法人税だけではない?初めての役員報酬を決めるときに考えておきたい3つのポイント

ポイント
  1. 役員報酬はどうやって決まる?
  2. 経営上のポイント
  3. 税務上のポイント
  4. 役員報酬額を決定する具体的な流れ

目次 [非表示]

経営者にとって役員報酬とは仕事の成果であり生活の糧でもあります。もしかすると会社の経営以上に関心を持っていることかもしれません。また、会社の利益は少ないほど節税につながるので、税法で認められる限り最大限役員報酬を大きくすればいいと考えるでしょう。

しかし、役員報酬の仕組みは大変複雑です。法人税だけでなく、経営者個人の所得にかかる所得税、社会保険料なども考慮する必要があるのです。また、会社の経営に与える影響も忘れてはなりません。

本記事では、経営者が全額出資するスタートアップ段階の一人会社を想定して、初めての役員報酬を決めるさいに考えておきたいことについて、さまざまな角度から解説します。検討を始める前に大まかなイメージをつかむためことが重要ですので、是非参考にしてください。

1 役員報酬はどうやって決まる?

初めての役員報酬はいくらに設定するのが妥当なのか。新人起業家にはつかみどころが無く悩むところです。悩む原因はおそらく、判断材料が無いからでしょう。

 1-1 役員報酬は好きなように決めて良い?

役員報酬を決定する権限は株主総会にあるので、極論を言えば、一人会社であれば好きなように決めて良いことになります。しかしながら、非現実的なほど大きな額を設定しても意味はありません。また余計な税負担が生じたり、資金繰りを圧迫したりと、さまざまなところに影響が出てしまいます。そこでまずは、役員報酬を決めるために必要な手続きを確認して、その手続きを踏まえながら報酬額を決めるための判断材料を考えていきましょう。

1-2 役員報酬を決めるための手続き

一人会社の場合、役員報酬を決めるさいに必要な手続きの流れは、大きく分けると以下のとおりです。

① 報酬額の株主総会決議と議事録作成
② 年金事務所、自治体への届け出

① 報酬額の株主総会決議と議事録作成
まずは、株主総会で出資者の総意のもとで報酬額を決定する必要があります。つまり、「会社として報酬額をいくらにするのか」の意思決定の手続きということです。一人会社の場合、株主は経営者個人のみですから、経営者自身の意思がそのまま反映されることになります。

ただし、その場合でも形式上の総会開催と議事録作成がのちのち手続きのためには絶対に必要になりますので、忘れずに書面に残しておきましょう。議事録の作成は、法人税を計算するさいに役員報酬を損金(=必要経費)とするための条件です。また、後述する役員報酬の種類によっては税務署への届出が必要な場合があります。

② 年金事務所、自治体への届け出
そして、忘れてはならないのが、年金事務所や自治体への届け出です。これは、経営者自身の社会保険料や住民税額も報酬額によって決まる仕組みになっているため、決定した報酬額を報告する必要があるからです。

1-3 考えておきたい3つのこと〜「会社の利益計画」「法人税の損金算入額」「経営者個人にかかる税金や社会保険料」

前述した手続きの流れを見ると、最初に報酬額を決定することになっています。次に、会社としての意思決定と税務上の手続き、社会保険などの手続きへと進んでいくことがわかります。つまり、決定した報酬の金額が、税金や社会保険料の負担額に影響を及ぼすわけです。

そうすると、手続きの順序はどうあれ、最初に報酬額を決定する段階で、前もって税金や社会保険料への影響を考慮しておく必要があることになります。報酬額をいくらに設定すれば、会社や個人の負担額がいくらになるのか、というシミュレーションが判断材料になりそうです。

また、そもそも役員報酬は会社が獲得した利益がその源泉になりますから、どれだけの利益が獲得できるのか、ということを考慮せずに報酬額を決定するのはナンセンスでしょう。

以上から、役員報酬を決定するさいに考えておきたいことは以下の3点です。

この3点に沿って、注意すべきポイントを確認します。①は会社経営上のポイントとして、②と③は税務上のポイントとして整理します。

2 経営上のポイント

まずは、役員報酬の源泉である会社の利益について考える必要があります。会社が獲得できる利益よりも大きな額を役員報酬として設定することは、他のいずれの条件を満たしていたとしても、適切でないことは明らかです。つまり目標利益の額が役員報酬の最大限度額と考えることができます。

2-1 役員報酬が経営に与える影響とは?

役員報酬の支払いは、当然ながらキャッシュ(=現金)の流出をともないます。毎月同額の役員報酬を支払うのであれば、毎月一定額が手元資金から支払われることになります。毎月それだけの利益やキャッシュを確保する必要があるのです。

さらに、会社によっては、月ごとの売上高などは変動するでしょう。そうなると当然キャッシュの出入りも月ごとに変わってくるでしょう。役員報酬の支払いが原因で資金不足におちいるのは経営上とても危険なことです。このようなことから、獲得するであろう利益やキャッシュのボリュームに合わせて月ごとの支払額にメリハリを付ける、という戦略も選択肢の一つとして挙がります。そこで、必要になってくるのが綿密な利益計画や資金計画です。

2-2 綿密な利益計画や資金計画とは?

報酬額の上限を決定するうえで、報酬の源泉である利益額を明確に把握することが重要です。「一年間に獲得できる売上げはどれくらいか」「そのために必要な費用はどれくらいかかるのか」などを可能な限り正確に予測して、目標利益を計算します。そしてさらに、役員報酬の支払方法を考えるうえでは、一年間だけではなく、月ごとの利益や資金繰りを考慮する必要があります。

そのために利益計画および資金計画を綿密に策定しておく必要があります。年間の収益と費用だけではなく、月ごとにどれだけの利益を生み出せるのか、また手元資金はどれくらい保持できるのか、ということを可能な限り綿密に計画しておくことが重要です。

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3 税務上のポイント

次に、役員報酬額の決定で考慮すべき法人税法でのルールを確認しましょう。ここで考えておくポイントは、役員報酬がどこまで損金として処理できるのか、という点です。損金算入できない報酬を支払うことも可能ですが、それだけ税負担が増えてしまうからです。

3-1 損金算入の条件とは?

法人税法では、役員報酬(税法上は「役員給与」と呼ばれています。)をできるだけ損金として認めない立場をとっています。なぜなら、役員報酬は利益を圧縮する効果があるので、利益調整に用いられるおそれがあるからです。

例えば、期末が近くなった時に、想定以上に利益が多くなりそうだとして、そのぶん役員報酬を上乗せして支払われるというようなことが考えられるわけです。そこで、法人税法上、役員報酬が損金として認められるのは、以下の場合に限られています(2018年3月現在)。

損金として認められる役員報酬の範囲

①の定期同額給与は、1カ月以下の一定期間ごとに同額の支払いをする場合です。従業員の給与と同じようなイメージです。

②の事前確定届出給与は、定期的にではなく、いわゆるボーナスのように一時的に支払われる報酬のことを指しており、時期と金額を事前に確定させておく支払い方式です。この方式を採用する場合は、事前に税務署への届出がないと原則認められません。

③の業績連動給与はいわゆるインセンティブ報酬と呼ばれるようなもので、会社の業績に連動させて報酬額が決まる仕組みです。ただし、業績連動給与が認められるためには、別途厳しい条件をクリアする必要があり、上場企業など大きな規模の会社を想定した制度です。

一人会社の場合で初めて役員報酬を設定するなら、①の定期同額給与を基本に考えておくのが無難でしょう。ただし、前述したような資金繰りの問題をクリアするために、②の事前確定届出給与を組み合わせることも考えられます。

このように、法人税法が求めていることは、報酬額が「事前に決められていること」です。理由は、あからさまな利益調整を防ぐためです。また、年度途中での変更は不可能ではないですが、かなり厳格な条件がありますので、やはり最初の決定が重要だと言えます。さて、ここで注意点があります。上記の規定はいずれも報酬の「支払い方法」に関する要件を規定したものです。「報酬額」を決定する際には参考になりません。

法人税法で「報酬額」についての規定として明確なものは無く、ただ「不相当に高額な部分は損金算入できない」とされています。ところが、「不相当に高額」の基準については、きわめて抽象的です。最終的には税務当局の判断に委ねられることになります。そこで一つの参考情報として、国税庁が公表している「民間給与の実態調査」があります。ここでは、企業規模ごとなどの役員報酬の平均額が明らかにされています。平均額を基準の一つとして参照することは、不相当に高額になっていないかを確認する上で有用でしょう。

3-2 法人税と所得税のバランスを考える

役員報酬を大きく設定すれば、会社の利益を減らすことになるので、それだけ法人税の節税につながります。ただし法人税法で損金として認められる範囲がわかったとして、その範囲内で最大限に設定すれば良いかというと、必ずしもそうではありません。

役員報酬は、経営者個人の収入になります。収入が大きければ大きいほど、経営者個人にかかる所得税や社会保険料、住民税の額が大きくなるからです。つまり、会社のもうけが減った分だけ会社から納める税額は少なくなりますが、同時に個人の収入から支払うべき金額が増えることになるわけです。一人会社の経営者は、会社の所得と個人の所得の2つを合わせて、両者で最適な額を考えることが必要です。

・収入が1000万円だった場合
例えば会社が1000万円の利益をあげたと仮定して、そのうちのいくらを役員報酬にして、いくらを会社に残すか、という配分の問題としてとらえます。
1000万円のうち100万円を役員報酬として経営者個人の収入にしたとします。この場合、会社の課税所得は900万円となり、ここに法人税が課税されます。経営者個人としての収入は100万円で、そこから必要経費を除いた額を基礎として所得税が課税されます。

これが、逆に900万円を役員報酬とした場合、100万円が会社のもうけとなります。合計額は同じなので同じ結果になりそうですが、実は法人税と所得税の合計額が変わります。法人税と所得税の計算の仕組みが異なっているからです。

税額計算の仕組みは大変複雑であるうえに、頻繁に生じる税制改正や通達の影響を受けます。また、法人税や所得税だけではなく、社会保険料や住民税もあわせて考慮する必要があります。計算を行うさいには税理士等の専門家の助言を受けたほうが良いでしょう。最適な配分は必ず求めることができます。

4 役員報酬額を決定する具体的な流れ

最後に、まとめに代えて、これまでの内容を踏まえて報酬額を決定するための具体的な流れを一例として紹介します。あくまで一例ですので、最適な方法になるかどうかは会社の実情に合わせて判断してください。

まずは、利益計画を綿密に作成して、最大限度額を把握します。次に、経営者個人にかかる所得税や社会保険料等の金額を考慮して、実際の手取り額と会社に残る金額の合計額が最大になるようにバランスを取ります。そして、役員報酬の額が不相当に高額になっていないか、税務統計などを活用して検討します。

最後に、利益計画と資金繰りを考慮しながら月ごとの支払い方法を検討し、法人税法上損金算入が可能かどうかを判断します。このとき、法人税法に詳しい税理士に相談するのがより良いでしょう。これで報酬額と支払方法が決定しますので、その後で、会社の意思決定手続きを行い、必要に応じて税務署に届出をして、年金事務所等への手続きを行います。

いずれにしても、最初にしっかりと綿密な計画を立てるということが、最も重要です。まずは想定できうる限りの情報を集めて分析し、どれだけの収益を上げることができるのか、かかる費用がどれくらいなのかをシミュレーションするところから始めて下さい。

最適な答えは必ず見つかります。

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