税務申告の方法を法人・個人別に紹介
- ややこしいが避けては通れない税務申告について解説
- 個人と法人で税務申告がどう違うのか、必要な条件や注意点に分けて解説
税務申告と聞くととにかくややこしい、とっつきにくいと感じる方が大半ではないでしょうか。しかし日本においては納税の義務は国民の三大義務の一つとされており、避けては通れないものとなっています。
今回は税務申告の方法を大きく法人・個人に分けてそれぞれの申告が必要な条件や税務申告先、および注意点をわかりやすく解説していきます。
法人・個人に限らず、ある一定の期間における所得を自ら計算し(決算)、国(税務署)に申告を行うことを「確定申告」と言います。
一定の期間とは法人であれば一決算期間、個人であれば1月1日から12月31日までをいいます。
通常の会社員であれば、会社が給与から概算で税金を計算し、本人に代わって毎月納税し(源泉徴収といいます)、最終的な一年間の税金も年末調整を行い確定してくれます。そのためサラリーマンは自主的に確定申告する必要がありません。
一方、自ら事業を行っている法人・個人事業者・ある一定の条件を満たした給与所得者は自身で申告して納税する必要があります。今回はその税務申告について解説していきます。
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税務申告を法人が行うケースについて解説します。
税務申告が必要な法人は、「株式会社」「合同会社」「合資会社」「医療法人」「相互会社」などとなります。このほか決算の義務はあっても課税されない法人(公共法人、公益法人、人格のない社団等もありますが、ここでは割愛します。
税金には国に納める国税と、地方自治体に納める地方税に大別され、法人が行う税務申告では次の5つの税金について申告・納税する必要があります。
① |
法人税 |
国税 |
② |
法人住民税 |
地方税 |
③ |
法人事業税 |
地方税 |
④ |
消費税 |
国税および地方税 |
⑤ |
固定資産(償却資産)税 |
地方税 |
①法人税
国に納める税金です(国税)。その年に生じた所得に対し定められた税率を掛けて算出します。利益に対して課税される税金です。
②法人住民税
事業所がある地方自治体に対して納める税金です(地方税)。
法人住民税は都道府県に対する「都道府県民税」と、市町村に対する「市町村民税」とに大別されます。なお、東京都の婆愛は都民税一本にまとめられています。利益に対して課税された法人税に住民税率を掛けて求めた“法人税割”と資本金等の金額に応じて課税される“均等割”を合計したものが法人住民税です。
③法人事業税
事業所がある地方自治体に対して納める税金です(地方税)。法人税と同様その年に生じた所得に対して課税される“所得割”を中心とする税金です。なお資本金が一億円を超えた場合は”付加価値割“や”資本割“も加わりますがここでは割愛します。
④消費税
消費に対して課税される税金です(国税および地方税)。「自社が提供した商品やサービスに対して消費者から受け取った消費税」から「自社が仕入れなどモノやサービスの提供を受けた際に相手方に支払った消費税」を差し引いた金額を納税します。特別大きな設備投資を行った時など、支払った金額のほうが多い時は税務署より還付されます。
⑤固定資産(償却資産)税
固定資産の所在する市町村に対して納める税金です(地方税)。土地、建物、償却資産(構築物や機会および装置、船舶、航空機、車両および運搬具、工具・器具・備品)に対して課税されます。
その他に従業員や弁護士・税理士等の所得税を源泉徴収し、翌月10日まで(納期の特例を受けた時は7月10日と1月20日まで)に納付する義務もあります。
国税は税務署、地方税は各自治体に対して申告しますが、詳細は以下の通りです。
申告期限は固定資産税を除き決算日より2か月以内です。
税金の種類 |
提出先 |
|
法人税 |
税務署 |
|
法人住民税※ |
都道府県民税 |
道府県税事務所等 |
市町村民税 |
市役所等 |
|
法人事業税 |
道府県税事務所等 |
|
消費税 |
税務署(地方消費税も同時に申告) |
|
固定資産(償却資産)税 |
資産が所在する市町村(申告期限は1月31日) |
※都民税一本にまとめられている東京都においては都税事務所に提出します。
税務申告の方法は「会社で税務申告書を作成して提出する方法」と「税理士に委託して税務申告する方法」に大別されます。
・会社で税務申告する方法
決算仕訳を完了させた決算書を完成させ、税法に従って申告書および申告書別表を完成させます。この別表を完成させるのが非常に専門知識を要する作業になるため、この部分のために専門家に依頼する法人がほとんどです。
申告書が完成したら決算書とともに上記提出先にそれぞれ郵送もしくは持参します。
また国税においてはE-TAX、地方税においてはEL-TAXと呼ばれる電子申告システムによりパソコン上のやり取りで申告を行うこともできます。
このシステムは税務署の方でも積極的に推進しており、まず資本金等の額が一億円を超える法人が2020年4月1日以後に開始する事業年度から義務化されます。
この流れは順次中小企業にも押し寄せてくることが予想されるため、まだ電子申告をしていない法人は早めに切り替えた方がいいでしょう。
・税理士に依頼する方法
費用は掛かりますが、最も確実で本業に専念することが出来る方法です。
事務所によりますが決算・申告だけを依頼したり、日頃の記帳も含めて丸投げで依頼できたり、顧問契約を結んで日常の税務にかかわる相談にも応じてくれたりと依頼内容もいろいろなパターンがあります。
自社でできることを見極めて、不足分を補ってくれるパートナーを選ぶといいでしょう。
法人・個人に共通する税務申告の注意点としては、税金の取り漏れがないかを調査する税務署の目を意識することです。以下法人の場合について具体的に解説していきます。
①売り上げの除外がないか
税務署は業種ごとに原価率・利益率の基準を独自に持っています。そのため経費の割に売り上げが少ないと発覚すれば、売り上げ除外を疑う理由となります。毎日のレジ締めの記録と現金有り高の一致などもチェックの対象となります。請求書と売り上げの計上が一致しているかもチェック対象です。初歩的なポイントであり、現金商売なら特に気を付ける必要があります。レジを使っているだけでは不十分と言えます。
②経費の水増しはないか
架空の経費計上や代表者個人の生活費支出などを経費に付け込んでいないかなどもチェック対象です。
勘定科目としては「会議費」「接待交際費」「消耗品」「外注費」などが主なものです。領収書がない経費支出や同族会社における関連会社宛ての支出は特にチェックされます。
特に会議費、接待交際費は大きなポイントです。業務と関連して支出されたものか、相手方は利害関係者といえるか、支出額は常識的なものか等が厳しくチェックされます。
会社の規模によっては後述する損金不算入にも関わってきます。税務調査などで質問された際、しっかり説明するためにも領収書に相手方の会社名と氏名、同席の人数、打ち合わせの内容等を記載しておいたほうが無難でしょう。
否認されれば損金として認められず法人の利益とされ法人税等が追徴されるため、会社としてのイメージも良くありません。
場合によっては給与とみなされ個人の所得税・市民税も追徴されるダブルパンチとなります。
③損金として認められないものを損金としていないか
会計においては売上に相当するものを「収益」と呼び、そこから差し引く事業に関して支出したものを「費用」といいます。
一方、税務申告においては収益から差し引ける費用を「損金」と呼びます。この会計上の「費用」と税務申告上認められる「損金」とは若干の違いがあります。例えば交際費や役員給与、減価償却費などが該当します。
交際費は資本金が1億円未満かそれ以上かで取り扱いが変わります。
一億円未満の会社では、800万円まで損金算入するか飲食費の額の50%を損金算入するかが選択できます。
他方、一億円以上の会社では飲食費の額の50%を損金算入するしかありません。そこで全額損金に算入できる会議費を活用することが多くなりますが、ここでは割愛します。
特に気をつけなければならないのは役員給与、賞与です。
取締役の給与は原則損金不算入です。ある一定の条件を満たしたときにのみ損金に計上できるわけです。
その条件とは、定期給与については会計年度の最初の3カ月までに支給額を定めることです(この給与のことを定期同額給与と呼びます)。賞与については会計年度の最初の4カ月までに支給額を決めて税務署に届け出ることです(この賞与のことを事前確定届出給与といいます)。
この支給額を定めるためには株式会社では株主総会で決議する必要があるため、株主総会の決議書をしっかり作成して税務署に説明できるようにしておく必要があります(期中で役員報酬を増額したり減額したりする場合の取り扱いもあり)
④給与とすべきものを外注費で処理していないか
外注費であれば源泉徴収の必要はありませんが、給与となれば日雇であっても給与の額によって源泉徴収の必要が出てきます。
仕事を依頼するほうからすれば外注のほうが安上がりで簡便ですが、単に請負契約を結べば外注と出来るわけではありません。
税務署が外注とするにはいくつかの判断基準がありますが、その一つを満たせばいいのではなくそれらを総合的に検討して判断されます。
否認されれば徴収漏れとされ源泉所得税の追徴と延滞税が請求されるため注意する必要があります
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