フィリピンで起業支援をして1年。現状と課題とは ~現地でのリアルな生活と事業の現状について~

ポイント
  1. フィリピンで行う起業支援
  2. 現地での生活について

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フィリピンで行う起業支援

伊藤  

まずは、会社の紹介をお願いします。

塚本氏  

事業内容としては、主にフィリピンに進出する企業や現地でのスタートアップ向けにオフィス什器やインターネット回線付のオフィススペースの貸し出しをしております。いわゆる、レンタルオフィス、サービスオフィスと呼ばれるビジネスモデルです。

但し、単にオフィスを貸し出しするだけでなく、顧客の進出前の現地情報の提供から、パートナー紹介、会社設立、住宅の紹介、更には人材確保サポートや名刺発注まで、起業後のサポートも含めてトータルコーディネートもしており、グループ会社内ではインキュベーション事業と呼んでおります。

フィリピンのオフィス環境をお伝えしますと、自社でオフィスを構えるとなった場合、大半が賃料の1年間の前払い、もしくは1年分の先付小切手の提出となります。また、新規参入する方々の大半が3名前後の人員からスタートとなりますが、マカティ周辺のグレードの高いオフィスススペースは100㎡以上の物件がほとんどなので、新しく法人設立をするのに適切なスペース(約8~15㎡)がありません。また、グレードの低い雑居ビルの場合は、セキュリティ上の不安やインターネット回線、電力供給などのインフラが安定しないためお勧めしません。

そこで、当社が一括で1フロアを借り、小さな個室に分け、オフィス家具・高速インターネット回線、電話・電気・空調等の設備を準備し、お客様の初期投資を抑制すると共に、オフィス探しから工事、入居時のセットアップの時間的コストを排除するという付加価値をつけて提供するビジネスモデルです。

伊藤  

費用はどれぐらいですか?

塚本氏  

具体的には、セットアップフィーとして家賃1か月~1.5か月分を契約時にお支払い頂き、あとは月々の家賃をお支払いいただきます。実質的な家賃は、水道光熱費込みで3名用の個室で10~15万円/月ほどになります。契約期間は1か月からご利用可能ですので、本オフィスや工場設立前の準備オフィスや駐在員事務所、調査拠点など柔軟な利用形態が見込めます。スタートアップ企業には、資金調達するまでの間の事業計画策定フェーズやモック開発段階、従業員を大量に採用するまでのテンポラリーオフィスとしても活用して頂いています。

当社の家賃は通常の賃貸オフィスと平米単価で比較すると割高に思われますが、100㎡などのスペースを借りる必要がない点や、工事やオフィス什器を購買する初期投資が不要な点、会議室や受付・パントリーなどの共用施設・電気水道光熱費およびインターネット料金等がすべて含まれているという点等において、圧倒的に費用対効果が高いサービスとなっております。

伊藤  

普通に自社でオフィスを借りると初期費用だけでも膨大な金額になりますね。確かにそのようなサービスがあると助かります。どのような業種の方々が利用されていますか?

塚本氏  

利用者の方々の業種につきましてはIT系の方が50%、製造業25%、サービス業4%と続きます。なかでもIT系の方々につきましてはCADの委託業務をされている方々が多数いらっしゃいます。理由といたしましては、フィリピンで事業をする利点の一つとして英語が堪能な若い人材が豊富で、且つ人件費が抑えられるという点が挙げられるのですが、その利点を活かしてCADデザイン等の仕事を日本で受注しフィリピンに業務委託、データの編集と作成後、日本へデータを送り返すといったビジネスモデルが多く見受けられます。こちらのビジネスモデルをされている方の中には従業員数8名、一人あたりの人件費が月々PHP20,000(日本円で約4~5万円)という方もいらっしゃいます。ただし、このビジネスモデルを行うためには膨大なデータのやり取りを行うので高速インターネット回線が必須となります。フィリピンのインターネット環境につきましては一般家庭で2-5MB、大手企業でも平均10MBですが そういった状況で弊社では最大で70MBのインターネット回線および緊急時のバックアップ回線を引いているという点は、このような業種のお客様にご満足いただける付加価値の一つと考えています。

伊藤  

レンタルのお部屋はどのくらいあるのですか?

塚本氏  

オリジナルでは35部屋ありました。ただ、弊社ではお客様がオフィスを拡大される際に隣接するお部屋の壁を壊して一部屋にまとめるような柔軟な対応をしており、現在では20部屋前後になります。多くのお客様が、入居してから1年~1年半後を目途に、オフィススペースが100㎡前後まで拡大された後に、外部の自社オフィスに移転されています。

伊藤  

現在、満室ということですが、新しいエリアに進出するご予定についてはいかがですか?

塚本氏  

新しいお客様が入居し、退去されるお客様もいらっしゃいますので、満室が継続することはありませんので、常時、新規のお客様は募集しております。

ただ、ビジネスのボトルネックは当社の借りているスペースに限界があることで、お客様の拡大にお応えできないケースもあります。

将来の予測をしながら、同じビルでの拡大の機会やマカティ内で高ビルグレードの稼働率と家賃推移を伺いつつ、フォートやオルティガス等の近郊の新興ビジネス地区の需要についても注視しております。

現地での生活について

伊藤  

みなさん、日本で会社を大きくしてからこちらに来られるのでしょうか?

塚本氏  

弊社のご利用者の場合ですと大手の会社で駐在事務所としてオフィスを構えられて、現地法人の管理をするといった形で来られる方や、ベンチャー企業の立ち上げ責任者として赴任する方もいます。また、日本で別の会社を経営していた方が、全く別の事業をしたいとフィリピンで新たに起業するケースもあります。最近では日本で畳の販売をされている会社がこちらで飲食店をされたいとのことで相談にいらっしゃいました。

伊藤  

日本人の方はどこに住んでいますか?

塚本氏  

勤務地がマカティであれば、大半がマルカティ周辺かロックウェルというところです。ロックウェルは、外部から少し隔絶されているような地域です。 周辺が塀で囲まれており、各入口にセキュリティーガードがいるので中の地域はとても安全で、中のコンドミニアムはいずれもハイグレードできれいです。

 

家賃につきましては、ロックウェルのスタジオタイプでPHP40,000から、ワンベッドルームでPHP75,000からです。ざっくりと平米単価でPHP1,000です。

マルカティはピンキリですがスタジオタイプでPHP15,000の物件もあれば70平米でPHP30,000、逆に70平米でPHP100,000の物件も実際あります。

ロックウェル地域につきましてはマカティエリアから少し離れた地域にあるのでが必要です。

伊藤  

こちらの生活はいかがですか?

塚本氏  

私はこちらにきて1年ほどになります。日本の本社から赴任しているのは私だけですが、言語面では多少英語が使えればとくに不自由な思いはしていません。また、食事面では日本食レストランでPHP200~300(400円~600円)くらいで定食が食べられるのでとてもありがたいです。

プライベートでは、海外であればどこの国でもそうだと思いますが、様々な日本人の会が頻繁にあり、横のつながりが強いです。出身地域ごとの会や同年代の会、中にはパクチー(食べ物)の会や特定のコンビニを愛する会等様々な集まりがあります。

採用に苦労するという側面も

伊藤  

求人はどのように行うのですか?

塚本氏  

現状では大きく分けて2つです。

1つめがジョブストリートというフィリピンで有名な就活サイト(リクナビやマイナビ)経由での採用となります。このサイトの場合一回PHP5,000(日本円で約1万円)ほどで掲載ができます。100から120ほどエントリーがありますが、基本的に募集要項を見ずに応募してくる方が多いので不適当な方も多く含まれております。(応募はしたが面接に来ない、必要資格を保持していない、女性の応募で男性が来る等)

日系企業の多くは仲介業者さんを介し、ジョブストリートから来た面談を選別して10~20人前後に絞ってもらい、それから自社で最終面接という形をとります。

 

2つめが、転職エージェント経由の採用となります。こちらの場合は、あくまでエージェントからの紹介になるので優秀な人材やフィットした人材、受付スタッフの応募であれば前職がホテル経験者の候補者の紹介等、自社のニーズに合った方を採用しやすいです。

伊藤  

それぞれにメリット・デメリットはありますか?

塚本氏  

前者のメリットとしては採用の費用が安いこと、採用から入社までの期間が短い点です。仲介業者への支払いは採用をした方の1-2か月分の給与になります。

後社は優秀な人材が集まりやすい点になります。また、前者の場合は募集後一週間が応募のピークでそれからどんどんと応募数が減っていきますが、後社の場合は応募者が決まるまで候補者の紹介が無料で継続されます。

後者のデメリットとしてはエージェントへの仲介料が給与の3~4か月分になることに加え、前職の退職のステップを挟むため、採用後入社が1~2ヵ月ほど後になることです。

 

私がご相談をいただく際は、安い費用で特別なスペックを必要としないローカルスタッフを大量に雇用をされる場合は前者を、アドミンスタッフ等少人数だが優秀な人材を希望される場合は後者を紹介しています。

 

現地に赴任される方は英語が堪能な方が多いですが、スタッフのマネジメントでは皆さま苦労されているように見受けられます。スタートアップの方々の話を聞いていると大体8割くらいがこの問題で苦労しておられます。時間通りに出社しない、報告をしない、指示を聞かない、嘘をつかれた、仕事しないでFBを見ている、急に歌いだす等が共通して多いです。ルールを守るしっかりしたローカルスタッフを入れておかないと、マネジメントが期待する水準にするのは難しいようです。

伊藤  

これまでに、大変なことはありましたか?

塚本氏  

ありました。

プライベート面では、コンドのシャワーが漏電していて220Vの電気シャワーを浴びたり、

コンドのクリーナーに誤って持っていた衣類の7割を捨てられたり、これは完全に私の不注意ですが水の張った洗濯機にドライヤーを落としてしまい気づかずに手を入れて感電する等。・・・電気系が多いですね。

手を入れて感電する等。電気系が多いですね。

伊藤  

電気シャワーなど日本ではありえないことですね。お仕事面ではどうですか?

塚本氏  

仕事面ではやはり従業員のマネジメントです。

日本にいる段階からネットでフィリピン人のマネジメントは難しいという情報は目にしていましたが、実際に来てみると想像以上でした。

なぜここまで自分が至らないのかとかなり悩みました。若禿もかなり進行したと思います。

ただ、その中でも試行錯誤をして、結果としてはその従業員たちのおかげで、稼働率100%、1クォーターで過去最高売り上げの更新、グループ本社からも新人賞もいただき、満足のいく結果が出せたので、苦労が多い分、達成感はあります。

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著者プロフィール

伊藤 健太

伊藤 健太

1986年生まれ、横浜出身、慶應義塾大学法学部卒業。

23歳の時、病気をきっかけに、小学校親友4名、資本金5万円で株式会社ウェイビーを創業。

10年間で10,000人を超える経営者、起業家の「組織づくり」「売上アップ」に携わる。

社長がいなくても回る強い組織、仕組みをつくる「01組織クラウド

小さな会社、個人事業主のビジネス成長を実現する「01クラウド

の01シリーズを展開中。

2016年10月より、世界経済フォーラム(ダボス会議)の日本代表選抜
2018年9月より、徳島大学客員教授就任
2020年4月より、iU 情報経営イノベーション専門職大学客員教授就任

「行動の品質」「自分の力で稼ぐ力を身につける本」など著書7冊。
日経新聞、エコノミスト、NHKなどメディア掲載も多数。

塚本 健人

塚本 健人

兵庫県出身 関西大学卒業後、ソーシャルワイヤー株式会社へ入社。 1年後CROSSCOOP PHILIPPINES Inc.にGeneral Manegerとして着任。 主にフィリピン進出企業へのオフィスレンタル及び立ち上げ支援を担当。 本年度は過去最高売り上げ達成。新人賞を受賞。