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第三回:事業継承に必要なこと
ありがとうございます。今まで第一段階、第二段階と事務所と先生自身が成長してきたポイントを伺っていましたが、次に第三段階とおっしゃった事業承継についてお聞きしたいと思います。後継者育成や後継者の人選をされる基準はどういったものですか?
助っ人編集部
泉 敬介
たくさん質問されますが、後継者は育てるものでもお願いするものでもありません。命令するものでも頼むものでもありません。「私が後継者になります」と言う覚悟がなければいけません。よく「将軍は育てるものじゃなくて這い上がってくるものだ」という言葉がありますが、そういう方向に行くよう人を育てていく、それによって、先ほど話した山本が平成19年の夏に私のところに来て、「昔からいつか一緒にやろう、法人化をして100年企業を作ろうという話でしたがいつ法人化するんですか。私はパートナーになろうと思って貯金で1000万貯めました。」と言うんです。この言葉を聞いたとき、覚悟した奴が出てきたと思ったんです。サラリーマンは働いてもらったお金で生活を成り立たせますが、自分のお金をそこに突っ込んで自分の夢を実現しようとするのは経営者の考え方です。そういう思いを持つ人が出てきたから、これはやらないといけないと思い、翌年すぐに法人化して、彼女を後継者候補として指名し、平成20年から育成をスタートしました。
山本さんとの関わりは幹部クラスの関わりだと思いますが、普段どんな関わりをされていた
のですか?
助っ人編集部
泉 敬介
後継者候補ですから私は本気で関わることにしています。山本とも今までいろいろなことで意見がぶつかって「このばか!これがわかんないならやめろ!」と言い、彼女も「辞めさせていただきます!」と言って帰ったことが今まで3回くらいありました。けれど、翌日「一晩考えたけれどもう少しやることにしました」と言って来ました。それくらい本気で関わることによって、のし上がってくる者はのしあがってくるんです。本気で関わるっていうのは、ワタミ創業者の渡邉さんから学んだんです。彼は本気で関わっていました。だからこそ上場したんだし、私も本気で関わっていこうと思いました。怒るときは人前で怒らず別で怒るとか、そういうテクニックは関係なく、怒るときはその場で思い切って怒るんです。でもそれが本気なんだと伝わればいいので。それくらいしかありません。
後継者を山本さんに決めてから、育成はどのようにしましたか?
助っ人編集部
泉 敬介
平成20年に法人化をして、後継者を山本に決めてから自分の中で「事業承継とはなんなんだろう」と考えました。お客様の事業承継をサポートする中でいつも感じるのですが、「社長はなにを引き継ぎたいんですか?」という問いに答えられる人はあまりいません。今ある商品か、従業員か、顧客か、工場や社屋か、会社のお金か。それがわからないと、社長が30年かけて築き上げてきたものを漠然と引き継げと言っても難しい。社長は30年かけて足腰が鍛えられているから重いものを持てるけれど、足腰の弱い後継者では、それを持つだけで精一杯でアクションを起こすことができません。若しくは、それを全て投げ捨てて自分勝手にやろうとするかです。それではいけません。商品だって人だって変わっていく中で、ミッションと社風、うちでいうところのフィロソフィーですね。バリューの核となっているところだけは引き継いでください、ということです。それ以外は社名を変えようが商品を変えようが社員を変えようがいいのです。ミッションというのはお客さんのビジョン実現をサポートするというものなので、そのためにもし必要でなければ、税理士の資格を捨てても構わない。そう言ったんです。資格は道具であって、それが目的で仕事をしているわけではないので。彼女は僕のこの言葉ですごく楽になったみたいです。ミッションとフィロソフィーだけを引き継ぐことが先代との約束なんだと思っているんですね。だから彼女が目指しているのは、ミッションやフィロソフィーは私の個人理念なので、それを受け止めるために、彼女自身が歩くミッションになるかのように引き継ぐことなんです。そこで第三段階目に入ります。理念経営の核であるミッションとフィロソフィーとはなんなのか、ということをきちんと考えてエッセンスを次に引き継ぐ中で、第三段階に入るわけです。
今お話をお伺いする中で、理念経営の奥深さを垣間見た気がします。事業承継、育成でやっているのが、ミッションとフィロソフィーをいかに擦り合わせられるかだと思いました。どれだけお互いが思っていることを一致させることができるかでしょうか。
助っ人編集部
泉 敬介
ミッションは来年実現するとかではなく、この組織があり続ける限り100年でも200年でも500年でもずっと目指していこうという崇高なものじゃないといけない。そこまで行かなくてもチャチなものではいけないんです。それが大きなものであればあるほど賛同する人がいます。ただ、大きいものというのはある意味曖昧なので、その途中経過として、ミッションから逆算した3年後5年後のビジョンが重要になってきます。そのビジョンはミッションのから逆算したものじゃないといけません。現状から伸ばしたものではなく。よく言われるんですが、中小企業とベンチャーの違いはなにかというと、ベンチャーは、こういうミッションに向かうために5年後に上場しようというビジョンがある、今年売上1億で、5年後に上場するためには50億必要だ。4年後には30億で3年後には20億で、というと来年は1億から10億にしないといけない。そのために何をするか、と課題を挙げてそれを解決していくことによって近づいていくんです。つまり、現状とビジョンのギャップが課題であり価値なのですね。でも中小企業は違います。今年1億だから、来年頑張ったら1億2000万くらいいくかな、って積み上げていくと、5年後には1億4500万かな、というような。それが中小企業です。ベンチャーや、ミッションを持った理念経営をしている会社なら、現実からは切り離してミッションから逆算したビジョンを明確にして、現状とビジョンのギャップを課題化してプライオリティをつけ、計画に落とし込んで価値化していくということを繰り返します。それをお客様に伝えるためにはめず自分たちがやらなくてはいけません。だから、大きいミッションは継承できるけれど、5年後10年後のビジョンはそれぞれ意見がある。今はリーダー合宿をしながら、リーダー全員で話し込んで5年後のビジョンを明確にします。それを具体的な行動計画にしています。
やはり税理士業界はAIの進出が言われていますが、今後の税理士業界をどうお考えですか?また、その中で選ばれる税理士になるためにはどんなことが大事だと思いますか?
助っ人編集部
泉 敬介
少子高齢化で人が減り、お客様も社員も減ります。それと同時にAIが台頭してきて、士業を脅かします。新聞に税理士業務の93.5%はAIに代替されるが、中小企業診断士の仕事は3~4%しか取られないと書かれています。そういうことを考えていくと、うちがしなければならないのは、まずAIを怖がらずに積極的に取り入れることです。これは避けようとしても避けられません。だからAIと徹底的に向き合う。freeeだとかMFクラウドさんとがっつり組んでセミナーをしたりしています。まずは私たちが取り込んで効率化をするとともに、これを使ってお客様のバックオフィスの効率化を進めます。AIやITによってコンサルをしていくんです。うちはSEも雇っています。AIとともに税理士業務というよりコンサルを作っていく勢いで積極的に戦っていかなくてはいけません。そしてもう一つは全く逆で、AIに取って代わられないのはお客さんの心をサポートする業務です。経営者の判断は、AIが計算して出す、こちらを選んだら88.5%でそちらを選んだら79.5%上手く行くだから、88.5%の方を選ぼうとはなりません。お客さんは面白いか、楽しいか、どうしてもやりたいか、どちらがワクワクドキドキするかなどによって選択をしていきます。そういう社長の気持ちをサポートして、時にはきちんと諭したり、背中を押したりします。経営サポート業務はAIには取って代わられません。だからこれをうちのメイン業務にしていこうと思っています。つまり、AIとがっつり組んでお客さんのバックオフィスを効率化することをSEを採用して主導していくこと、AIには代われないMAS業務をきちんと確立することです。あとはきちんと社員が働きやすくて働きがいのある会社を作っていこうということ、その基盤がクレドを使った理念経営です。働きがいと働きやすさがある事務所をつくっていきます。これが事業承継に対する三つ目の話でした。
第四回:紹介とセミナーで集客を進める
たしかに働きがいがあるか、会社の思いに共感できるかはすごく大切です。僕も共感したから入っています。この人のところで働きたいから働くというのもありますし、それが今の時代のテーマなのかなと思いました。開業されてから集客はどのように変化していきましたか?
助っ人編集部
泉 敬介
最初は事務所を大きくしていこうという気はありませんでした。好き勝手にやっている状況だったので、10年たった時に社員10人、売上1億、20年で社員20人、売上2億円、25年の時は25人2億5000万という感じでした。真面目にコツコツやっているとお客さんからご紹介いただけて、1年で1000万伸びて人が一人増えるというのが標準でした。でも最近はWebマーケティングで集客をして10年で100人とかいう人がいますが、昔はそうでした。うちも25年経ったときに25人2億5000万を次の5年で50人5億体制にしていこうという中期計画を立てました。今後の事業環境を考えると生き残るには「地域密着型の高付加価値業務で地域一番」になる必要性を感じたからです。今ちょうど4年目が終わるところです。47~8人になっていて、来年末には50人になる計画を達成します。増やすために5カ年計画の第1年目はまず製販分離体制を整えました。いくらお客さんが増えても耐えられる組織にするためにです。また、人を採用するために総務部を強化しました。それが平成26年です。平成27年にはそれを具体的にビジュアルにするためにここに引っ越してきました。95坪から250坪に引っ越しです。70人以上座れるんだけれど来た時は30人しかいませんでした。50人以上入れるセミナールームもあるし、接客コーナーも6つあります。でも前は2つしかなかったんです。毎年100件お客様が増えたらその3~5割は来客型にしていかなければならない。2つの接客コーナーでは足りないから増やしていく。同時にセミナーをやるためにセミナールームを作りました。そして、社員が増え組織が分社化する中では今までの理念経営の手法では立ち行かなくなるからクレドを導入しようとクレド委員長を任命し、平成28年には半年かけてクレドを作りました。社内の方向性がきちっと固まり、いよいよ平成29年からは具体的にそれをするために拡大に入ろうとなって、船井総研を入れてウェブマーケティングをやるとともに、税理士資格、簿記・税務の知識のない総務課の女の子がクロージングまでできる体制を取りました。お客様からかかってくる電話やメール対応は簿記・税務の知識がある人しかできないとなると時間がかかってしまうので、総務課の専門知識の無いメンバーが対応し会社の説明をし、料金設定も話し、契約書を書いてもらう。それによって年間100件の拡大を可能にしています。これらのことを順番にやって今増やしています。25年間は真面目にコツコツやって大きくすることは考えていませんでした。26年目から拡大を目指す地域一番戦略が始まっているんです。
25年間は営業は泉先生が積極的にされていたんですか?
助っ人編集部
泉 敬介
営業はほとんどしていませんでしたね。セミナーはしていました。お客様に情報を提供しようと思って。その中で、セミナーのお客様が知り合いを連れて来てくれたり、セミナーのチラシを商工会議所やウェブに出すことによって外部の人と知り合いになったり。それ以外はほとんど紹介していただく増やし方で、無理やり増やそうという気はあまりありませんでした。
そうするとご紹介とセミナー集客でお客様を徐々に増やしたということですか?
助っ人編集部
泉 敬介
そうですね。
25年目以降はどのように開拓されていますか?
助っ人編集部
泉 敬介
今はウェブマーケティングとともに、セミナーをもっときちんとやろうと、毎月一回の経営塾と別に、年四回、各三回シリーズで新規のお客様に出会う場としてセミナーをやっています。今年からは提携している社労士事務所さんと共催という形でやっています。いわゆるセミナー集客、ウェブ集客で出会った方には囲い込みをし、セミナーに来ていただき、というジョウロ型の集客をしています。人口が減少し事業所数が減少する中では、単に紹介に頼っていたのでは計画的な拡大は出来ないからという理由があります。
そんな泉先生の今後の目標を教えてください。
助っ人編集部
泉 敬介
私の場合は今年の頭に事業承継をしているので、自分の目標が、昔は自分の好きな仕事をしていい事務所を作っていうということだったのが100年続く事務所にしようという規模の違うものになり、見えるものも変わって来ました。ここから先は後継者が引き継いで、事務所が助走から次のステージに飛び立てるようにサポートするとともに、自分自身は理念確立の仕事をしていこうと思います。会社の理念だけでなく、子育てから家庭のことまでうちのフィロソフィーは一緒です。そのことを伝えていく仕事をしたいです。うちの職員で失恋した女の子が、その時に経営計画書のフィロソフィーを読んで自分の心をコントロールする方法を見つけましたと言うんです。すごく嬉しかったです。フィロソフィーは仕事だけでなくその人の人生全てのためにあります。
今のは嬉しいですね。プライベートでも会社のフィロソフィーが生かしてもらえるとは。最後に、記事をご覧になっている方に向けて学びや成長につながるメッセージをお願いしたいです。
助っ人編集部
泉 敬介
うちのフィロソフィーの1つに、「AHO(アホ)プライド」というのがあります。「未来を切り開けるのは常に自分の限界を定めないアホなや奴らだけだ。胸を張って自分のことをアホと言える自分でありたい。」そのことを若い人には伝えたいです。物分かりのいい、空気の読める人じゃなくて、自分の目指しているものに対しては狂ったように取り組む人が世の中を切り拓いていきます。計算をして得な方を選ぶタイプの人は新しい世の中を作っていけません。アホになって全て突破して新しい時代を作って欲しいです。
本日はTEAMyoko-so代表の泉敬介先生にお越しいただきました。ありがとうございました。
助っ人編集部
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