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第一回:職人から経営者への脱皮
こんにちは。本日はTEAMyoko-so代表の泉敬介先生にお越しいただきました。本日はよろしくお願いします。まず泉先生のプロフィールをお伺いしたいと思います。そもそも税理士を目指されたきっかけや、開業に至るまでの経歴を教えていただいてもいいですか?
助っ人編集部
泉 敬介
私は大学を出て大手電機メーカーに就職し、3年ほど勤めましたが、サラリーマンが自分には合いませんでした。組織が苦手だったんですね。なぜかと言うと、就職するまでの間、クライマーとして日本を代表する登山家の仲間との世界で過ごしていたので、個人主義的なところがあったんだと思います。一対一で山と向き合い自分の限界まで精一杯戦うものなので。10代半ばから20代までの友達はほとんど山で死んで、その頃の友達はあまり生き残っていません。そんなこともあったのでサラリーマンになってもどうしても組織が合わない。3年勤めてダメだったので、一人でできる仕事をしようと思い、25歳でやめて簿記や税法の勉強を始めました。31歳の時に独立をしました。その前に一箇所だけ会計事務所に勤めてからです。
泉さんはもうすぐ事務所が30年になり、従業員さんは50名近く採用されています。ここまで事務所を大きくするために、どのポイントポイントで事務所を大きくされましたか?
助っ人編集部
泉 敬介
独立したときには非常に組織が嫌いで一人でやる仕事ばかりでした。うちの一番最初のクライアントが今のワタミでした。ワタミの株式公開のお手伝いをするために財務経理部長を兼務したり、そのあとはFPの資格を取って、FPの試験委員をしたりしました。自分の好きなことを好きなだけやる形で、事務所の仕事は職員に任せきりでした。そのとき感じていたのは、「ストレスゼロです!やりたいことだけやってます!やりたくないことはやりません。」ということです。職人気質の個人事務所でした。ただ、10年くらい経つと職員も10人くらいになってきて、組織として戦う方向に持っていかなければならなくなりました。自分が職人から経営者に脱皮しなければならない時期がやってきたんですね。ただ自分は組織が嫌いで自分で好きなだけ仕事をしていたいという職人気質だったので、経営者の役割は主役である社員一人ひとりが成長していくようなステージを作って自分を超えるような人間を育てていくんだという経営者の考え方になるまで、3~4年かかりました。従業員が15人いるとき、一度に7人やめてしまったりしました。その頃に自分でミッションを明確にし、きちんとした理念経営をすることによって経営者に脱皮しようと思いました。これが10~15年の間にありました。そのころはどんどん従業員が辞めていくから、朝事務所に行く元気が出ませんでした。車の中で「私には価値がある!」と三回怒鳴らないと会社に行くパワーが出ませんでした。一緒に通勤していた妻が、「うるさいから外でやってよ」と言っていましたが、「外でやったら頭おかしいと思われるからできないんだよ」と言っていました。つまり、すべては自分の責任で、自分が変化しなければ周囲は変わらないということですよね。自分が少しずつ変化して成長し、平成15年くらいになったとき、経営者としてやっていけるようになったと言う感じです。そこが大きなポイントでした。
いきなり従業員の方がどっさり辞められたということでしたが、その原因は何だったと思いますか?
助っ人編集部
泉 敬介
1つは、自分が個人主義だったので、ある意味、良くも悪くも社員も自分もプロ同士として対等だと思っていました。例えば社員が5時に帰ろうとした時に、「なんで5時に帰るんだ、俺の半分しか能力がないんだから倍働いて当たり前だろ」と口には出さないけれど心の中では思っていました。そういうことに応えられる社員は少なく、いたとしても100人に1人くらいしかいません。山の世界ではそれが当たり前だったので、そのようなプロ同士の会社を作りたいと思っていましたが、そうはいきませんでした。その中で1人だけ生き残ってきた女の子がいます。彼女は現在の後継者なのですが、彼女がある時「サッカーチームでもイレブンだけで仕事をしているということはない。その下にはグランド整備の人、チケットもぎりのアルバイトもいる。そういう人たちが全部いて組織は出来上がっているんです。そのてっぺんにプロがいます。所長が言うようなプロだけでやっているチームや組織はありません。きちんとした組織を作ってサラリーマンの人もパートの人もみんながきちんと生きがいを持って働けるような組織に変えていくことによって、100年企業を作っていきましょう。」と言い、私もその通りだと思い、次のステップに向かって変化して行こうと決心した時期がありました。
とても素晴らしい社員さんですね。
助っ人編集部
泉 敬介
事務所で最初に採用した新卒で、そんな状況の中でも私についてきてくれました。今事務所は彼女が承継しています。
最初採用される際にはどういうふうに採用されたんですか?
助っ人編集部
泉 敬介
最初の頃はどのようにということもなく、募集をかけて、来た人を採っていました。他の事務所と同じように、できれば経験のある人がいいなと言うような感じでした。
当時は募集すれば人が来るような状況でしたか?
助っ人編集部
泉 敬介
何とか来ていました。
今だとなかなか募集をかけても人が来ないという事務所が多いです。当時は募集をかけたら来るような時代だったということでしょうか?
助っ人編集部
泉 敬介
そうですね。時代もあったし、選ぶ側も仕事ができればいいやという感じでした。その代わりに人の入れ替わりが激しくありました。
理念経営を導入したことによってどう社内環境が変わったのでしょうか?
助っ人編集部
泉 敬介
従業員が10人を超えた時に、まずは組織全体で目指す方向性を示すために理念を明確にして理念経営を導入をしました。次のステップは、平成20年に法人化・分社化した中で、それぞれの会社や仕事が違ってそれぞれの社長が違う中で同じゴールを目指すためには、理念経営をさらに一歩バージョンアップしないとバラバラになってしまうんです。そのために理念をさらに組織に浸透させるための手法としてクレド経営を導入しました。その後事業承継の時に第三段階があります。第二段階で理念経営をきちんとしていくためには、理念を統一して同じベクトルを持った仲間を集めなければいけません。そのためには中途採用ではなかなか難しいので新卒採用に変えていくことにしました。また、会計事務所にありがちな一人担当制から組織対応に替えて、理念実現のための組織を創るために製販分離体制を導入します。例えば一年前から今日までの間に、うちの事務所は大体100社を開拓しています。100社開拓すると、普通の事務所だと経験のある担当者を最低3人~5人雇わないとカバーできませんが、うちの場合は100社増えても中途採用を一人も採らず、新卒とアシスタントさんだけで対応できています。これは製販分離体制を取っているからできることです。
泉 敬介
事務所のミッションである「お客様のビジョン実現のサポート」を実現するために社長の隣で社長の課題を共有して、解決のお手伝いをすることだけの役割を持った財務担当者と、社内で製造部門を担当する業務担当者に分かれています。製造部門のメインはアシスタントさんと新卒で回していけるようなマニュアル化・システム化を図っています。その体制を整備するとともに、新卒採用においては説明会でクレドを使って理念、つまりミッションとフィロソフィー、バリューについて話をします。それに賛同する人だけ入ってもらい、入社後最初の一週間は理念研修のみを行います。さらに毎月の研修でも、実務研修とともに理念研修を行います。時間をかけて価値観のベクトルを合わせることをやっています。それによって、新卒採用者の割合が5割を超えて来た今、社内は非常に理念が浸透しています。また、自分たちが理念経営をすると同時に、お客様の理念経営をサポートするために、理念のベースの部分の確立に関してはクレド作成コンサル、その上に乗る目標達成の仕組みに関してはMAS監査という仕組みを、お客様に提供しています。これによってうちのミッションの「お客様のビジョンの実現」を具体的にサポートできる体制が整いました。
新卒の採用を始めたのは20年経ったときなんですね。
助っ人編集部
泉 敬介
そうですね。途中新卒は入ってきましたが、昔の新卒と今の新卒は少し質が違います。昔は税理士を目指していて大学を出ると、夏の税理士試験を受けて9月に入社する流れで、会計事務所の新卒採用時期は9月が一般的でした。今は新卒採用で4月から入る人も取っていますが、来る人のほとんどが税理士を目指してはいません。普通の会社と会計事務所の両天秤にかけて良いところがあったら入ろうかなと思って来ているので、全く簿記もわからない人が会社説明会にきます。内定を出した後4月までの間に簿記2級だけはとってきてと伝え、とってきてもらって、入ってから育てていく形になっています。昔から新卒の人がいたら採ってはいましたが、組織的にきちんと会社説明会をして新卒を採用し始めたのは25年くらいからになりますね。
第二回:理念を実際の業務にどう落とし込むか
綺麗事をどのように現場に落とし込んでいくのかというざっくりとしたイメージがありますが、実際に理念をしっかり実現させるためにどんな取り組みを普段やっていらっしゃいますか?
助っ人編集部
泉 敬介
うちは独立して3期目から経営計画書を作りました。その中に理念も書いてあって、それを社員に説明するという方法でやってきました。しかしこれを25年やってもなかなか浸透していませんでした。私の考えたことを私の言葉できちんと説明する場を設け、日々の仕事の中で、「理念がこう、ミッションがこうだから、こうやりましょう」と全てのことを連動させて話すことはしてきました。しかし浸透したのは3~4割だったと思います。3年前にクレドを作ろうということになり、ミッションはトップの私が作りますが、クレドを実現するために必要な行動規範、いわゆるバリューの部分は社員が半年かけてディスカッションして作りました。うちのクレドに書いてある行動規範、バリューは、社員がミッションに基く行動規範とは?そして、こんな人達とこんな風に働きたい。というものを文章化したものです。それを作ることによって、理念の浸透率は8割くらいになりました。自分たちで話し合って決めたことなので守ってやっていこうという社風が出来上がるとともに、非常に活性化しました。朝礼や研修はすべてクレド委員会が主導するようになり、会社説明会でも、教育でも、評価にも連動するような仕組み出来上がっています。クレドに書いてあるミッションとバリューに沿ってみんなが同じベクトルで仕事が出来るように大きく変わってきています。
委員会等の役割をそれぞれに与えることによってやはり考えるじゃないですか。主体性を大事にしたことによって、自分が作ったものだから大事にしようという思いが生まれて理念の浸透が深まってきているというイメージですか?
助っ人編集部
泉 敬介
そうですね。自分で作ったものが自分たちのものだと思うし、守ろうと思うし、それによって活性化するし、それによって新しいものを作ろうという思いも生まれてきます。その中でグループのコーポレートメッセージである「変わらないはつまらない」を実現するために、社長たちを指導する私たち自身がもっと早く変化をし続けようというのが事務所の思想の柱として動き始めています。
今の知識や経験を持ったまま昔に戻るとしたら、開業当時もしくは10年目くらいで理念経営は導入しますか?
助っ人編集部
泉 敬介
始めると思います。最初から理念は持っていましたが、それは私個人の理念で他人に強要する必要はないと思っていました。合わないやつはやめればいいという考えでした。それがちょっと形が変わって、同じ理念を掲げて賛同する人たちが主体的に動けるような場を作るという理念経営に、同じ理念経営でも質が変わってきています。
そうしますと、今開業されて3から5年目までの先生でも、理念経営をされることによって、
より組織としては強くなっていけるのでしょうか。
助っ人編集部
泉 敬介
そうですね。ただ、いつも話をするのは、やはりレベルやステージがあるということです。開業して10年目くらいまで、社員が10人くらいまではやはり先生がトップで、トップダウンで全て決めてガンガン引っ張っていかなければいけない時期があります。そこで無理矢理理念経営でみんな主体的にと言ってもなかなかできない場合が多いと思う。だから10年経って人が増えてきて、組織として動かなければならないとなったときに、自分がトップに立ちすべてを引っ張っていく職人から、みんなが育っていくステージを作ってあげるのが自分の本当の仕事なんだと変わるときに理念経営が大事になってきます。最初から理念経営がどうと言うこともちろんあるけれど、ステージに合わせて自分が成長していきながら理念経営のレベルを高めていくのが一番わかりやすい言葉なんじゃないかなと思います。
自分がトップで走っている時は個人の理念を大事に走っていき、組織化していくタイミングで社員皆が共有できておなじゴールを目指せる理念経営を導入していくのが良いのではないかということですね。
助っ人編集部
泉 敬介
組織の理念とは言っても、根っ子には経営者個人の人生理念があり、そこから生まれた組織の理念が出来上がるべきです。逆に言うと個人の理念がきちんと持てない人は会社の理念は、どこかの会社から借りてきたものになってしまいます。だから個人の理念を整理することによってみんなで共有していくべき会社の理念が出来上がって、それに伴ってビジョンが出来上がります。そうでないと本物でないです。それが1番難しいところですね。
ぜひ泉先生に知恵をお借りしたいと思います。もし僕が個人事務所やっていたとして、開業して3、4年目です。パートさんとかを雇って行きたいのですが採用募集を出してもなかなか人が来ません。もし泉先生だったらどんなふうに採用活動されますか?
助っ人編集部
泉 敬介
最初は自分の理念みたいなもの、理念と言う言葉が難しいけれど、「何のために仕事をしていて、何を目指しているのか、世の中にどうやって貢献しようとしているのか」と言うことを熱く持っていれば賛同する人が出てきます。そういう人たちを少しずつ集めていきながら理念経営をバージョンアップさせていく方法がいいんじゃないかと思います。会社説明会をしたときにアンケートを見ると、「他の事務所ではこういう条件でこんな仕事ですという説明会でした。御社の場合は熱く熱くミッションを語って、世の中にこうやって貢献して、命を削ってこのために戦おうという案内で、給与がどうで労働条件がどうという話はありませんでした」と書いてあることがあります。こう書いた7割から8割はうちに来ません。残った2割から3割から、どうしてもうちで働きたいと言ってくれる人が出てきます。そうやって人を動かしていく理念やミッションがあり、それに賛同してくれる人たちが集まってくるというのが私の社員の集め方です。ただ単に人が増えればいいという話ではありません。そういうふうに考え方を変えて、こういう人たちを1人でも2人でも集めていこうという思いが理念経営なんですね。