事業承継との向き合い方① 〜事業承継から目を背けるな!中小企業にふりかかる後継問題〜
- 事業承継問題の背景にあるもの
- 「昭和の承継」、「平成の承継」
- 事業承継の基本
最近、新聞やテレビなどマスコミにもよく顔を出すようになった「事業承継」という言葉。NHK連続ドラマ「町工場のオンナ」でも取り上げられていた。「事業承継」って、言葉の通り“事業を引き継ぐ”ということであるならば、それこそ有史以来「家業」が生まれるのとイコールで「承継」は世の中にあったはずだ。
それなのに・・・なぜ今「事業承継」なのか?
事業承継が社会的課題としてクローズアップされているということは、引継ぐ相手がいない、引継ぐ相手を諦めている経営者が急速に増加している現状がそこにあるからだ。しかし一方で、こんな課題はやはり昔から存在していたはずだ。ヒト・モノ・カネ・情報・ノウハウといった経営資源のバランスを失えば市場から退場を余儀なくされる経済モデルは事業=ビジネスの発生と同時に生まれていた。
承継難はヒトの欠落である。この自然淘汰が事業を強くし市場環境に適合した企業だけが存続するという構図が、資本主義市場を連綿と支えてきた。承継がうまく行かなければ事業は廃業するし、経営資源のバランスを失えば事業は倒産する。こうした自然の摂理になぜ今“抗って”までフォーカスをあてようとするのだろうか?
それは、あまりに多くの経営者が抱く喫緊の課題であり、行政の不作為により生じるであろう日本経済に与えるインパクトが強烈すぎるから、である。
総務省・経済産業省「平成24年度経済センサス-活動調査」によれば、中小企業者数は381万者あるが、このうち今後10年間に経営者の年齢が70歳を超える企業者数は245万者あると言われ、うち半数の127万者が事業承継未定という。もし、このまま事態を放置すると、約650万人の雇用が失われ、約22兆円のGDPが失われるとの試算が出されている。
こういう数字は漠然と見えるが、雇用者数では約10人に1人、GDPでは約4%の規模が失われるということを示している。とりわけ、こうした弊害は地方に集中し、人口減少に拍車をかけることになり、地方経済は今後10年以内に深刻的打撃を受けることになる。
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では、経済的インパクト以外に事業承継難は今後社会にどのような弊害をもたらすのか?日本はものづくり分野で、中小企業の隅々まで高い付加価値と生産性を追求した生産体制を築いてきた。そして効率的なサプライチェーンを構築し、大手企業に高品質な部品を安定供給してきたことが“Made in Japan”を世界で冠たるものに磨き上げてきた。
しかし廃業数が増加するとそのサプライチェーンが維持出来なくなるのである。AIやIoTの普及である程度はカバー出来たとしても、 暗黙知な技術を要する工程は依然存在する。ユーザーファーストの視点を求められるモノづくり企業にとってコアなノウハウをどう守るのか、事業承継の課題は大きい。
「事業承継」という課題を生み出した背景は何だろうか。極めて多くの経営者が事業を引き継げないと考える原因はどこにあるのか?
昭和の時代、といっても太平洋戦争後の1945年以降で考えると、主要都市を中心に工場群は軒並み戦禍に呑まれ、廃墟同然からの復興を余儀なくされた。しかしその後発生した朝鮮戦争と戦後の経済復興需要で、製造業を中心に産業活動が活発化し、引き続き経済成長路線で1970年頃まで企業にとっては概ね右肩上がりの成長を遂げた。
“作れば売れる”の時代だった。
当時の経営者は家族を貴重な労働力として見ていただろうし、子供としても嫌な勉強するくらいなら親父の下で働いて稼ぎたい、とうのがライフプランだった。従って、そこには事業承継=長男が継ぐもの、という図式がはっきりしていた。
昭和も後半になると、教育インフラの充実化とともに「大学義務教育」と言われるほど、大学進学率が高まった。中小企業経営者の子供とて例外ではない。地方の製造業中小企業経営者の子供が、大都市の有名大学の文系に進学することも何の違和感がなかった。
親として、「将来会社を引継ぐ前に高等教育を学び、一般企業に就職して他人の釜の飯を食うことで、視野を広げ人脈を持つことはきっと承継後の経営に役立つ」と考えても不思議ではない。
しかし・・・平成の時代に入り、いざ承継の場面にさしかかったとき、子供にはパートナーと子がいて、企業の一員という環境が出来上がっている、また収入も多い、といった子供の「社会」が出来上がっているのだ。
これに対して引継ぐ企業の経営は下降曲線、将来への不安が見え隠れするタイミングに差し掛かっている・・・こうした場面を迎えている経営者は非常に多い。誰も、何も悪くない。強いて挙げれば、子供のUターンを促すだけの魅力ある収入と将来が担保されない事業環境になったということか。
事業承継を考えるとき、承継すべきは何か?雇用?ノウハウ?経営者の資産?名声?どれも考えられるだろう。企業は社会の公器といったキレイ事だけでは済まされないのだから。企業が生きている限り、そこには血が流れている。そこで働く人の想いが詰まっている。それを取巻く人の思惑が溢れている。これらをすべて満足させる事業承継は、正直困難である。どれかを活かしどれかを捨て去る決断が必要となる。
経営者は、事業が将来にわたって存続し、事業の使命が果たせるための最善の策を常に求めている。しかしながら模範解答はない。事業承継も同じである。企業にとってそのときどきの最悪の選択をしなければ、事業承継は成し遂げられる。これとて容易ではないが、心得ておくべきことは、経営者が一番承継すべきものを経営者が明確に示すことだろう。そのことが見いだせたら、事業承継は半分成功したと言える。100点の事業承継はない。70点を目指せば良いのである。欲張るな、経営者の皆さん!
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