初めて人を雇う際に知って必ず知っておくべきこと
- 採用手段は様々あるが、費用などを加味したうえで活用方法を選ぶとよい
- 最低賃金は毎年10月頃金額改定が実施されている。労働基準監督署のチェック項目である為ちゃんと守って雇用しているか注意すること
- 適正な人件費算出方法「売上高人件費率」「労働分配率」をご紹介
求人を出すにしても、面接時に待遇を説明するにしても、採用決定時に雇用条件を通知するにしても必要になってくるのが、「給料」の金額です。働く側からすると、この会社で働いたら「給料いくらもらえるのか?」ということは、会社選びの最重要項目の一つであることは、間違いありません。一方、雇う立場の会社側からすると、「給料」の金額をなるべく低く抑えたい考えることは当然のことだと思います。
では、給料額を決めるには、どうしたらいいのでしょうか?法律や経営等の面から一緒に考えていきたいと思います。
最低賃金って、何だろう?
給料の金額は、使用する立場である会社と働く側である従業員との間で、対等な立場での合意により雇用契約を結び、決定されることとなっています。ただ、実際のところは、会社(雇う立場)から従業員(雇われる立場)に対して給料額を提示して決定することが多いのではないでしょうか。ここで一つ疑問となるのは、提示する給料額には法律としての基準はないのだろうか?ということです。
そこで国では、最低賃金(時間額)というものを定めて、最低賃金以上の金額による給料の支払いを義務づけています。最低賃金は、働く側が生活を維持していくための費用としての生計費などを勘案して、都道府県ごとに金額決定されています。
これを地域別最低賃金といいます。
他方、一部の産業・職業に対しては、特定最低賃金が定められおり、地域別と特定の両方の最低賃金が適用される場合は、金額が高い方の最低賃金額以上の金額を支払わなくてはなりません。
現行(2017年10月1日発行)の地域別最低賃金額は、東京都の932円から、宮崎県・沖縄県の714円の間で都道府県ごとに定められています。
近年の傾向としては、人手不足の影響も反映されており、いずれの都道府県も毎年10~20円程度上昇していっているようです。
注意すべきは、最低賃金の金額改定は、例年10月頃に実施されています。
最低賃金を守っているかについては、労働基準監督署の調査でのチェックされる項目であり、違反には法律で罰則が定められていますので、注意が必要です。
今回は、給与以外に人を雇うとかかってくる費用について考えていきたいと思います。会社が負担する費用のうち、人に関わる費用のことを一般的には「人件費」と呼んでいます。「人件費」の中には、従業員に対して直接支払われる給与や賞与だけでなく、退職金に関する費用、法定福利費[1]や法定外福利費[2]といった福利厚生費と呼ばれる費用などを含みます[3]。
従業員の雇用に関わる費用について、もう少し広く捉えますと、社員教育にかかる費用である教育訓練費や従業員の採用にかかる費用である募集費なども含まれてきます。
これら「人件費」と呼ばれるもの以外にも、机やイス、パソコン、事務用品といった備品や消耗品の準備も必要になってきます。このように従業員に直接支払う給与など以外にも人を雇うためには多くの費用が必要となります。
それだけ、人を雇うということは、経営者にとって難しい判断を下すことになります
[1] 法定福利費 社会保険料の会社負担分を意味します。社会保険料の会社負担分は、給与の税込額面金額の約15%に達します(健康保険・介護保険、厚生年金保険、労災保険、雇用保険の各保険料の会社負担分の合計です)。
[2] 法定外福利費 社会保険などの法律で定められたもの以外で、会社が独自に行う福利に対してかかる費用を指していいます。例:社員親睦のためのレクリエーションにかかる費用、慶弔費などが該当します。
[3]財務省「法人企業統計調査」では、人件費を「人件費=役員給与+役員賞与+従業員給与+従業員賞与+福利厚生費」で算出しており、役員の給与・賞与や福利厚生費も人件費には含れますが、ここでは「人(従業員)を雇うとかかる費用」のみに絞って考えます。
従業員を雇用すると必要となる費用については以下になります。
☆現金で必要となる費用
①従業員給与(通勤手当などの各種手当を含む)
②従業員賞与(ボーナスのことになります)
☆給与以外で雇用すると必要となる費用
①法定福利費(社会保険料会社負担分)
②法定外福利費(レクリエーション費用・慶弔費など)
③退職金にかかる費用
④教育訓練費(社員研修にかかる費用)
⑤募集費(従業員の採用にかかる費用)
⑥その他従業員にかかる費用(作業服、転勤旅費など)
6:最適な人件費の計算方法:売上高人件費比率
今回から2回で、経営指標を使って適正な人件費を算出していく方法について考えていきます。1回目は、売上高人件費率について取り上げます。
売上高人件費比率って何だろう?
会社の経営状態を捉えるための項目を経営指標といい、実際の指標では財務的な数値や比率が用いられます。今回取り上げる『売上高人件費比率』は、会社の売上高に対する人件費の割合を示す指標で、売上高人件費比率(%)=人件費[1]÷売上高×100という計算式から算出されます。売上高人件費比率が大きければ、会社の売上高に対する人件費の負担割合が大きいことを表しています。
指標の数値だけでは分かりにくいので、事例に当てはめて考えてみたいと思います。
【事例】先月創業したばかりのスケト整骨院(ご夫妻2名で経営)が、平日(月~金)に1名のアルバイト(10~13時、16~19時の計6時間)を採用するとして、時給をいくらにしようか検討しているという事例で考えます。
仮にスケト整骨院の初年度の年間売上高(見込み)を1,500万円と仮定します。
採用するアルバイトの時給1,100円とすると、
アルバイトの年収=1,100円×6時間×20日×12ヵ月=1,584,000円となります。
スケト整骨院のご主人の年収を6,500,000円とすると、
この整骨院の売上高人件費比率は、(6,500,000+1,584,000)÷15,000,000×100≒53.9%となります。
整骨院の売上高人件費比率の平均は54.8%[2]ですので、スケト整骨院の売上高人件費率は同業種の中で比較すると平均値とほぼ同水準ということになります。一般的には、売上高人件費比率が高すぎると人件費が過大であり、営業利益に負の影響を与えます。反対に売上高人件費比率が低すぎるケースでは、人員不足や従業員のモチベーションダウンから機会損失やサービス低下を招いてしまうことが考えられます。
大切なことは、ただ単に売上高人件費比率が高い・低いに着目するだけでなく、業種や企業規模などに合わせた適切な売上高人件費比率を把握し、経営指標として比較をしながら正しく自社の人件費を管理していくことだと思います。
[1]財務省「法人企業統計調査」人件費=役員給与+役員賞与+従業員給与+従業員賞与+福利厚生費
[2] ㈱TKC「TKC経営指標(平成27年度)」を参考に作成しています。
経営指標を使って適正な人件費を算出していく方法について考える今回は、2回目は労働分配率について取り上げたいと思います。
労働分配率って何だろう?
労働分配率とは、会社の付加価値に対する人件費の割合を示す指標で、労働分配率(%)=人件費÷付加価値×100という計算式から算出されます。つまり、付加価値の内どのくらいの割合で人件費が占めているかを表しているのが、労働分配率ということになります。
ここでいう付加価値とは、「会社にあるヒト・モノ・カネ(経営資源)を使って、もとある価値から新らたな価値を付け加えることにより、もとの価値よりも高い価値を持つモノ・サービスを生み出す」ことを言います。お客さんの目線で考えると、「新たな価値を付け加えられた製品・サービス」だからこそ、高いお金を払って購入する値打ちがあり、価格競争には巻き込まれにくい製品・サービスであると言えるでしょう。
付加価値は、付加価値=売上高-外部へ支払う費用という計算式で表されます。指標の数値だけでは分かりにくいので、事例に当てはめて付加価値、労働分配率を考えてみたいと思います。
例えば、前回取り上げたスケト整骨院は、年間の15,000,000円を売り上げ、外部支払費用が2,500,000円だったとします。
⇒このスケト整骨院の付加価値は、12,500,000円となります。
スケト整骨院はご主人とアルバイトが2人で人件費は年間8,084,000円かかるとすると、この場合の労働分配率は以下の数値になります。
8,084,000÷12,500,000×100=64.7%
柔道整復師、鍼灸師の業界平均労働分配率は、60.9%[2]ですので、スケト整骨院の労働分配率は、業界平均よりやや高いということが言えます。このスケト整骨院の人件費率(業界平均並み)、労働分配率(業界平均よりやや高い)から言えることは、
①ご主人とアルバイト2人の給与額は適正額となっている。
②外部支払費用が多いことが、付加価値を減少させる要因となっている。
ということです。
『初めて人を雇う』という記事タイトルからは少し外れてしまって、『決算書を読む』という感じの内容になりましたが、決算書から人に関する経営指標を読むことによって、会社の改善点も見出すこともできるのです。
[1] 付加価値の算出方法は、文中の以外に営業利益に人件費や賃借料等を加算して算出する方法もあります。
[2] ㈱TKC経営指標(平成27年)
会社は雇用をする前には求人を出したり、面接をしてどのような人を会社の従業員として雇用するかを判断するわけですが、実際に従業員として雇用することが決まった後でも会社が行わなければいけない手続きは存在しています。
今回は雇用が決まった後で行うべき手続きを簡単に紹介していきます。
①雇用契約書と労働条件通知書を作成する
誰に会社に採用するかが決定した場合には、その人と雇用契約書を交わさなければいけません。雇用契約書は正社員待遇のみに必要などというものではなく、どのような雇用の形であったとしても絶対に必要なものであることを忘れないようにしましょう。雇用契約書の他にも、働く人の労働条件を記載した労働条件通知書も交わさなければいけません。労働条件通知書には法律で書かなければいけない内容が決められていますので、作成する場合には必須項目は抜けが無いように記載しましょう。
以下に労働条件通知書の必須事項を7つ挙げていますので、参考にしてみてください。
①契約期間
②契約更新の有無と、更新する場合の基準
③就業場所(従業員が勤務する場所のことです)
④始業と終業の時間・休憩時間について・休日・休暇・二交代や三交代勤務の会社の場合には就業時転換に関する内容
⑤賃金の決定・計算方法・支払い方法・締め日と支払日
⑥従業員が行う業務内容
⑦解雇される場合の理由を含めて会社を退職する場合の事項
雇用契約書と労働条件通知書は別々のものとして従業員と会社で交わすこともできますし、雇用契約書に労働条件を明確に記載してまとめて交わすことも可能になっています。
どちらの方法を選択するかは自由ですので、会社に合った方法を選択するようにしましょう。
②労働保険加入の手続き
労災保険と雇用保険が一般的に労働保険と呼ばれるものとなります。
あなたの会社が従業員を雇用した場合に加入義務があるかをチェックして義務がある場合には加入をするようにしてください。労災保険は、家族以外を従業員として雇用した場合に加入をしなければいけませんので、これまで家族経営で行ってきて新規で従業員を採用した場合には忘れないように注意が必要かもしれません。雇用保険は、1週間の所定労働時間が20時間以上であり、31日以上雇用の見込みがある従業員を採用した場合に加入の対象となってきます。
③社会保険加入の手続き
従業員を雇用した場合に加入手続きの必要のある社会保険は健康保険・厚生年金・介護保険3つになります。まずはいずれの社会保険に関しても雇用主・従業員のそれぞれに加入の義務があるかどうかを確認するようにしてください。社会保険の加入義務がなく、会社が任意で社会保険に加入していない場合には、あとになってからトラブルにならないためにも採用予定の従業員にはその旨を正確に伝えるようにしてください。
☆加入義務のある雇用主
①全ての法人
②個人事業で常時5人以上の従業員が働いている場合
ただし、一部のサービス業(士業事務所や飲食店)、農業や漁業のような一次産業の場合には5人以上の従業員がいても社会保険には任意加入となっています。
☆加入の対象となる従業員
①常時雇用される従業員
正社員待遇で雇用される場合には従業員は加入対象となりますが、となるとパートやアルバイトで働いている方は自分は加入できないのかと不安になるかもしれませんし、雇用主の立場でも待遇が充実していなければ求人に応募してくれない時代ですので、どちらにとっても気になることであるでしょう。
このため法律ではパートやアルバイトの方であっても一定の条件を満たした方であれば社会保険の加入の対象になるようにしているのです。
以下にパートやアルバイトの方が社会保険の加入対象になるための条件を挙げましたので参考にしてみてください。
・1か月の所定労働日数が常勤従業員のおおよそ4分の3以上である場合
・1日又は1週の所定労働時間が常勤従業員のおおよそ4分の3以上である場合
④税金の支払い手続き
従業員を雇用して給料を支払うようになると、所得税や住民税を源泉徴収しなければいけなくなります。そのためには税務署に届け出をださなければいけません。ただし、法人の場合は、すでに設立時に届け出を出しているのであれば従業員を雇用したときに、再度提出する必要はありません。
☆税務署に行う届け出手続き
・給与支払事務所等の開設届出書
・源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
☆市区町村役場に行う届け出手続き
・住民税給与所得者異動届出書
・特別徴収切替届出(依頼)書
規模の小さな会社、とりわけ起業して間がない会社で働くメリットや魅力とは?『初めて人を雇う』を働く人の立場に立って、考えてみたいと思います。
①大企業と比べて、「大きな歯車」になることができる
10,000人以上従業員がいる会社と、従業員が数名の会社で働くのでは、従業員数名の会社の方が、社員一人ひとりが会社に与える影響が大きく、一人ひとりの頑張りや行動が仕事の成果に直接結びつくことが多いと言えます。
その分大企業よりも一人ひとりの責任が大きく、顧客の評価がダイレクトに伝わりやすいとも言え、仕事にやりがいを感じることも多いと思います。
②経営との距離が近い
①に似ていますが、10,000人以上従業員がいる会社では、社長をはじめとする会社の経営陣と直接話す機会は、数少ないと思います。
一方、従業員が数名の会社では、毎日のように経営陣と顔を合わせることになり、例えば社長と営業先に同行するといった一緒に仕事をする機会に恵まれることも十分にあり得ます。
また、マーケティングや人事、財務などの経営活動に近く、将来起業を目指す人にとっては、日々経営を意識しながら仕事をすることができる環境といえるでしょう。
③幅広い仕事に携わることができる
社員が数人の会社では、仕事が分業化されていない場合がされていない場合が多いと思います。例えば、設計の仕事で採用されたとしても営業や企画など、本来の専門ではない仕事にも携わることになることも考えられます。
専門の仕事に専念することができないと思う方もおられるかもしれません。
しかし、専門以外の様々な仕事に携わることは、専門業務の狭い枠の中での知識やスキル、考え方に留まることなく、視野を拡げることができる良い機会となります。
ー雇用主から見た場合の視点ー
初めて人を雇った時のルール~労働保険編~
ー弁護士という一例で求職事情ー
弁護士事務所に入るための5つの条件 ~最近の弁護士求人事情~