千葉ロッテが指名し続けた一流トレーナーが語る、選ばれる個人になるための「商品化戦略」
- 夢を叶えるためには「逆算思考」が重要
- クライアント(=選手)と同じ覚悟を示すことで信頼を得られた
- 情報発信を通じて、未来の顧客を引き寄せることが大事
自分の強みを活かして、個人で仕事をしたいと考える人が増えています。
その一方で、稼げるもの稼げないも自分の腕次第、そんな環境に悪戦苦闘している人も少なくありません。
そこで本記事では、2018年9月25日に行われたイベント「日本最大級」や「一流」など突き抜ける商品・サービスを生み出す思考法とマーケティングより、現役プロスポーツトレーナーとして最前線で活躍されている、弘田 雄士さんのお話をご紹介します。
プロ野球選手の父から影響を受けたという考え方、そして指名で仕事を依頼されるようになるための方法とは?
北見:弘田さんはプロ野球チームに所属してお仕事をされていたということですが、当時の正式な肩書きでいうと…?
弘田:「コンディショニングコーディネーター」と名乗っていましたね。
北見:そのコンディショニングコーディネーターというお仕事は、決して誰でもなれるわけではないと思うんですね。その中で弘田さんがそのポジションを勝ち取れた秘訣、そこに至るまでの過程について教えてください。
弘田:トレーナーの業界もプロ野球選手と同じで、競争の世界なんですね。「パレートの法則」でいうところの2:6:2。どこの世界も同じだと思いますが、このトップ2割に自分がいないと話にならないんです。
だから、学生時代にこの職業を志した時から意識していましたし、「あいつは昔からちょっと違ったよね」と言われるように、常に考えて行動していました。
北見:具体的には、どんなことをされてきたんですか?
弘田:成績など、わかりやすく比べられるものに関しては、ほぼトップでいくこと、まずはそこからですね。それと今でもそうなんですが、逆算思考を大切にしてきました。
当時、2000年前後のプロ野球界で、20代の若造トレーナーが雇用されるためには何が必要か。その答えは、当時でいえば現場経験があること、この一点なんですね。
であれば、その経験を積むことができる環境で、なおかつ可能な限り高いレベルを求めてたどり着いたのが、アメリカ・MLB(メジャーリーグ・ベースボール)傘下のチームでインターンをする、という選択肢でした。
1996年当時、日本でMLB傘下のチームでトレーナーの仕事を経験できた人は、わずか2名しかいなかったんです。
私もそんな貴重な経験を積むことができれば、おそらく相当な確率でプロチームスポーツ、特にプロ野球界から声がかかるじゃないかと考えました。
調べていくと、MLB傘下のチームでインターン経験が積める可能性がある大学は2つありました。私はそのうちの一つ、オハイオ州立トレド大学に留学することを決めました。
日本人でも受け入れてもらえる土壌があり、成績が良ければ1年に1人は必ずインターンできることがわかりましたので、絶対にそのチャンスを掴むと決意して海を渡りました。
北見:なるほど。そして弘田さんはそのチャンスを見事に掴んだわけですね。日本に帰国後、念願のプロトレーナーになるために、プロ野球の各チームにアプローチをかけていったわけですね。
弘田:そうですね。そこから先はもう数の勝負です。プロ野球全12球団のみならず、当時知っていた社会人チーム、今でいうパナソニックや東芝さんを含め、とにかく知っている球団すべてに問い合わせました。
郵送で履歴書も次から次へと送り、どこかしら反応があるだろうと考えていたところ、千葉ロッテマリーンズから面接のオファーをいただき、念願のトレーナーになることができました。
北見:契約形態はどういった形だったんですか?
弘田:基本はプロ野球選手と一緒です。過去には2年契約のときもありましたが、トレーナーは毎年、単年契約が前提です。私はその中で2009年に退団するまでの7年間、千葉ロッテで働いてきました。
北見:プロ野球界という入れ替わりの激しい業界で、7年間も契約が継続された理由についてはどうお考えですか?
弘田:選手に共感してもらえた、というのが大きかったかも知れません。
プロ野球の世界では、毎年10月前後は戦力外の選手が決まる時期なんですね。
父はプロ野球選手でしたので、来年も契約してもらえるかどうか、球団からかかってくる電話を自宅で姉と一緒に待っていました。
父が選手として11年目を迎えるころには、さすがに成績も落ちていたので、小学2、3年生だった私でも「そろそろ危ないかな…」と考えていました。
ですが球団から連絡が入り、無事に翌年の契約が決まったことがわかると、嬉しさのあまり、思わず隣にいた姉とハイタッチして喜んだ記憶があります。
そんな環境の中で幼少期を過ごしたこともあり、今自分がプロ野球選手と同じような契約形態で仕事をすることは、ごく自然なことなんです。
私がトレーナーとして千葉ロッテに入ったころは、当時まだ1軍に定着しきれていなかった渡辺俊介やサブロー、里崎、橋本将、イ・スンヨプといった選手がいました。
プロ野球選手と同じというと少しおこがましいですが、単年契約で毎年が勝負という境遇は私も一緒です。
トレーナーとして何ができるかも重要ですが、それ以上に重要なのは、どれだけの覚悟を持って選手たちと“同じ船”に乗っているかです。
私は彼らと年齢が近かったこともありますが、その覚悟が伝わったからこそ信頼していただけたのではないかと思っています。
そして、私が加入した翌年となる2004年にはボビー・バレンタインが監督になり、2005年にはチームが日本一になることができました。
そういったチームが結果を出すタイミングで、私もうまく波に乗れたことも大きかったなと、振り返って思いますね。
北見:現在、弘田さんは複数のお仕事を並行されていると伺っていますが、何がきっかけで、なぜ仕事をもらえたのか、ご自身ではどのように分析されていますか?
弘田:まず、どの業界でも「最低限の専門性」は必要だと考えています。私の場合、プロ野球界においてはある程度のブランディングは作れましたが、もしあまりにも私に実力がなかったら、きっと仕事にはなっていないはずです。まずは、そこをしっかり高めることが最低限必要です。
その上で、自分という商品を知ってもらうための「情報発信」が大事ですね。特に、2010年以降は私もブログなどを活用して情報発信を続けてきました。
今年から顧問させていただいている一社に関しては、3年ほど私のブログをずっとチェックされていたと聞いています。対面でお会いしたのは一度だけでしたが、幸いなことに「自社の顧問になれないか」とお声がけいただけました。
北見:コンディショニングコーチもそうだと思いますが、労働集約型で苦労しそうな職種の場合、どうやって自身の価値を上げていくべきなのか、その点についてはいかがですか?
弘田:労働集約型自体は悪いことではないと思うんですが、やはり時間給になりやすく、拘束時間が延びていく傾向はありますよね。それが嫌なのであれば、人を育てて経営する側に回るか、自分が組織に入るかのどちらかだと思います。
これは好みの問題ですが、私は組織をつくることに興味がないので、自分の興味があることでニーズをつくっていくしかないと考えています。でもそれはある種のわがままとも言えるので、相応の覚悟は必要かなと思っています。
北見:単価を上げていくコツは何かありますか?
弘田:自分の時間給をできる限り高める取り組みをしないといけないですよね。まずは自分のキャリアや商品力を知ってもらう努力をしながら、そのニーズがどこにあるのかを把握する必要があります。
多くの人に買っていただくというよりは、ピンポイントで「弘田にチームに入ってもらいたい」と思ってもらえるような“商品”になることが重要ですね。
北見:それでは、指名でお仕事をもらうために工夫されていることは何ですか?
弘田:自分のターゲットになるであろう人たちに向けて、自分自身について興味を持ってもらえるような情報や言葉を発信する。これに尽きるかなと思います。
私が最も得意なのは、選手と感覚を共にして、「自分は体をこう使っているつもりなのに、実際はこうなってしまっている…」という悩みを解決してあげることなんですね。
でもこれは実際にやってみないと、なかなか人に伝わりにくい部分だと思うんです。
これを自分の商品だと考えるのであれば、しっかりとその強みを知ってもらうために、自分の目の前にサービスの対象者となる人をいかに連れてこれるかがカギです。そのために、情報発信が重要になってくると考えています。
積極的に情報発信していくと、まあ批判というか、当時はSNSの怖さを感じるようなできごとにも遭遇しました。
ですが、やはり情報発信することは良いことですし、こういう仕事をしていたら、もはや半分「義務」なのではないかと思っているくらいです。
北見:それでは最後に、これから個人で仕事をしていきたいと考えている人に対して何か伝えたいことはありますか?
弘田:個人で仕事をしていきたいと考えている人に関しては、まずは1つ強みを作ることが必要になりますね。
ただ、その強みは絶対的なトップ・オブ・トップでなくてもいいんです。自分なりに少し角度を変えてみるのも大事です。
なぜ大事かというと、個人の場合は「自分」という商品自体に魅力を感じてもらう必要があるので、1つ専門性を深めることが必要なんですね。
その上で「ロマンとそろばん」って言うじゃないですか。
私自身も純粋にこういう社会にしたいというイメージがあるので仕事ができている部分もあるんですが、そんな綺麗事だけだと人からはなかなか共感を得られにくいと思うんですね。それって道楽みたいなものなので。
一方で、そろばんばっかりはじいて、お金のことばっかり考えている人とも一緒に仕事をするのは嫌じゃないですか。
そうすると、ドラクエやワンピースの仲間探しじゃないですが、誰かが何か新しいサービスを立ち上げようと考えたときに、たとえば「運動といえば、弘田がいた」と思い出してもらえるような“商品”になることを意識するのが大事です。
その「ロマンとそろばん」のバランス感覚さえあれば、変に気持ちもドロドロせず、かつ現実味がなくならずに仕事をしていけるんじゃないかと思っています。
北見:なるほど、勉強になりました。本日はありがとうございました!