上手に転ぶ練習をしよう ~失敗学のススメ~

ポイント
  1. 失敗から学ぶことは何よりも大きい経験となる
  2. 小さな失敗を早めに経験しておくことで致命的なミスを回避する技術が身につく

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コンディショニング・コーチの弘田雄士です。プロ野球やラグビー・トップリーグといったアスリート・スポーツの最前線で働き始めて17年目になりました。
幸運にも、選手生命に関わるほどではなかったものの、今までのキャリアの中で数え切れないほどの失敗をしてきました。パフォーマンスやキャリアに関して、「もっともっとできたのでは」と思うことは数知れません。恐怖や後悔ばかりといっても過言ではない仕事ですが、それをトラウマや迷いではなく、いかに糧として進んでいけるかが大切なのだと思っています。

兆候に気づきながらケガを防げなかった経験

コーチとしてスポーツ現場での仕事を生業にして2年目のこと。現在千葉ロッテマリーンズの抑えの切り札として活躍している内竜也投手は、その年のドラフト1位入団選手でした。素晴らしい投手なのですが、当時から怪我をしがちな選手でした。二軍で体力を強化してケガを防止することを最優先すべく、特に力を入れて指導していました。
高校時代に2度に渡って太ももの裏の筋肉、ハムストリングスの肉離れを経験していた内投手。普段と変わりない様子でトレーニングをこなしていた彼でしたが、40メートル・スプリントを9本走った時点で、急にランニングフォームが崩れました。

「内、どうした? 急に膝を使った変なフォームになったよ。どこか痛みあるの?」

戻ってきた彼にすぐ確認するとはっきりしない表情で、「本当ですか? 自分じゃあんまり意識してなかったんですけど……」という返事。
プログラムではあと1本、10本こなせば午前中の練習は全て終了のタイミングでした。
やめておこうという私の指示に対して、「いや、あと1本の予定じゃないですか。気持ちが悪いから全部終わらせたいです。様子を見ながら走りますから、大丈夫です!」 元気よく答えた彼の様子に、つい「あと1本だから大丈夫かな……」と続行させました。

しかし、その1分後。私の目の前に映ったのは「ラスト行きまーす!」と走りだした内投手が30メートル前で声を上げ、そのまま芝生に転がる姿でした。

左ハムストリングスの肉離れです。

致命的な失敗は避け、ミスの再発防止案を講じよう

若い世代のトレーナーに偉そうに訓示を垂れることもありますが、この例を挙げるまでもなく、自分自身は相当な数のミスや失敗を犯してきました。
やはり落ち込んでしまうものですが、それ以上に大切なことは「失敗からきちんと対策を考え改善案を実行していくこと」です。

内投手のハムストリングス肉離れを未然に防げなかった失敗以降、選手全員にランニングの前には、仰向けになって片足を上げてもらい、股関節の柔らかさや動きの簡易チェックすることを始めました。
不幸中の幸いだったのは、彼のケースでは全治3週間程度のケガで済んだことでした。もしケガをした箇所が肩や肘であり、登板中に大きな怪我をして投げられない状態になってしまっていたら――。プロ野球でも年に数件は起こりうるケースですが、選手生命を左右する大怪我につながりかねなかったでしょう。

 失敗をしない人はいません。致命的な失敗を経験する前に、挽回するチャンスがあるミスや失敗を経験することは必要なのだと考えるようになりました。

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「上手に転ぶ」練習を

筆者自身も40歳を過ぎ、若手トレーナーを指導することも増えてきました。そこで私が必ず伝えることが、「致命的な失敗をしないように、積極的に動いて『上手に転ぶ』練習をしよう」ということです。

失敗という結果を恐れるあまり、行動に移せず中途半端な工夫に終始しているようでは成長スピードが遅くなってしまいます。さらに悪いのは、そんな状態で年数を重ねて中堅どころとなり、責任のある仕事を任せられるようになったとしたら、どうなるか。取り返しのつかないようなミスをしてしまう可能性は高くなります。これこそが最も避けなければいけないことでしょう。

キャリア初期でのミスや失敗を恐れず、どんどん経験していく。自分自身もそうですが、若いスタッフを抱える経営者も「失敗学」の重要性を理解すべきです。スタッフ一人一人に適切な失敗を経験させ、そのフィードバックから成長を促す。「華麗な受け身」を身につけた、頼りになるスタッフを育てていってください。

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著者プロフィール

弘田雄士

弘田雄士

コンディショニング・コーチ、鍼灸師。アスリート・スポーツの世界でフィジカル強化・コンディショニング指導を専門としたトレーナーとして15年以上活動。MLBマイナーリーグでのインターンを経て、日本のプロ野球「千葉ロッテマリーンズ」のコンディショニング部門などを歴任。現在はラグビートップリーグ「近鉄ライナーズ」にてヘッド・コンディショニング・コーチを務める。著書に「姿勢チェックから始めるコンディショニング改善エクササイズ」(ブックハウスHD、2013年)。全国でのセミナーなども積極的に展開し、「コンディショニング」の重要性を伝えていく活動を展開している。