを求め、中にはシミュレーションを重ねながら、実行準備を慎重な中にもスピーディーに進めていかなければならない。
後継者が決定すると、経営者自らが企業理念や経営方針、取引先との関係性など事業の引継ぎを進めながら、後継者の右腕となるスタッフをピックアップする。もちろん後継者の意見を汲み上げる必要があるが、このメンバー選定が事業承継をスムーズに進められるかどうか、の鍵になる。この段階で社内に事業承継が発信されるが、コンセンサスが得られるかどうかはこのメンバーの顔触れである。
社内の一部には反対や抵抗、中には離反が出るかもしれない。それでも経営者は事業基盤の承継、後継者の能力を最大限発揮できるバックグラウンドの確保を念頭に、覚悟をもってメンバーを選定しなければならない。
ーサポーターの必要性についてー
コラボレーションは一蓮托生の産物
ー失敗から学ぶ!ー
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