年上のトップ選手から学んだスタッフ掌握の極意

ポイント
  1. リーダーシップを発揮するには相手から一目置かれる存在になる事が重要
  2. 逃げ道や甘えを捨て凛とした姿勢で相手と向き合うことでチームを掌握できる 

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ビジネス・コンディショニングの方法論 第3回

スポーツに真剣に取り組む選手のトレーニングサポートを行う、コンディショニング・コーチの弘田雄士です。日本のトップレベルで競技を行っているアスリート・スポーツの最前線で15年以上働いてきました。今まで様々なリーダーや監督の下で仕事をしてきた体験を通じて、起業家やリーダーに求められる条件について、みなさんと考えていきたいと思います。コンディショニング・コーチとして仕事を始めて今年で17年目を迎えました。その経験の中で、特に「ストレングス&コンディショニング」(S&C)という分野を担当していて常々感じるのが「選手一人ひとりを掌握することの難しさ」です。

相手から「一目置かれる」存在になるには

競技スポーツの中で私が担当するS&Cは、筋力トレーニングや高強度のランニングが中心です。プレイヤーにとっては、トレーニングするのが正直なところ「しんどい」分野です。 選手の恐怖心をあおる「鬼教官」タイプとしてチームを引っ張る、もしくは対話路線のソフトな人柄で選手のモチベーションを高める——。タイプやアプローチは様々ありますが、本質的に大切なことは「相手から一目置かれる存在」であることです。

グラウンドで最高のパフォーマンスを発揮することで、アスリートたちは自身の存在意義を示します。選手の大半は理論的な思考を持っているかというとそうではなく、どちらかというととても感覚的です。だからこそ選手はコーチらを「自分にとって大切にすべき人物か、従うべき価値がある専門家か」と瞬時に判断します。

小学生や中学生でさえ、無意識に「だらけてもいい新米教師」なのか、「この人は押さえておくべき先生」なのかを選別しますよね。全く同じことがグラウンドやトレーニングジムでも起こるわけです。私自身が日本のプロ野球チーム「千葉ロッテマリーンズ」にて指導を始めたのは27歳のころでした。「ジョニー」の愛称で知られる黒木知宏投手や、「Mr.ロッテ」と呼ばれた初芝清選手、はたまた米メジャーリーグ(MLB)を経験した後の小宮山悟投手などがいました。

チームの選手は半数以上が私よりも年上でした。百戦錬磨の猛者たちの中に飛び込んだ若造のコーチであった私は、きちんと締めるべきところを締め、強制力を持ってトレーニングをさせることが完遂できない場面が、当時は多々ありました。年上の選手相手に一度でもこういった態度を示すと、入団2~3年目の選手たちも「この人には強く出れば、自分の思い通りになるだろう」といった感覚が出てきます。チームに入団して6カ月を過ぎたころから、選手たちを統率することが困難になってきたのです。

スバリ切り込んだ小宮山投手の叱咤

そんなある日。試合前の練習を終えた小宮山悟投手が、私の目をまっすぐ見て言いました。

 「お前のは優しいんじゃなくて、甘いんだよ。それじゃあ伝わらないだろ?

 ズバッと言われたのです。……正にその通り。指摘があまりにも図星で、何も反論できませんでした。思い悩んでいたものの、私はどこかで「選手自身のことなのに、勝手なことばっかり言いやがって。俺は選手一人一人を大切にして、一生懸命考えてプログラムを組んでいるのに」と相手のせいにしていました。

「選手自身がこういっているんだから仕方がないか。自分が言ったことを押し通してケガでもしたら大変だ」
「考えて指示を出しているけれど、正直100%の自信がない。責任をとるのが怖い」

認めたくないのですが、実はそんな風に考えていたのが真実でした。小宮山さんは、そんな私の中途半端な思いをお見通しだったわけです。選手一人ひとりもプレーに生活が懸かっています。S&Cを担当している私がどれだけ自信と覚悟をもって選手に接しているか、その熱量や自信を推し量り、コーチの私を判断するわけです。至極当然のことですよね。

単なる「How to」ではなく、本質的なところで自分のプログラムや指示、言動や立ちふるまいで選手から認められることが重要なのです。それなくして選手は誰もついてこないのだということに、私はようやく気づくことができたのでした。


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掌握しようとせず理解する

根本的な問題に気がついて理解したことは、「掌握しようとすると不自然な力が加わるので、あえてしない。一人ひとりを深く理解することで結果的に選手を掌握することができる」ということです。相手から必要な存在となり尊敬しうる人物になっていれば、トップダウンだろうがボトムアップだろうがスタイルは関係なし。自然体で一人ひとりの考えや感情を理解しようとコミュニケーションをとっていくことこそが鍵を握っているのです。

相手が自分を受け入れる準備はできているわけですから、後は「私はあなたを気にかけていますよ。理解したいと思っています」という姿勢を感じさせることができれば、勝手に求心力は高まっていくのです。

  • 相手から一目置かれる存在となるよう、日々のアウトプットや立ち居ふるまい、言動を高いレベルに保つ。
  • 強引に掌握しようとせず、本質を理解しようとコミュニケーションをとり続ける。

これら2つを徹底することによって結果的にスタッフを掌握できるようになるわけです。これは、10名規模の部下を持つ起業家や経営者も全く同じはずです。さっそく明日から意識的に実行してみてください。

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著者プロフィール

弘田雄士

弘田雄士

コンディショニング・コーチ、鍼灸師。アスリート・スポーツの世界でフィジカル強化・コンディショニング指導を専門としたトレーナーとして15年以上活動。MLBマイナーリーグでのインターンを経て、日本のプロ野球「千葉ロッテマリーンズ」のコンディショニング部門などを歴任。現在はラグビートップリーグ「近鉄ライナーズ」にてヘッド・コンディショニング・コーチを務める。著書に「姿勢チェックから始めるコンディショニング改善エクササイズ」(ブックハウスHD、2013年)。全国でのセミナーなども積極的に展開し、「コンディショニング」の重要性を伝えていく活動を展開している。