【まだ白色申告?】 青色申告のススメ〜メリット・デメリットまとめ〜
- 青色申告のメリット(個人事業主・法人と共通のもの)
- 個人事業主のみが対象となる特典
- 白色申告と青色申告をした場合の税額比較
青色申告には一定のルールを守った会計帳簿を作らなければならないというデメリットがある一方、さまざまな特典が認められています。個人事業主と法人に共通のものと、個人事業主にのみ認められているものがありますが、ここでは個人事業主と法人に共通のものを確認してみましょう。
もし、事業を営む上で赤字になってしまった場合、青色申告をしていればその赤字を翌年(翌事業年度)以降に持ち越して、その年の黒字と相殺することができます。この制度を欠損金の繰越控除といいます。
なお、平成30年現在、個人事業の場合は3年、法人の場合には10年間の繰り越しが認められています。しかし、法人の繰越期間は頻繁に改正されておりますので、つねに最新の情報を確認することが大切です。
また、以前は法人の繰越期間が9年でした。繰越期間が9年だった事業年度に発生した赤字は、繰越期間が10年となった現在でも従前のとおり9年間しか持ち越すことができないので注意が必要です。
上記の欠損金の繰越控除と似ている制度ですが、もし前年(前事業年度)に黒字となり、法人税や所得税を納税したにもかかわらず、今年(当事業年度)、赤字が発生してしまった場合には、今年発生した赤字を前の年の黒字と相殺して、払いすぎた税金を返してもらうことができます。この制度を所得税では「純損失の繰戻還付制度」、法人税では「欠損金繰戻還付制度」といいます。
ただし、この制度を利用するには、以下の2要件を満たすことが必要です。
・前年分の確定申告を「青色申告」で行っていること
・今年分の確定申告を期限内に「青色申告」で行っており、かつ「純損失の繰戻還付請求書」を期限内に提出していること
なお、前年の黒字と相殺してもなお残った赤字は、「欠損金の繰越控除」を利用して翌年(翌事業年度)に繰り越すことが可能です。
ところで、翌年以降に多額の黒字が見込まれる場合、累進税率の関係でこの制度を使うことなく、赤字の全額を「欠損金の繰越控除」を利用して繰り越したほうが、結果的に納税額が少なくなるケースがあります。安易にこの制度を使うことなく、翌年以降の利益と税率をシミュレーションすることをオススメします。
なお、この制度は法人税や所得税が対象となっているため、住民税と事業税については適用がなく、住民税・事業税とも赤字を翌年以降に繰り越すこととなります。
10万円以上の資産は減価償却により、毎年少しずつ経費にしなければなりません。しかし、青色申告をしている場合、30万円未満の資産は1年間(1事業年度)の合計が300万円になるまで一括して経費とすることが認められています。この制度を「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」といいます。
ところで、似たような制度に「一括償却資産」があります。この制度は10万円以上20万円未満の資産について、原則的な減価償却ではなく、3年間で経費とすることが認められるものです。
中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例 |
30万円未満の資産は1年間の合計が300万円になるまで一括して経費計上可能 |
一括償却資産 |
10万円以上20万円未満の減価償却資産について、減価償却資産の取得価額の合計額の3分の1を、3年間で経費とすることが認められる |
一見、年間(1事業年度)300万円までは「中小企業者等の少額減価償却資産」の制度を利用して、一括して経費にしたほうが節税にもなりますし、会計処理も簡単に思えます。
しかし、10万円未満の少額減価償却資産や一括償却資産の制度を利用した固定資産は固定資産税の課税対象外ですが、「中小企業者等の少額減価償却資産」は固定資産税の課税対象となってしまいます。したがって、固定資産税の課税対象となる方は「一括償却資産」の制度と「中小企業者等の少額減価償却資産」の制度のどちらを利用したほうがトクなのかをきちんと検討することをオススメします。
事業の種類で異なりますが、商品やサービスを提供したさい、「その場では代金を受け取らずに請求書を発行して後日代金を受け取る」ことがあります。この金額のことを売掛金といいます。
売掛金を後日約束通りに回収できればいいのですが、取引先の資金繰りの悪化や倒産により回収できなくなることがあります。これを「貸倒れ」といいます。
例えば今年(当事業年度)に販売した商品の代金が来年(翌事業年度)に貸倒れとなってしまった場合、今年の事業活動によって損害が発生したにもかかわらず、今年の利益が大きく、翌年の利益が少なく計上されてしまいます。
そのようなことを防止するため、売掛金や債権の一部には貸倒れが発生するものと予想して、あらかじめ経費として計上しておくことがあります。これを「貸倒引当金」といいます。
貸倒引当金を計上する方法として、個別の売掛金や債権について、どの程度貸倒れの可能性があるか評価して、その金額を貸倒引当金として計上する方法と、一括して売掛金や債権の5.5%(金融業の場合は3.3%)が貸し倒れるものと仮定して計上する方法の2とおりあります。
個別に貸倒れの可能性を評価する方法は白色申告でも青色申告でも利用できるのですが、一括して評価する方法は青色申告の事業者にのみ認められています。
なお、個別に貸倒れの可能性を評価する方法と、一括して評価する方法は併用することができます。個別に評価する方法は経費にできる金額が大きいので、うまく使い分けることをオススメします。
ところで、実際にはまだ貸し倒れていない金額を経費にできる貸倒引当金ですが、もし翌年に貸し倒れが発生しなかった場合には、その金額については利益となってしまいますので注意が必要です。
推計課税とは、税務署が以下のいずれかの基準(これは所得税の場合ですが、法人もほぼ同様です)を元に「あなたの利益はこれくらいだと想定できますから、税金をいくら支払いなさい」と決定することです。白色申告の場合、税務署の職員には推計課税をすることが認められています。
推計課税となる基準 |
財産債務の増減の状況 |
収入支出の状況 |
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生産量、販売量その他の取扱量 |
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従業員数 |
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その他事業の規模 |
したがって、極端な話ですが、「税務署の職員は白色申告の事業者に対して帳簿も何も見ることなく一方的に税金の支払いを命令する権限がある」ということもできます。
一方、青色申告をしている事業者に対して推計課税を行うことは禁止されており、必ず領収書や会計帳簿を基に税額を決定しなければなりません。
とはいえ、青色申告をしていれば必ず推計課税を受けないということではありません。もし事業者が作成した会計帳簿が法律上の要件を満たしていなかったり、虚偽の記載があったりする場合には、税務署の権限で青色申告を取り消して白色申告とみなされる可能性があります。そのうえで推計課税によって税金が決定されます。
ですから、青色申告をする場合には、「法律上求められているから」という理由はもちろんのこと、「青色申告を取り消されないようにする」ためにも、適切な会計帳簿を作成するように心がけましょう。
なお、研究開発や設備投資に関してもメリットがありますが、高度に専門的な内容となるためここでは割愛します。