事業再構築補助金にも使える!事業計画書の作成ステップ

ポイント
  1. 事業再構築補助金の審査項目には事業計画書の要素が詰まっている
  2. 事業の実現可能性を上げる要チェックポイント
  3. 事業計画書の大前提は環境分析(PEST分析)をしっかり行っていること

目次 [非表示]

2021年3月に公募が開始され、4月15日から申請が始まった事業再構築補助金。
申請するには事業計画書の作成が必須です。
事業再構築補助金の事業計画書で盛り込むべきことは、事業を軌道に乗せるために必要なことばかりです。
申請予定の方もそうでない方も、ポイントをおさえておくと事業の実現可能性がグッと高まります。

■事業再構築補助金の審査項目は事業計画書のお手本

●事業再構築補助金とはどんな補助金?

事業再構築補助金は、令和3年度にはじめて公募が開始された新しい補助金です。

新型コロナウイルス感染症の影響が長期化し、当面の需要や売り上げの回復が期待しづらい中、
ポストコロナ・ウィズコロナ時代の経済社会の変化に対応するために中小企業等の事業再構築を支援することで、日本経済の構造転換を促すための補助金です。
新分野展開、事業転換、業種転換、業態転換、又は事業再編という思い切った事業再構築に意欲を有する中小企業等の挑戦を支援するものです。
注目されている補助金であり、その理由は、補助金額の大きさです。
中小企業の通常枠では、100万円~6,000万円、3分の2の補助率が設定されており、これまでにない補助金額の規模の補助金として注目されています。
従来の補助金と比較すると、比較的補助金額が大きい「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」であっても最大1,000万円でした。
中小企業が思い切った事業の再構築を行うには、それなりの投資が必要ですから、それを促すために、国も思い切った補助金を設定されたものと考えられます。
応募するには、他にも売上減少要件などの要件がありますので、事業再構築補助金のHPをご確認ください。
今回の事業再構築補助金で、一番重要なのは、事業計画書をしっかり作りこむという事です。ほぼ事業計画書で採択される・されないが決まるといっても過言ではありません。
それでは、どのようなことを事業計画書に盛り込む必要があるのでしょうか。

●事業計画書に盛り込むべきことはどんなこと?

事業再構築補助金の概要によると、事業再構築補助金が採択されるためには、合理的で説得力のある事業計画を策定することが必要と説明されています。
事業計画は、認定経営革新等支援機関と相談して策定する必要があり、認定経営革新等支援機関には、事業実施段階でのアドバイスやフォローアップも期待されています。
事業計画書には、次の項目を盛り込むべきとされています。

・現在の企業の事業、強み・弱み、機会・脅威、事業環境、事業再構築の必要性

・事業再構築の具体的内容(提供する製品・サービス、導入する設備、工事等)

・事業再構築の市場の状況、自社の優位性、価格設定、課題やリスクとその解決法

・実施体制、スケジュール、資金調達計画、収益計画(付加価値増加を含む)

 上記の項目は、「事業再構築の必要性」という項目以外は、事業再構築補助金を申請しない場合であっても、事業計画書に盛り込む内容がピックアップされていると考えられます。
これから事業をしようと思っている方にも十分役立つ内容だと思いますので、おさえておくとよいでしょう。では、具体的にどんなことを考え、記載していくことがよいのか、確認していきましょう。

■事業再構築補助金に学ぶ事業計画書の最重要ポイント

●審査項目に着目!ポイントはここだ!

事業再構築補助金のような補助金には、必ず公募要領があります。公募要領には、必ず「審査項目」が明記されています。審査項目は「ここを審査員はみて、点数をつけて、採択するかどうかを決めていますよ」というポイントです。
審査項目は、補助金の趣旨に合っているか、国の虎の子のお金である補助金を投下してまで、この事業を支援すべきかどうかを判断するポイントです。要は、うまくいく事業かどうか、この事業計画書で協力者を増やせるかどうかの分かれ目ということになりますから、事業計画書の最重要ポイントが集まっているといっても過言ではないでしょう。

公募要領の28ページに審査項目の記載があり、このように書かれています。

(1)省略

(2)事業化点

① 本事業の目的に沿った事業実施のための体制(人材、事務処理能力等)や最近の財務状況等から、
補助事業を適切に遂行できると期待できるか。また、金融機関等からの十分な資金の調達が見込めるか。

→人・カネのバランスが取れているか。事業を遂行する人は確保できること、資金は足りているのか、足りていないとすれば、金融機関の協力が得られるところまで根回しできているかどうかが必要です。

② 事業化に向けて、競合他社の動向を把握すること等を通じて市場ニーズを考慮するとともに、
補助事業の成果の事業化が寄与するユーザー、マーケット及び市場規模が明確か。
市場ニーズの有無を検証できているか。

→競合分析が出来ているか、競合が充足できていない顧客のニーズを把握できているか、マーケットが特定できているか、顧客が誰かが定義できているか、が問われています。
新しい事業を立ち上げても、市場のニーズがなければ売上が立ちませんし、市場のニーズがあったとしても、圧倒的な競合がいるのであれば、価格競争に巻き込まれ、レッド・オーシャンでの戦いになってしまいます。
暗にテストマーケティングがどのくらいできていて、お客様となるひとのニーズを掴めているかが大事だと示しています。「なんとなくいけそう」ではダメで、「実際にこういう引き合いがある」「顧客からこんな要望がある」など事実ベースでエビデンスがあるとよいでしょう。これは補助金の申請に限らず、実際の事業計画でも同じですね。

③ 補助事業の成果が価格的・性能的に優位性や収益性を有し、
かつ、事業化に至るまでの遂行方法及びスケジュールが妥当か。
補助事業の課題が明確になっており、その課題の解決方法が明確かつ妥当か。

→「価格的・性能的に優位性や収益性を有し」とは、新事業に参入したときに、自社の商品やサービスが、競合と比較して、価格的・性能的に優位性がないと、選んでもらえる確率が低くなり、勝てなくなるため、検討すべきということを示しています。
顧客目線で、比較対象が明らかで、比較対象と比較して、自社の商品・サービスが選ばれる理由をつくりなさいということになります。
「事業化に至るまでの遂行方法及びスケジュールが妥当か」については、時系列で「いつ、何をするのか」というアクションプランまで事業計画において明確になっているかどうか、「補助事業の課題が~」というくだりは、新事業に参入した場合には、すんなりうまくいくことは少なく、必ず課題があるはずなので、前もってその課題やリスクを洗い出すことができ、その解決策を考えることができているかどうかが問われています。
例えば、認知度の低さによる集客の課題があるとすれば、認知度を上げるために、どのようなことを行うのか、ということを検討できているかどうか、ということになります。
「やってみないとわからない」という方もいらっしゃいますが、あらかじめ見いだせる課題は早く解決する手段を考えておくことが望ましいですし、リスクは小さくするか回避する方法を考えておく方が成功率がグッと高まります。


④ 補助事業として費用対効果(補助金の投入額に対して増額が想定される付加価値額の規模、
生産性の向上、その実現性等)が高いか。
その際、現在の自社の人材、技術・ノウハウ等の強みを活用することや
既存事業とのシナジー効果が期待されること等により、効果的な取組となっているか。

→「費用対効果」については、投下した投資に対して、リターンがどのくらいあるのかということになります。補助金を受けてなくても、事業には一定の投資が必要です。
1000万円投資したら、せめて年間5~10%の利益(売上から経費を引いた儲け)が見込めないと事業かしている意味がありません。
また、その事業に投下するお金以外の経営資源(人材や技術、ノウハウなど)が、活かせないのであれば、競合に負けてしまいます。勝てる経営資源があるのかどうか、自社のどんな強みを活かすか、活かせるように磨くかが問われています。

(3)再構築点

① 事業再構築指針に沿った取組みであるか。
また、全く異なる業種への転換など、リスクの高い、思い切った大胆な事業の再構築を行うものであるか。

→これは、事業再構築補助金の特徴で、補助金の趣旨に合っているものかどうかというポイントです。

② 既存事業における売上の減少が著しいなど、新型コロナウイルスの影響で深刻な被害が生じており、
事業再構築を行う必要性や緊要性が高いか。

→こちらも事業再構築補助金特有のポイントですが、事業の再構築を行うのに値するくらい、新型コロナウイルスの影響が大きいことを示すことが必要という意味です。現在、自社が置かれている状況を把握し、事業をどのような方向性に転向していく必要があるのかがポイントとなります。

③ 市場ニーズや自社の強みを踏まえ、「選択と集中」を戦略的に組み合わせ、
リソースの最適化を図る取組であるか。

→「選択と集中」は「事業領域の選択」と「経営資源の集中」です。勝てる見込みが高い事業領域を(2)事業化点のポイントを通して検討できていて、勝てる見込みがある事業に対して人・モノ・カネ(経営者の時間も含む)を集中投下できているかどうかがポイントとなります。
一般に経営者の方は、事業意欲が高い方が多く、様々な事業アイディアを思いつかれます。あれもこれもやろうとしたくなってしまうのですが、経営資源が無限にあるわけではありませんので、限られた人・モノ・カネを勝てる見込みがある事業にまずは集中することが必要です。

④ 先端的なデジタル技術の活用、新しいビジネスモデルの構築等を通じて、
地域のイノベーションに貢献し得る事業か。

→時代の流れに合っているかどうか、ということが問われています。これからさらに給食に進んでいくと思われるデジタル化の流れに沿ったやり方になっているか、人口動態や人々の価値観の変化に沿った新しいビジネスモデルが作れているかどうか。地域に良い影響を与える事業かどうかがポイントです。
今後新しい事業を考える際でも、デジタル技術の活用を通して生産性を上げていかないと、勝てない事業が多いと思います。人がやるべきこと、やるべきでないことを分けて、やるべきでないことはできるだけ効率化するなどの工夫が必要です。

●絶対に手を抜いてはいけない環境分析

ここまで、審査項目から、事業計画書に欠かせないポイントをみてきました。
これまでたくさんの事業計画書を見たり、ご相談を受けてきた経験から、多くの事業計画書には、環境分析が不足しているなと感じます。
環境分析を完結にいうと、「どこに自社のチャンスがあるのか」「世の中の動きがどのように自社に影響するか」ということです。それには、まず「PEST分析」がおすすめです。

●まずはPEST分析をしよう!

PEST(ペスト)分析は、マクロ環境分析ともいって、世の中の流れ(マクロ環境)を、4つの切り口「政治的要因」「経済的要因」「社会的要因」「技術的要因」に分けて、事業戦略やマーケティング戦略上の機会と課題を発見する分析手法です。
なぜPEST分析が大事なのかというと、

・すぐに売上や利益に直結しないので、おろそかにしてしまいがち

→中長期的な視野を持たないと、いつのまにか大きな時流の変化に飲み込まれてしまう

・PESTはマーケティングに大きなインパクトを与える

・PESTは一企業の努力で変えられないものが多いため押さえておくべき

・PESTはあらゆる戦略・施策の大前提となる

という理由からです。
いざ、PEST分析をやってみると、

・情報がありすぎて、分析が終わらない

・マクロな情報を絞らないといけないが、分析するべき「情報の範囲」と「情報の深さ」がわからない

・とりあえずPEST分析の枠組みを埋めてはみたものの、そこから先どうしたらいいかわからない

分析なんてやったって意味があるの?と投げ出してしまいそうになります。
自社の事業戦略やマーケティング戦略に与える「影響」を見抜くことが大事です。影響を与えない事象の分析に時間を取られるのはもったいないです。
それぞれの切り口について、少し詳しくお話すると、

P 政治的要因は、「市場競争のルール」そのものの変化

政治的要因といっても、「政治」そのものではなく、法律や条例、規制など行政レベルのルールの変化です。
たとえば、2015年の機能性表示食品制度。それまでは、健康食品の分野は、公的なエビデンスが必要だった「トクホ」が独壇場でした。この制度ができたことで、自社でエビデンスを公開すれば、機能性表示ができるようになり、多くの健康食品会社にチャンスが訪れました。 

E 経済的要因は、売上やコストなど利益に直結する影響

経済成長や景気、物価や為替の動向など。雇用環境も当てはまりますね。企業は他社・他者から資源を調達し、それを顧客に提供しています。自社の損益計算書に影響を与えうる事象を拾う必要があります。

S 社会的要因は、売上のもととなる生活者の需要構造に対する影響

生活者のライフスタイルの変化や、生活者意識の変化を意味します。
たとえば、2015年の電通社員の高橋まつりさんの事件は、時間外労働=美徳 という価値観から 時間外労働=悪 という価値観に一変させましたし、「働き方改革」の動きを加速させました。
ここから消費構造に与える影響はなにか?を考える必要があります。
夕方以降の時間の使い方に困る人が増えるのでは?残業できなくなって、終わらない仕事はどのように企業は解決しようとするのか?など。
一つ一つの事象について、「ということは、どんな変化が起こるかな?どんな影響があるかな?ないかな?」と考えてみることが大事です。

T 技術的要因は、市場競争の成功のカギを変化させる

商品開発技術や、生産技術、またはマーケティング技術の変化を意味します。GoogleやFacebookなどのプラットフォーマーの登場で、企業はマスな広告を出さなくても、安価に広告やテストマーケティングを行うことが可能になりました。「小さく生んで、大きく育てる」ことが可能になりました。

PESTそれぞれの切り口はこのような感じです。分析したことが、その後のマーケティング戦略につながることを考えると、様々な変化のなかでも、自社の顧客の価値観や消費活動に影響を与えうるPESTとは何か?という視点で行うと効率が良いと思います。
PEST分析は、事業再構築補助金の計画書類にも盛り込むべき内容になりますし、しっかり検討できているかも審査項目に表れています。

■まとめ

 令和3年度大注目の事業再構築補助金の審査項目から言える事業計画書の最重要ポイントと、その大前提となる環境分析(PEST分析)について解説しました。
 ポイントをおさえることで、実現性が高くなる事業計画書が作成できますし、金融機関や投資家などの協力者を得ることにも役に立つと考えられます。
 この変化の早い時代の中で、効果的な事業計画書をつくりたいとお考えの皆さんのお役に立てましたら幸いです。


 

関連記事

著者プロフィール

神佐 真由美

神佐 真由美

京都大学経済学部在学中から「プロフェッショナルになるために手に職を」と税理士を志す。卒業後は、税理士を顧客とする株式会社TKCに入社し、税理士事務所を顧客にシステムコンサルティング営業に4年間従事。本当に中小企業経営者にとって、役に立てるプロフェッショナルはどうあるべきかを問い続け、研究する。税理士試験5科目合格後、税理士業界へ転身。
自ら道を切り拓く経営者に尊敬の念を抱き、経営者にとって「一番身近なパートナー」になるべく、起業支援や資金調達支援、経営改善や組織再編、最近では事業承継支援など多くの経験を積む。経営計画を一緒につくり、業績管理のしくみづくりを通して、未来を見通せ、自ら課題を見つけ、安心して挑戦できる経営環境づくりが得意。大阪産業創造館のあきない・経営サポーターも務め、セミナー実績も多数。「経営者のための資金繰り基礎講座」「本当に自社にとって必要?事業承継税制セミナー」など。

<関連サイト>
角谷会計事務所
未来を魅せる税理士 神佐真由美のブログ