事業承継にかかる贈与税や相続税の負担が軽減される?後継者は知っておきたい特例事業承継税制
- 事業承継税制が大幅に拡充されて実質税金ゼロで自社株の引継ぎが可能となりました
- この特例を使える会社、先代オーナー、後継者には要件があります
- あくまで納税猶予。猶予取消リスクと届出管理には注意する必要があります
平成30年度の税制改正で創設された事業承継税制の特例は、これまでの一般の事業承継税制よりも、さらに拡充したものとなります。
主な特徴は次の通りです。
一定の手続きによって一括で贈与をした自社株式の贈与税額の納税が、全額猶予されることとなりました。
また、贈与した先代が死亡の際には、猶予された贈与税は免除され、後継者が相続によって、自社株を引き継いだものとして相続税がかかりますが、この相続税額も全額猶予の対象となります。
従来の一般の事業承継税制では、全株式の2/3まで、評価額の80%が猶予されることとなっていましたが、創設された特例では、株式の100%、評価額の100%が猶予されることとなりました。
従来の一般の事業承継税制では、納税猶予が受けられるのは、代表権を有していた先代オーナーからの承継に限られていました。
しかし、歴史のある会社ほど、株式が先代オーナー以外の親族や第三者など、分散している傾向にあります。
先代オーナーの妻や、親戚、役員や従業員が保有しているケースも少なくありません。
株式は、経営者に集中している方が望ましいとの考え方から、先代オーナー以外の親族や第三者からの引継ぎについても、納税猶予が受けられることとなりました。ただし、先代オーナーからの引継ぎがあることが前提となります。
一般の事業承継税制では、承継後5年間、8割の雇用を維持しなければ、納税猶予が取り消され、猶予された税額を支払わねばなりませんでした。
しかし、特例では、維持できなかった理由を、認定支援機関である税理士などに記載してもらうなどの手続きをすれば、納税猶予を取り消されることはありません。
特例事業承継税制を使う場合は、必ず特例承継計画の提出が必要となります。
いつ、誰から誰へ承継するのかをまとめた計画となり、この計画を提出すれば、2018年1月1日から2027年12月31日までの贈与・相続については、拡充された特例事業承継税制の適用を受けることができます。
特例承継計画は、認定支援機関である税理士などの指導や助言を受けて作成する必要があります。
一般の事業承継税制があっても、なかなか事業承継が進まない現実を憂慮し、一層の促進を狙って、大幅に拡充された特例事業承継税制。
上手に使えば、株式の承継にかかる贈与税や相続税が免除されることとなります。
このとき、猶予されていた贈与税は免除となりますが、同時に、先代オーナーから、後継者へ、株式の相続があったとして、相続税の課税に切り替わります。株式の評価額については、贈与時の価額となります。
相続税についても、特例事業承継税制の適用を受けられますから、一定の届け出を行い、相続税の猶予を受けることが可能です。
このように、うまく使うことができれば、1代目から2代目への引継ぎにかかるはずだった贈与税や相続税を支払わずに、3代目に承継できたことになります。
この場合、暦年課税を採用すると、贈与税は(2億円ー110万円)×55%-400万円=1億500万円かかることとなります。
相続時精算課税という方式を選択すると、贈与税は(2億円ー2,500万円)×20%=3,500万円です。
特例事業承継税制の適用を受けると、これらの贈与税の納税猶予を受けることができ、税負担なしで株式の承継が可能となります。
このとき、猶予されていた1億500万円(相続時精算課税の場合は3,500万円)の贈与は免除となりますが、2億円の株式について、相続によって引き継いだとして、相続税がかかることとなります。
このときも、特例事業承継税制の相続税の猶予制度を適用することができます。
他の財産や相続人の人数にもよるのですが、他の財産が3億円、相続人は先代の妻(後継者の母)と後継者のみであった場合、相続税率は45%となりますので、株式の相続にかかる相続税は約9,000万円となりますが、全額猶予を受けることができます。
たとえこのとき、後継者の頑張りによって、株式の評価額が、STEP1のときの50万円から70万円に増加していたとしても、贈与のときの評価額で計算します。
上手にこの制度を使えば、贈与税1億500万円(又は3,500万円)、相続税に切り替わったとしても相続税9,000万円が免除されることとなるのです。
(3)で述べたように、最終的に3代目の後継者に承継されれば、晴れて免除となりますが、それまではあくまで「猶予」の制度です。
5年間保有し続けることや代表者であり続けることの要件を満たさなくなった場合や、5年を経過したのちに、株式を手放した場合などには、猶予条件から外れることになりますので、猶予された税額を一括で納めなければならなくなります。
5年後以降に株式の譲渡や解散などをした場合には、具体的にはどうなるのでしょうか。
原則として、猶予された税額は納付しなければならなくなりますが、業況が悪くなったなどの事情がある場合には、免除を受けることもあり得ます。
一般の事業承継税制でも、会社が破産・倒産した場合は、猶予税額は免除となります。民事再生や会社更生の場合には、株式評価をしなおして相続税を計算し、その時の株式の評価を超える部分の相続税は、免除されることとなりました。
特例事業承継税制では、2年以上赤字、売上高の減少、負債超過などの事情があり、外部への売却や合併、解散などがあった場合についても、株式評価をし直して、相続税を計算し、その時の株式の評価を超える部分の相続税は免除されます。
このように、特例事業承継税制は、猶予取消リスクについても、かなり軽減され、使いやすくなった制度といえるでしょう。