【第3回】シニア起業で勝ち組になる秘訣〜改正高齢者雇用安定法の概要〜
- 改正高齢者雇用安定法の落とし穴
- 継続雇用の実態を知る
- 60歳以降の社会保険料を試算してみる
シニア起業支援家 白根陸夫です。この記事は平成7年(1995年)創業以来23年超、一貫して再就職支援のパイオニアとしての経験から、中高年齢者の定年後の「生きがい」「遣り甲斐」「望み通りの収入を生涯に渡り得る」の三拍子そろった仕事を自らで創造し、セルフ・マーケティングで市場を開拓し、充実した「生涯現役」を実現する方策を伝授するために著わしたものです。
ここで誰でも一度は考える定年後65歳までの5年間を継続雇用で繋ぐ途について考えてみます。
継続雇用の根拠となるのは、正式には「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律」といいます(施行期日:平成25年/2013年4月1日)。
少子高齢化が急速に進展し、若者、女性、高齢者、障がい者など働くことのできる人全ての就労促進を図り、社会を支える全員参加型社会の実現が求められている中、高齢者の就労促進の一環として、継続雇用制度の対象となる高齢者につき事業主が定める基準に関する規定を削除し、高年齢者の雇用確保措置を充実させる等の所要の改正を行うことが趣旨です。
法改正は高齢者が少なくとも年金受給開始年齢(満65歳)までは意欲と能力に応じて働き続けられる環境の整備を目的としています。継続雇用制度の対象となる高年齢者につき事業主が労使協定により定める基準に限定できる仕組みが廃止されました。改正前法律では継続雇用の対象者を限定する基準を労使協定で定めることができました。
今回の改正でこの仕組みが廃止され、平成25年4月1日からは、希望者全員を継続雇用の対象とすることが必要になりました。誰でも希望すれば定年後65歳までは継続雇用が可能になりました。
【経過措置】ただし、以下の経過措置が認められています。
平成25年(2013年)3月31日までに継続雇用制度の対象者の基準を労使協定で設けている場合
平成28年(2016年)3月31日迄は61歳以上の人に対して基準を適用すること可
平成31年(2019年)3月31日迄は62歳以上の人に対して基準を適用すること可
平成34年(2022年)3月31日迄は63歳以上の人に対して基準を適用すること可
平成37年(2025年)3月31日迄は64歳以上の人に対して基準を適用すること可
たとえば、平成28年3月31日までの間は、61歳未満の人については希望者全員を対象にしなければなりませんが、61歳以上の人については基準に適合する人に限定することができます。
継続雇用制度の対象者を雇用する企業の範囲の拡大
継続雇用の対象となる高年齢者が雇用される企業の範囲をグループ企業まで拡大する仕組みを設ける。出所:厚労省HPより。
ここで留意すべきことがあります。継続雇用には落とし穴があります。この法律が義務づけているのは「継続雇用制度の導入」であり、たとえば「週3日勤務、2人で1人分の業務を担当する」という勤務形態は「合理的な裁量の範囲」で、適法とされます(厚労省HP「高年齢者雇用安定法Q&A<高年齢者雇用確保措置関係:Q-1>」)。このため定年前と定年後では、仕事の内容は大きく変わる恐れがあるのです。
60歳定年後、大手企業のほとんどの高年齢社員は継続雇用制度で以後5年間勤務を継続することを選択します。ここに大きなリスクが潜んでいます。高年齢者雇用安定法が定めているのは、高年齢者に65歳までの雇用制度を用意することです。高年齢者のそれぞれの希望に合致する雇用条件を用意するところまでは義務付けられていません。
ですから、会社の用意した労働条件が合理的なものであれば、結果的に高年齢者からの同意が得られずに雇用契約が成立しなくても違法にはなりません。この制度を利用する者は定年60歳以降、5回の契約更新は約束されたものではないことに留意する必要があります。「再雇用制度」とは定年の年齢を迎えた労働者に対して、一度退職の手続きをとり、新たに雇用するものです。
新たな雇用の際の身分は、嘱託社員、パートタイマーなど、社内の規定に合わせます。1年ごと会社から提示される条件に同意しなければ翌年度の契約更改はナシとなります。いつでも自分の意思で進路選択できる途を担保しておかなければなりません。
◆以下、三件のQ&Aを紹介します。
Q1-4: 継続雇用制度について、定年退職者を継続雇用するにあたり、いわゆる嘱託やパートなど、従来の労働条件を変更する形で雇用することは可能ですか。その場合、1年ごとに雇用契約を更新する形態でもいいのでしょうか。
A1-4: 継続雇用後の労働条件については、高年齢者の安定した雇用を確保するという高年齢者雇用安定法の趣旨を踏まえたものであれば、最低賃金などの雇用に関するルールの範囲内で、フルタイム、パートタイムなどの労働時間、賃金、待遇などに関して、事業主と労働者の間で決めることができます。
1年ごとに雇用契約を更新する形態については、高年齢者雇用安定法の趣旨にかんがみれば、年齢のみを理由として65歳前に雇用を終了させるような制度は適当ではないと考えられます。 したがって、この場合は、
[1]65歳を下回る上限年齢が設定されていないこと
[2]65歳までは、原則として契約が更新されること(ただし、能力など年齢以外を理由として契約を更新しないことは認められます)が必要であると考えられますが、個別の事例に応じて具体的に判断されることとなります。Q1-9: 本人と事業主の間で賃金と労働時間の条件が合意できず、継続雇用を拒否した場合も違反になるのですか。
A1-9: 高年齢者雇用安定法が求めているのは、継続雇用制度の導入であって、事業主に定年退職者の希望に合致した労働条件での雇用を義務付けるものではなく、事業主の合理的な裁量の範囲の条件を提示していれば、労働者と事業主との間で労働条件等についての合意が得られず、結果的に労働者が継続雇用されることを拒否したとしても、高年齢者雇用安定法違反となるものではありません。
Q1-10: 当社で導入する継続雇用制度では、定年後の就労形態をいわゆるワークシェアリングとし、それぞれ週3日勤務で概ね2人で1人分の業務を担当することを予定していますが、このような継続雇用制度でも高年齢者雇用安定法の雇用確保措置として認められますか。
A1-10: 高年齢者の雇用の安定を確保するという高年齢者雇用安定法の趣旨を踏まえたものであり、A1-9にあるとおり事業主の合理的な裁量の範囲の条件であれば、定年後の就労形態をいわゆるワークシェアリングとし、勤務日数や勤務時間を弾力的に設定することは差し支えないと考えられます。
このことを前提に自分が継続雇用を希望したとき会社がどのような条件を提示してくるか、今置かれている立場をよくよく考えた上で、飲めない条件を提示してきたときの対応策を考え、すぐ行動を起こすことができるよう、50歳代はその準備のための貴重な期間なのです。
大手企業に勤務する50歳代に聞くと、自分は貴重な人材なので60歳以降もなんとか今の処遇で行けそうだということを異口同音に聞かされますが、当人の人件費で新卒3名が雇えるのです。会社の中高齢者に対する見方はきわめて厳しいものであることを自覚する必要があります。ゆめゆめなんとかなるだろうなどと気楽に考えて50歳代をのんきに過ごすことはあってはなりません。
ワークシェアリングであれば時給となります。時給は労働する地域に適用される最低賃金(A1-4)が下限となります。東京都の場合は958円(平成29年<2017年>10月1日発効/厚労省HP)です。1日7時間、週3日勤務であれば、958円*7時間*3日*4週=80,472円/月額(年収965,663円)。正社員ではないので継続雇用者は非正規社員に区分されます。当然、昇給・ボーナス・退職金もありません。
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