「起業はヒトが肝、株には注意」FOLIO代表 甲斐真一郎が語る起業成功のコツとは?

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起業への情熱や興味あるものの、起業後に失敗するリスクや今の会社での収入や地位が頭をよぎり、結局現状維持を選んでしまう。そういった人も少なくないのではないだろうか。

しかしゴールドマン・サックス証券とバークレイズ証券を経て、現在3期目を迎えるフィンテックベンチャー株式会社FOLIOを創業した甲斐真一郎(かい・しんいちろう)さんは、「起業に損失につながるリスクはない」と断言する。

今回はその真意を探るとともに、甲斐さんが起業するにあたって最も重視するべきだと考える「人の選択と株の取り扱い」について伺った。聞き手は弊社代表の伊藤です。

起業にそもそもリスクなんてない

本日はお忙しい中ありがとうございます。今日はよろしくお願いします。

伊藤 健太

甲斐真一郎

甲斐 真一郎:よろしくお願いします。

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甲斐真一郎 株式会社FOLIO 代表取締役CEO 京都大学法学部卒。在学中プロボクサーとして活動。2006年にゴールドマン・サックス証券入社。主に日本国債・金利デリバティブトレーディングに従事。2010年、バークレイズ証券同部署に転籍し、アルゴリズム・金利オプショントレーディングの責任者を兼任する。2015年11月にバークレイズ証券を退職し、12月より現職。

今起業ブームが明らかに来ていて、いわゆる超一流企業のトップマネジメントクラスの人たちの中にも起業を志す人は少なくありません。

しかしそうした地位や収入のある人ほど、起業への情熱や興味と同じくらい不安も大きい。その結果、いろいろなリスクを考えて起業のプランを保留にしたまま、現状維持を選ぶ人が非常に多いようです。甲斐さんから見て、こういう人たちはどうするべきだと思いますか?

伊藤 健太

甲斐真一郎

この手の話になるとビジネスで失敗してもなんとかやっていけるだけのお金を準備しておけだとか、もしくはどんな苦境に立たされても最後までやりきるハートが必要だってことになりがちですよね。

実際僕も前の会社にいた頃に、会社の信用力を利用して不動産収入だけである程度暮らせるくらいのお金を作っておきましたし、優秀なベンチャー経営者の中には本当に凄まじいくらいのハートの強さを持った人が多いというのも事実です。

ただ「お金か度胸がないと起業できない」っていうのは、ナンセンスだと僕は思っています。

でも実際そうなんじゃないですか?

伊藤 健太

甲斐真一郎

いや、僕が起業して思ったのは「起業にそもそもリスクなんてないじゃないか」ということなんです。 例えば資金調達について心配をしている人は多いと思いますが、最近の投資家は優秀な起業家を絶えず探し続けていて、起業前に投資家達と話をしておくと資金調達の糸口はつかめます。

別に「起業する」と明言しなくても、「まだ今の会社を辞めてないし、辞めるかどうかもわからないけど、こういうプランはあるんです」程度でも構わない。 そうやってある程度起業後の資金調達の目処を立てておくだけでも、精神的なストレスがかなり軽減されますよね。

それに仮にそこで資金調達の目処がつかなかったとしても、投資家にビジネスプランを話すということそのものに価値がありますしね。

話すだけで価値があるというのは?

伊藤 健太

甲斐真一郎

自分なりに真剣に考えたビジネスモデルなら、投資家の中にはなぜそのモデルがダメなのか、どうすれば良くなるのかをアドバイスしてくれる人もいます。

そうでなくても相手の反応が悪ければ、自分で何がダメなのか考えます。すると投資家に相談すればするほど、ビジネスモデルがどんどんブラッシュアップされていくんですよ。

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甲斐真一郎

僕は起業してから3年と少しになりますが、この期間に得た経験は何物にも代えられないと思っています。起業するのとしないのとでは、成長のスピードが圧倒的に違うんですよ。

例えば『ピープルマネジメント』の本を読むだけだといまいちピンと来ません。でも実際に自分が数十人とか100人レベルの社員を抱えてみると、本を読み進めるほど特定の社員の顔が思い浮かんで、一文一文が胸に突き刺さるようになります。

そんなことをものすごいスピードで、ものすごい回数繰り返すわけですから、普通のサラリーマンとは桁違いの経験と知識を積むことになりますよね。

だから一度起業を経験しておけば、そのあとはどうにだってなると思うし、どんな会社にだって入れると思うんですよ。 もちろん「妻子がいるうえに、万が一の蓄えがない」という人にまで無理に勧めるつもりはありませんが、そうじゃないのならダウンサイドリスク(損失につながるリスク)はないのだから、起業したいと思う方は起業しておいた方がいいんじゃないかなって思います。

「フィンテックでやっていく」しか決まっていなかった

リスクはないと言っても、やっぱりビジネスプランは起業前から時間をかけてしっかり練っておいた方がいいんですよね?

伊藤 健太

甲斐真一郎

僕の場合、前の会社を辞めた段階では今のFOLIOのビジネスモデルはありませんでしたし、プロダクトの発想はおぼろげながらにしかありませんでした。

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甲斐真一郎

あったのは起業したいという気持ちと、当時まだ日本では知られていなかったフィンテックへの強烈なワクワク感でした。そもそも真剣に起業を考え始めたのが、退職する半年くらい前でしたしね。

その頃のことを聞かせてください。

 

甲斐真一郎

僕がFOLIOを立ち上げた2015年は、いろいろな意味で時代の変わり目でした。リーマンショックの影響もあり、僕の肌感覚では既存の金融業界全体に閉塞感が増してきていて、トレーダーの位置付けも変わってきていました。 全世界的に投資銀行業界のトレンドが縮小均衡へ向かう中で、少しずつ外の世界へ興味が湧いて来ていた時期でもありました。

そんな時にアメリカで個人間融資のプラットフォームを作ったレンディングクラブという会社が時価総額6,000億円で上場して、すぐに1兆円にまで達したのです。当時フィンテックという言葉は日本にまだ出回ってなかったし、個人間融資なんてものはまだ得体の知れないものでした。

それが1兆円もの規模になるというのは、僕にとって衝撃的だった。そして同時に僕の心は、尋常じゃなく踊っていたんです。「これはもう間違いなく日本に来る!」「フィンテックの期待値は既存の金融機関を大きく超える!」そう直感して半年後に前の会社を退職したという感じです。

ビジネスモデルやプロダクトを作り込んでいないことについて、不安はなかったんでしょうか?

伊藤 健太

甲斐真一郎

プロダクトは変わるものだし、変えられるものです。だから起業前にそこまで固めておく必要はなくて、むしろプロダクトをどんな形にでも変えられる「人」と「お金」を用意できさえすれば、プロダクトに関してのこだわりはそこから考えれば良いというのが持論です。

「人の選択と株の取り扱い」には妥協をするな

最後に、起業をするにあたって「ここは押さえておけ」ということがありましたら、教えてください。

伊藤 健太

甲斐真一郎

創業メンバーを選ぶことに一番時間を使った方がいいと思います。もうそれだけじゃないかという気さえします。


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甲斐真一郎

FOLIOは7人くらいでスタートしているんですが、この創業メンバーが本当に強いからここまでやってこれたんです。エンジニアとかデザイナーといったクリエイターがなんでも作れる人たちであれば、自然とお金も集まってきますからね。

例えば新しいプロダクトのアイデアが出て、それを自分たちで「作れる」となれば、投資家も資金調達に積極的に協力してくれるわけです。 経営はヒト・モノ・カネだと言いますが、企業が大きくなるのもこの順番です。ヒトがいて、モノが作れて、カネが集まってくるんです。

間違いないですね。

伊藤 健太

甲斐真一郎

そのためには投資家の人たちなどからエンジニアのコミュニティを紹介してもらったりして、ある程度デューデリ(相手の価値やリスクを詳細に調査すること。デューデリジェンス)された人材の中から「この人は!」という人に話を持ちかけていくというプロセスも必要です。

僕の場合、そうやって何人か会ったあと、最初に採用に至ったメンバーが広野萌(ひろの・はじめ)でした。 彼はとても実績のあるデザイナーで、もちろんある程度ふるいにかけられた中から選んだので必然といえば必然ですが、彼との出会いは運が良かったとしか言えないほどの幸運だと思っています。

創業メンバーで喧嘩別れをしたり……といった話も聞きますが、そのあたりはどうお考えですか?

伊藤 健太

甲斐真一郎

株の取り扱いや交付の仕方はしっかりと考えてやった方がいいですね。 共同創業したり、創業当初から優秀なメンバーを一気に獲得したい場合、やはり経済的な期待値を引き上げるためにも株式の譲渡、ストックオプションの付与などは非常に大切な武器になります。

しかし、一方で念頭に置いておかなければならないのは、株というのは会社のオーナーシップです。たとえそれが行使されていないオプションであろうと潜在的なオーナーシップです。 その人が辞めてしまった後に、株式を会社が買い取るのか。買い取るとしてもいくらで買い取るべきかなど、株に関する色んな論点で揉めるというのはよく起きることなんですよね。

弊社は従業員全員に株式やストックオプションを配布していますが、その一方で創業株主間契約というものを創業時から結んだりすることによって、紛争リスクを事前にヘッジしています。

ですので、相手の才能を実地で確かめてから、然るべきタイミングで株を渡すというのが大事ですし、人選びと同じで、ここもしっかりと準備しておかなければなりません。

人の選択と株の取り扱いには妥協をするなということですね。起業を志しながら一歩踏み出せない人たちに対する、情熱的かつ的確なアドバイスをありがとうございました!

伊藤 健太

 

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