スポンサーと共闘していく。尖り続けるヴォレアス北海道のスポーツビジネス戦略
- 常識はずれのスタートダッシュ、そして優勝
- 地方創生とスポーツビジネス
- スポンサー契約の先を見据える
2025年には、15.2兆円市場規模へ拡大することを目指しているスポーツビジネス業界。目前に控える東京オリンピックへの期待・有料動画配信サービスの発達も相まって注目を集めている。
そんなスポーツビジネス業界で頭角を現すのが、北海道旭川のバレーボールチーム「ヴォレアス北海道」。2017年にVリーグに参戦し、日本のバレーボール界に実力・プロデュース力を持って新たな風を吹かせている。今回はヴォレアス北海道の代表・池田憲士郎さんにお話を伺った。
ー本日はよろしくお願いします。ヴォレアス北海道の沿革を見てあまりのスピード感に驚きました。
池田:2016年にヴォレアス北海道創立、2017年にVリーグに参戦して優勝しました。運営企業の株式会社VOREASは2017年11月設立ですね。
ヴォレアス北海道 年表 | ||
2011年 | 株式会社アイ・ディー・エフでバレーボール部が発足 | |
2015年 8月 |
池田さんがプロチームにしようと思い立つ |
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2016年10月 | Vリーグ加盟申請 | |
2017年 8月 |
初披露となるエキシビションマッチ開催、動員1500人(香港の競合「ドラゴンチーム」と対戦) |
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2017年10月 |
ホーム開幕戦でシャトルバスを走らせるためのクラウドファンディング実施。4日で達成。(最終到達434%) |
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2017年11月 |
株式会社VOREAS設立 |
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2017年11月 |
2017/18V チャレンジリーグII参戦 |
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2018年 2月 |
2017/18VチャレンジリーグII優勝 |
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2018年 7月 |
オリジナルラッピングバス運行 |
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2018年11月〜 |
V.LEAGUE Division3 2018-19シーズン開幕、参戦中 |
ー池田さんがチームを作ろうと思い立ってからは2018年で3年目ですね。スポーツチーム設立ってこのスピード感が常識なんですか?
池田:普通はもっと時間が掛かります。多くのチームでは「身の丈にあった経営をしましょう」といって始めるのですが、僕はスポンサーだけ見つけて小さく始めても、チームが強く、大きくなる見込みがないと思ったんです。スポンサーといっても、知り合いばかりになってしまうし、強化しようにもそんなチームに入ろうという選手が出てこないですよね。
ー知名度が上がらないと選手も集まらないですもんね。
池田:チーム設立から色々仕掛けてきて、おかげさまで話題性があってありがたい状況です。その中にすごいことやっているねと言う方もいたり、「ヴォレアスにいったら面白いんじゃないのか?」と思ってくれる選手も何人かいます。
ー元々、どうして北海道旭川にバレーボールチームを作ろうと思ったんですか?
池田:はじめは、旭川で父が経営している建設会社の人材雇用戦略として始めたんです。いま、どこの業種でもそうですが、高齢化と労働者の減少で人手が足りない。そんな中、どうやって若者を雇用していこうか?と考えた時に、バレーボール部を作ろう!と父に提案したのが始まりです。
地方にとって新しい人材雇用の仕方ということでニュースになったりもしました。
ー人材雇用のためにバレーボール部を。学校を卒業してもバレーボールを続けたい若者にとってはとても魅力的ですよね。
池田:会社で大会に出たり、チームの援助をして、有給を調整して試合に出たり、という形で活動していました。だんだん人も集まってきて強くなってきて、建設業は地域が元気でないとやっていけない業種ですし、もっと地元を盛り上げたいという思いが重なって、プロチームにしましょう!と言ったのが2015年です。
ヴォレアス北海道2019年版オリジナルカレンダーより
ー旭川は札幌に次ぐ北海道第二の都市ですが、「盛り上げなければ」という危機感があったんですか?
池田:僕は元々旭川生まれで、社会人になって東京に出たのですが、3年後に戻ってきたときに地元の元気がなくなっている姿を見てショックだったんです。本当に、やばいと思った。ちょっとずつ緩やかに下降しているので、ずっと住んでいる人は気づかないんです。
僕は旭川から離れていたので、がくんと下がっているのが分かるんですが、ずっといる人にはわからない。
ーずっと地元にいる人とはギャップがあったんですね。
池田:当時は若くて、何ができるかというとなにもできない。お金も人脈も、ノウハウも無く。僕に何ができるかと思ったときに、今までずっとやってきたバレーボールだ、と思ったんです。スポーツの力は町を元気にできる、たくさんの人をひとつにできる力があるのではないかと。それでこの町にプロスポーツチームを作ろうと思いついたんです。
ープロチームになったいま、チームはどこで練習しているんですか?
池田:今、廃校のリノベーションプロジェクトをやっていまして、チームも取り壊し予定だった体育館を利用して練習しています。これを始めたのも、町の施設を取り壊したらもう二度と新しく建たないだろうな、と思ったから。今は、町長に話して議会と住民説明会させていただいてご理解いただきお借りしている状態です。
ーチームが練習することで、使われなくなった地元の施設が守られているんですね。
池田:さらに、そこで事業を始めようと考えています。チームのクラブハウス機能と合宿機能の他に、テナントを入れたり、町民の皆さんが交流するスペースや飲食店、そういう複合施設を作ることによって町に来てももらえる人が少しでも増えて欲しいと思っていて。バレーボール専用の場所として作れば間違いなく需要はありますので。
ーチームとして使うだけではなく、そこで収益が得られて集客もできるような施設運営に。
池田:そうですね、そこで町を少しでも知ってもらえたらお借りした町に恩返しできるなと。具体的には、今外国人観光客が増えているのに、宗教に応じた食事が提供できるレストランが圧倒的に少ないので、食の多様性にも対応できればと考えています。
さらに冬にはスキーのためにロングステイする方も多いので、フリーWi-Fiを完備してずっといられるような施設を構想してます。東京だと普通にあるようなものが地方だと全然なかったりするので、東京の良いものを地方も持ってくるというのはひとつ意識しています。
ーおいしい食べ物は北海道の大きな魅力なので、食べ物にフォーカスするのは惹かれますね。
池田:僕は究極的には一次産業が勝つと思っているんです。食べ物なしでは人間はやっていけないので、そういう意味では北海道は可能性しかないですよね。ずっと住んでいるとなかなか気づきませんが。
ーチームの施設としての役割と、地元の文化を担う役割のある施設になりそうですね。
池田:株式会社ヴォレアスのミッションは「スポーツを文化に、そして喜びを」です。スポーツを通じて文化形成をしていくということと、それに携わる人たちによかった、楽しかったと思ってもらえることをミッションにしています。そのためにバレーボールを使っていますし、そこから地域創生が始まるというのもありえる話。
地方に行けば行くほど、自分にメリットあるのか、それをやったら儲かるのか儲からないのか、短期的なビジョンで話が進むことが多いんです。でも、そうではないと。町が元気にならないと自分に還元されない、経済的な豊かさよりも心の豊かさを作れるように、僕は力を注いでいるつもりです。
ーヴォレアス北海道はVリーグ初参戦で優勝という成績もありますが、それを抜きにしても設立してすぐにこれだけの注目を集めているのはすごいことですよね。
池田:おかげさまで、出来立てのチームでありながらこれだけ注目していただいて。やっぱり、話題と可能性を作っていかないと厳しいなと常に考えています。チーム運営のメインとなるのはスポンサーセールスになるので、そうするとメディア露出とか注目度は大きな判断基準になりますので。
ーバレーボールと音楽・ダンスを組み合わせたショーも開催されていますよね。
池田:僕らがやっていく業界って、ライブエンターテインメントなんです。スポーツというジャンルではない。お客様が購入する試合のチケット代は、映画やライブのチケットを買うお金と同じ財布から出ているんです。ここの部分を頂戴して足を運んでもらわないといけないので、それに負けないコンテンツ作り+話題性というのは非常に大事だと思っています。
ースポーツの試合ってルールが分かっていないとなかなか見に行かないですが、こういうショーならまだバレーボールを見たことがないお客さんでも見に行けますよね。
池田:そうです。どんなにマニアックなファンでも、最初はライトユーザー。何かをきっかけで見て、興味がわいて調べて、また足を運んで知っていって、ディープなファンになっていく。そういう意味では、いかにライト層に足を運んでもらうかを仕掛けていかないと発展性がないんです。
現時点では私が感じているバレーボールの課題というのは仕掛けがなくて、バレーボールが本当に好きな人しかこれないようなリーグになっているところです。その辺はかなり仕掛けているので、バレーボール界からは良い意味でも悪い意味でも注目はされていると思います。
ーチームが出来てすぐにラッピングシャトルバスがあるのも驚きです。
池田:ラッピングバスって、普通はチームが所有するものなんです。でも、チームでバスを所有していても、遠征に行く時くらいにしか使わないからもったいない。
だからヴォレアスのバスはバス会社さんと提携して、普段から町の中を走っています。試合の時にはシャトルバスになったり、北海道に修学旅行に来た学生がツアーバスとして使ったり。宣伝としてはすごく良い。そして、「バスを借りるならヴォレアスのバスが良い」ってお客様が増えると嬉しいですね。
ヴォレアス北海道のロゴが大きく入ったオリジナルシャトルバス
ー他にもいま構想している尖った企画はありますか?
池田:いま、「試合とカメラ撮影」の問題を抱えているんです。個人利用のための撮影はOK、ただし望遠レンズや三脚など大きな機材は周囲のお客様の観戦の妨げになるから禁止、というルールにしているのですが、やはり大きな機材を持ち込むお客様はいらっしゃって。
ースポーツの試合ってカメラを本格的にやっている方にとっては撮り甲斐があるので、気持ちが分からなくはないですけどね。
池田:だから、「撮影専用席」を設けたらどうかな?と考えているんです。そのゾーンでは自由に撮影ができるだけではなく、家電量販店と提携してレンズやカメラなど、試し撮りが出来るサンプルを置くんです。販売員さんにも来てもらって、気に入ったらその場で購入も可能、みたいな。
ーそれはお好きな人にはたまらないですね。実際にカメラの展示会に行くと、カメラの精度を実感してもらうために、被写体として会場でずっとドリブルしてる人が常駐していたりするんですよね。
池田:それで良い写真が撮れたら、買い取らせて頂くのも良いですしね。ちょっと賛否両論ありそうなアイデアですが、会場までスポーツを観に来る新しい動機になるかもしれません。
ー企業とスポンサーシップだけではなく、業務提携も結ばれていましたよね。これにも何か理由があるんですか?
池田:今までのスポーツチームのスポンサーセールスは、チームがユニフォームに企業ロゴを載せて広告媒体になる、というものでした。でも、もはやスポーツはテレビ離れをしている。中継はスポーツ専門の動画配信サービスに移行しつつありますが、それだけではもう説明がつかないんです。
ー確かに、テレビが1番の娯楽だった頃のやり方かもしれないですね。
池田:それに、スポンサーセールスは企業の業績が傾いた時に、1番に切られる領域です。いま、1年数ヶ月単位で企業の業績が変わっていく中で1番に切られてしまうようなところに依存する業態は良くないと思いました。
池田:そんな中で、僕たちはビジネスでつながっていく仕組みもプラスαで作りました。僕らの方から事業提案をして、ある意味コンサル的な役割で企業さんのお手伝いをして、その中から出たものをチームに還元してください、という仕組みです。この領域を増やすことによって、僕たちのチームも自立した経営ができると思っています。
ー具体的にはどんなことをしているんですか?
池田:例えば、ANAのグループ会社の株式会社ACDというところと提携を結んで、先月契約書を交わしました。これから進んでいくところですが、ビジネスの側面でチームと企業さんがつながっていくというサービスを僕らを通して紹介したり、北海道の良いものを作っている生産者のものを中国にリスクなく販売するという手伝いをさせてもらっています。もしそこで成功したら僕らを応援してくださいという形ですね。
ーインバウンドの中国の方にも北海道は大人気なので、ぴったりの事業ですね。
ースポンサーとの付き合い方が変わるということですが、スポーツビジネスが発達することによって選手のあり方・ファンの楽しみ方は変わっていきますか?
池田:これまでは、試合会場でしかグッズが売れず、選手と交流できなかったのですが、今はSNSやIT系の企業と提携することによって、試合会場以外でも交流や応援、支援ができます。この試合以外のところでどうやってお金を作っていくか、というのはスポーツビジネスの分野で今まさに起こっていることです。
ー試合を見せるだけではなく、その他の面での価値創造ですね。
池田:選手個人のブランドを作っていくのもスポーツビジネスではすごく大事。選手が引退した後どうするかと考えたときに、自分で何かを発信してそれに興味を持ってもらえるということがうまく回っている人間であれば、やっていけます。
選手のうちに自分の考えをSNSなどを通じて伝え続ける。こういうことをやっていけば、次の仕事を始めたり起業したりということもしやすくなるはずです。
ー試合で活躍するだけではなく、発信力も養っていく。選手個人にとってもあらゆる面で役立つ能力ですよね。
池田:サッカー選手なんかは、アカウントを作っただけですぐに1万フォロワー集まりますからね。1万フォロワーが欲しいビジネスの人なんていっぱいいる、でも集めるのが難しい。でも選手はアカウントを作るだけでできるというのは、もう一歩考えれば横展開でできるはず。その辺をうまく調整していくというのはポイントかもしれないですね。
ー企業との提携も、SNSの活用も、企業が発信してほしい情報をスポーツを介して伝える、インフルエンサーマーケティングの発展形に繋がりそうですね。本日はありがとうございました。
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