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起業家こそ「単年契約のアスリートの危機感」を持て

ポイント
  1. 単年契約のアスリートのリアルな環境から経営者としても学べることは多い
  2. 長期的視点に立ち、常に危機感を持ち成長を続けていくことは必須

目次 [非表示]

ビジネス・コンディショニングの方法論 第2回

スポーツに真剣に取り組む選手のトレーニングサポートを行う、コンディショニング・コーチの弘田雄士です。日本のトップレベルで競技を行っているアスリート・スポーツの最前線で15年以上働いてきました。今まで様々なリーダーや監督の下で仕事をしてきた体験を通じて、起業家やリーダーに求められる条件について、みなさんと考えていきたいと思います。

単年契約アスリートの恐怖

私の父は「弘田澄男」という、著名なプロ野球選手でした。1500本以上の通算安打を誇り、日本シリーズのMVPも受賞しました。現役引退後もコーチとして20年以上雇用され、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の初代日本チームが世界一になった時もコーチとして貢献しました。団塊の世代の方々に「弘田澄男っていうプロ野球選手をご存知ですか?」と聞けば、「ああ、あのいぶし銀の外野手ね」と思い出してもらえるような選手でした。 

父は37歳で現役を引退しました。私が物心ついたころには、既に30歳を超え、毎年の成績は徐々に下降線をたどっていました。そんな当時、9月末に父が所属する球団事務所から自宅にかかってくる1本の電話は、恐怖以外の何物でもありませんでした。契約更改ができるのかどうかを告げる電話がかかってくるのです。電話がくると、私は3つ年上の姉と一緒に、両親に気づかれないようにドアの側に耳をそばだてていました。

「…はい、わかりました。失礼します」

  そう答えて電話を切った父。その後はぶっきらぼうな口調で母に向かって、こう言います。

「おい、スーツとネクタイ、印鑑を用意しておけ。2週間後に契約更改だ」

この言葉を聞いて、私は姉と声を押し殺しながらハイタッチ。保留さえしなければ来シーズンの仕事が確定するからです。私にとっては至極当然の環境でしたが、これが特殊な環境であったことは今になるとよく分かります。起業している方ならお分かりでしょう。会社を設けてスタッフを雇って経営していくというのは、私の父と同じような緊張感の中で行われているはずです。フリーランスとして一人で活動をしている私は、そんな風に感じています。
 

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起業家のやることは、自分たちのできることをこつこつ地味に積み重ねること〜ビジネスの可能性に挑み続ける松本代表の軌跡~

トレーナー業界における今後の見通し

私自身も、単年契約でのスポーツトレーナーという道を選び、紆余曲折を経て今年で17年目を迎えることになりました。頭の中にいつもあるのは、企業生存率を「トレーナー業界に置き換えた」らどうなるか、ということです。よく言われているのが、創業から1年続く企業は40%あるのに、5年続くのは15%、10年は6%、20年になるとなんと0.3%、創業30年を迎えるのはわずか0.02%という数字です。

これを「スポーツ現場に関わるトレーナー生存率」に置き換えて考えてみると、「上記の数字×5」というのが実情なのです。トレーナーとして5年続くのが75%、10年は30%、20年は1.5%、30年となると0.1%……。肌感覚でいえば、これくらいの確率になっているのではないかと思います。

少子化が進んで日本は超高齢社会に突入しました。働き手は減って国力は右肩下がり、という状況です。スポーツが我々にとって魅力的な存在であることは変わらないでしょうが、そのマーケットは間違いなく縮小していきます。「現実をきちんと見据えて本質を考える」という思考は必須です。冷静に考えると、私の関わるトレーナー業界で今後も生き抜いていくには、相当な覚悟が必要だということを嫌でも実感します。

「やりたい!」という情熱を持ってこの世界に飛び込んだわけですから、常に危機感を持ち業務にあたるのは当然のこと。それにも関わらず、業界内には2020年の東京五輪まで、トレーナー業は安泰だ」と近視眼的な考えに終始する人がたくさんいます。現実を直視せず、「ここ数年は大丈夫」と答えを先送りにしているトレーナーが、なんと多いことか。あなたの周りの起業家や経営者にも、こういった姿勢の方が実は多いのではないでしょうか。

起業家が持つべき危機感

  • 自分自身や会社を「一つの商品」として考え、安心や信頼を得られるブランディングを構築する
  • 時代の変化に対応して新陳代謝を促していく
  • 長期にわたり必要とされる品質を保つ
  • 常に期待値の1%以上の結果を出し続ける

こういった意識を持つことは、アスリートやトレーナーに限らず、起業家や経営者にも必要不可欠な時代です。成長を続けるために、大前提として持っておかなくてはいけないのは「危機感」でしょう。

私が関わってきた指導者の中で優秀なリーダーは例外なく高い危機感を持って、行動していました。自身を大胆で豪快そのものといった風に見せていても、細かいところをも徹底して神経質なぐらい繊細な感覚で物事にあたる。どれだけ成績が良くても浮かれずに、来たるべき時に備えて種をまく。起こったことを、誰かや何かのせいにせず、すべてを「我が事」として捉え、不安から目を背けない。できること、すべきことに注力する。

口でいうほど簡単なことではありません。しかし、危機感を適度な緊張感とともに携えておくことで、足を止めずに成長し続ける。それなくしては衰退するのみなのだと、そんなリーダー達をみて感じていました。

父の素振りが教えてくれたこと

偉そうに書いていますが、私自身も不安に押しつぶされそうになり、誰かのせいにして現実から目をそらしたくなることは日常茶飯事です。そんな時に決まって思い出すのが、現役時代のある日の父の姿なのです。グラウンドでは冷静な勝負師といった様子でプロフェッショナルだった父ですが、実際は本当に繊細な人でした。シーズン中はナイターから帰ってきた後にもなかなか寝付けない様子で、夜中の2時ぐらいまで起きているのが常でした。

私が小学4年生のときのこと。深夜の零時過ぎに玄関のドアが閉まる音に驚いて目が覚めました。怖くなって玄関先をのぞくと、いつもドアの脇に置いてある重さが910gもある木製バットがない。そこで屋上へ行くと、鬼気迫る形相でバットを素振りする父の姿がありました。

 そのときの雰囲気と凄まじいバットスイングの「ブォッ!」という音。普段から寡黙で気難しい父でしたが、30年以上経った今でもあの時のことを思い出すと鳥肌が立ちます。一流といわれているベテラン選手の不安が小学生の自分にもひしひしと伝わってきました。屋上のドアを開けることができず、何か見てはいけないものを見てしまったような罪悪感があり、なかなか寝付けなかったのを覚えています。

その日の光景は、今でも私を勇気づけてくれます。絶望的な思いで挫けそうになっても、絶対に目を逸らさないこと。自分ができる最大の一手を考えつくして行動すること。不格好で泥臭くてももがき続けること。 単年契約の世界で戦っているアスリートたちと同じように保証されていない世界に飛び込んだ起業家には「アスリートの危機感」から学べることはたくさんあるはずです。スタッフが増え、彼らの生活に対する責任を抱えている経営者は、「危機感」と向き合い続ける姿勢こそが社員たちの道標となるのではないでしょうか。

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著者プロフィール

弘田雄士

弘田雄士

コンディショニング・コーチ、鍼灸師。アスリート・スポーツの世界でフィジカル強化・コンディショニング指導を専門としたトレーナーとして15年以上活動。MLBマイナーリーグでのインターンを経て、日本のプロ野球「千葉ロッテマリーンズ」のコンディショニング部門などを歴任。現在はラグビートップリーグ「近鉄ライナーズ」にてヘッド・コンディショニング・コーチを務める。著書に「姿勢チェックから始めるコンディショニング改善エクササイズ」(ブックハウスHD、2013年)。全国でのセミナーなども積極的に展開し、「コンディショニング」の重要性を伝えていく活動を展開している。