「出会えてよかった」と思われる生き方こそ「仕事の王道」だ

ポイント
  1. コンディショニング・コーチの弘田雄士によるビジネスコンディショニング

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プロ野球やラグビー・トップリーグといったアスリート・スポーツの最前線。単年契約を重ねて働き、17年目を迎えたコンディショニング・コーチの弘田雄士です。

アスリートスポーツの現場で、トレーニングやコンディショニングを担当していると、ひとたび公式戦が始まれば時間は飛ぶように過ぎていきます。1日が過ぎるごとの疲労感は、プレシーズンのそれとは比較になりません。

「ああ、インシーズンだなぁ」と、イヤでも実感するものです。

結果を出した後の重圧

トップレベルでチームに所属している場合、選手もスタッフも生活がかかっています。小さな問題はいつも起こっているというのが、偽らざる本音の部分です。

監督や技術コーチ、そして選手の間に挟まれやすい立場の私としても、なかなか心穏やかに過ごすのは難しい時期がインシーズンなのです。10年以上、まだ30歳に差しかかったばかりのころ。当時所属していたプロ野球チームでは前年に、三十数年振りの日本一を体験しました。ジェットコースターの中にいるような喧騒の中での、夢のような1年。油断したわけでは全くありませんでしたが、翌年は他球団からのマークもきつくなり、チーム成績は芳しくありませんでした。

結果が出ないと、組織の中の雰囲気はどんどん険悪になっていきます。コンディショニングを担当する私への風当たりも強く、夏を迎えるころにはグラウンドに向かうのが本当に怖くなってしまいました。今思えば被害妄想の部分もありました。それでも追い込まれた精神状態だった私には、かかわる人みんなが自分にきつく当たっているような気がしていたのです。日に日に暗い気分になり、仕事中の様子も沈んでいたのを見かねたのか、同い年のアンダースロー投手、渡辺俊介氏が練習後に声をかけてくれたのでした。

出会えてよかったと思えるような生き方をしろ

「俺は雄士に会えて、ピッチングを変えるきっかけをもらえた。このタイミングで出会えて本当に良かったって思っているよ。1人でもそんな選手がいたら上等じゃない?」

まっすぐに向かって投げかけてくれた言葉でした。

「背中を丸めて自信なさそうにしている姿を見せ続けることは、そういう選手に対して失礼だよね」

彼はそう続けたのです。頭をハンマーでガン!と殴られたようなショックを受けました。

自分の技量や知識、経験と自分だけではどうにもならないチームの結果。そんなことばかりにとらわれて、目立たないようにしていた自分。専門家のそんな姿をみたら、どんな選手も頼ろうとはしないでしょう。愛のある同い年の渡辺俊介投手の言葉のおかげで、ようやく目が覚めたのです。

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筋の通った生き方こそ最高のブランディング

技術を高めて知識を深める。プロとして出来ることを増やし、在り方も創っていく。これらは大変なことではありますが、専門家としては当然のこと。大事なことはそれだけじゃないのだ、ということに気がつけたエピソードでした。

仕事をしていくうえで実直に誠実に、業務や、かかわる人々と向き合う。理解する努力を惜しまずに、ときには譲歩をしながらも、筋の通った生き方を通していく。これこそがアスリートレベルの選手たちと関わるスポーツ現場では最も大切なことだと腹落ちしたのです。信念に基づいてブレない方向性を持って、真摯に仕事に取り組む。一貫性のある生き方を感じてもらうことができれば、選手やコーチたちは「信頼できる専門家」として認めてくれます。

細かなテクニックや策に溺れることなく、筋の通った「凛(りん)とした生き方」を大切にして、現場に立つ。結果的に私自身のセルフブランディングを確立することにもつながったのです。こういった取り組み方は、日々変化の多いアーリーステージの起業家にも共通するはずです。

「仕事を通してあなたと出会えてよかったよ」
そんな風に感じてもらえる仕事をしていくこと。ドロ臭いかもしれませんが、これこそが間違いなく大きな効果を生む姿勢なのです。

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著者プロフィール

弘田雄士

弘田雄士

コンディショニング・コーチ、鍼灸師。アスリート・スポーツの世界でフィジカル強化・コンディショニング指導を専門としたトレーナーとして15年以上活動。MLBマイナーリーグでのインターンを経て、日本のプロ野球「千葉ロッテマリーンズ」のコンディショニング部門などを歴任。現在はラグビートップリーグ「近鉄ライナーズ」にてヘッド・コンディショニング・コーチを務める。著書に「姿勢チェックから始めるコンディショニング改善エクササイズ」(ブックハウスHD、2013年)。全国でのセミナーなども積極的に展開し、「コンディショニング」の重要性を伝えていく活動を展開している。