従業員の好奇心を「科学的に」高める方法
- 好奇心の有無が組織のパフォーマンスに大きく影響
- 精神論的・経験論的な励ましをやめる
- フシギ・ナゾに目を向けさせる
ダイアモンド社の『Harvard Business Review』2018年12月号の特集は「好奇心 組織の潜在力を引き出しビジネスを成長させる」。ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長や、ハーバード・ビジネススクールの教授などがビジネスパーソンや組織と好奇心の関係性について論じています。
同誌が特集を組むほど、今「好奇心」は一つのキーワードになっています。実際組織に属して働いていたり、起業して従業員を抱えていたりすれば、好奇心の有無が組織のパフォーマンスに大きな影響力を持っていることに気づくはずです。ではどうすれば従業員の好奇心を強化し、組織のパフォーマンスをあげられるのでしょうか。
以下では植木理恵さんの著書『「やる気」を育てる! ~科学的に正しい好奇心、モチベーションの高め方』を参考に、科学的に立証されている好奇心を高める方法を紹介します。
東北大学加齢医学研究所・瀧靖之教授によれば、東京大学に合格するような子供たちには、幼少期に「恐竜」「昆虫」「宇宙」「車」「電車」などの自分が興味のある分野に没頭する「ハマり体験」があると言います。
これが学力につながる理由は2つあります。一つは自分の興味のある分野についての探求を進めると、脳内でやる気物質であるドーパミンの分泌が促進され、脳の成長を促すから。
もう一つは興味があることはうまくできるようになりたいと考えるため、そのための戦略を立てる能力が伸びるからです。
これを大人のビジネスパーソンに当てはめてみても、好奇心がいかにパフォーマンスに影響するかがわかります。
つまり仕事に対して好奇心を持てずにいると、ドーパミンの物質が滞って脳への刺激が少なくなり、同時に「どうすればうまくできるか」を考える能力も成長していかないというわけです。
ではどうすれば従業員の好奇心を高めることができるのでしょうか。以下では植木理恵さんの著書から、科学的に証明されている方法だけを3つ紹介します。
何かに失敗した時に「惜しかった」「次頑張ろう!」と言われて、「そんなことはわかっている」と少し苛立ちを覚えたことはないでしょうか。
社交辞令的にこうした精神論的な励ましをしたくなるかもしれませんが、好奇心を高めるという意味では完全に逆効果。本人にとっては単なる現状確認にしかならず、今目の前にある自分の課題に興味を持つところまでは到達できません。
また「自分のときはこうだったから……」といった経験に基づいた励ましも、実はあまり効果がありません。なぜなら他人の経験というのは、それが失敗体験にしろ、成功体験にしろ、ごく限られた条件下で起きた事象でしかないからです。
自分の課題に興味を持たせるには、まずこうした精神論的・経験論的な励ましをやめ、より相手の好奇心に強く働きかけるアプローチを取る必要があります。
そのアプローチが「フシギ・ナゾに目を向けさせる」です。アメリカの心理学者フェイスティンガーは、人が違和感や矛盾に興味や関心を強く持つ性質を「認知的不協和理論」と呼びました。
私たち人間は違和感や矛盾を感じると、心が不安になり、その不安を解消するために行動を起こします。
この「矛盾を解消したい!」という気持ちは、まさに、心のうちから湧き出る興味であり面白さだ。つまり、「面白さ=少し矛盾しているもの」という公式が成り立ちそうである。引用:前掲書p147
これを組織に落とし込んでみると、トップや上司が「何やってんだ!」「なんとかしろ!」とゲキを飛ばしていても、いつまで経っても従業員の好奇心が刺激されないことがわかります。
そうしたやり方は簡単で単純ですが、それでは組織の好奇心は強化できません。
フシギ・ナゾに目を向けさせるというのは、ここで目の前にあるはずの矛盾や違和感に目を向けさせ、認知的不協和による「矛盾を解消したい!」という気持ちを刺激するということです。
具体的には「お前がここまで頑張ったのに、結果が出ないなんておかしくない?なんでだと思う?」「俺も明日まで考えてみるから、お前も考えてきてくれよ」といった具合です。
ビジネスパーソンとして活躍している人や、組織のトップを務めているような人からすれば「そんなことは自分で考えることだ」と思うかもしれません。
しかしそれは自分が目の前の課題に好奇心を持って取り組める人だからです。残念ながら、この能力を持っている人は少数派で、大半の人が持っていません。だからできる人ができない人を育てる必要があるのです。
フシギ・ナゾに目を向けさせるところまで到達できたら、次はその目を「自分に何ができるか?」まで導きましょう。
というのも「なぜうまくいかなかったのか?」という反省をする際に、以下の4つの要素のうちどこに原因を求めるかによって、反省をする人のモチベーションやその後の行動が変わることがわかっているからです。
これは心理学の世界で「原因帰属理論」と呼ばれるものです。この理論では原因を「自分のせいか?」「自分以外のせいか?」「変えられることか?」「変えられないことか?」の4つの指標で分類します。
原因 | 自分のせい?自分以外のせい? | 変えられる?変えられない? |
能力 | 自分のせい | 変えられない |
努力 | 自分のせい | 変えられる |
問題 | 自分以外のせい | 変えられない |
自分以外のせい | 変えられる |
確かに場合によっては、本人の能力を大きく上回るような問題かもしれませんし、単に運が悪かっただけかもしれません。
しかしそうしたすぐに変えられないこと、自分の意思で変えられないことに原因を求めてしまうと、人は「じゃあどうしようもない」と諦めてしまい、それ以上好奇心を持って探求しようとしなくなります。
そのため従業員の好奇心を強化するためには、原因を客観的に分析させたうえで「じゃあ、うまくやるために自分は何ができるだろう?」を考えさせる必要があります。
自分にできることを考えることは、問題に対する好奇心を刺激すると同時に、「自分にもできることがある」という自信を生みます。
それは最終的にその従業員を「自分の頭で考えて行動できる人材」へと成長させ、組織のパフォーマンスを引き上げることにもつながるのです。
確かに場合によっては、本人の能力を大きく上回るような問題かもしれませんし、単に運が悪かっただけかもしれません。
しかしそうしたすぐに変えられないこと、自分の意思で変えられないことに原因を求めてしまうと、人は「じゃあどうしようもない」と諦めてしまい、それ以上好奇心を持って探求しようとしなくなります。
そのため従業員の好奇心を強化するためには、原因を客観的に分析させたうえで「じゃあ、うまくやるために自分は何ができるだろう?」を考えさせる必要があります。
自分にできることを考えることは、問題に対する好奇心を刺激すると同時に、「自分にもできることがある」という自信を生みます。
それは最終的にその従業員を「自分の頭で考えて行動できる人材」へと成長させ、組織のパフォーマンスを引き上げることにもつながるのです。
仕事に好奇心を持っていない人にとって「好奇心を持て!」と言われても、まず持ち方がわかりません。したがって好奇心を持たせるためには、持ち方を学んでもらう必要があります。
起業してすぐの頃はネームバリューもなく、なかなか優秀な人材を採用したり、引き抜いたりするのは難しいもの。人手は常に不足しています。そんな中で結果を出すためには、限られた人材を最大活用して、組織のパフォーマンスを上げていくほかありません。
今回紹介した「従業員の好奇心を強化する」というのは、そのための方法の一つです。これを機に精神論や経験論に頼るのをやめ、科学的なアプローチで組織の好奇心を高めてみてはどうでしょうか。