中小企業は独自化で生き残ろう!フジプレコン株式会社 専務取締役 松林克法さん
- 堅くて柔らかいコンクリート会社
- できませんは絶対言わない
- スタッフみんなと一緒にお客さんを喜ばせるために
中小企業が生き残っていくための一つの正解が「独自化」していくことなのではないだろうか。
そんな仮説からスタートした、経営者のインタビュー連載「中小企業は独自化で生き残ろう!」。
第4弾は、鉄道会社や国交省にコンクリート製品を提供しているフジプレコン株式会社の専務取締役 松林 克法さんです。
−宜しくおねがいします!今日は散髪したばっかりでしょうか?
松林)いや、そろそろ伸びてきたんで散髪にいかなきゃなと思っているところです。
−すいません、散髪のビフォー・アフターの差が、ウォーリーをさがせ!よりも難しいです。
まず、松林さんの会社の事業について教えていただけますでしょうか。
はい、愛知県の会社でコンクリート製品を作っていて社員数は60人弱です。
メインのビジネスは大きくわけて2つで、一つが鉄道会社さん向けの製品、もう一つが道路用の側溝コンクリート製品を提供しています。
鉄道商品はJRさん、道路は国交省や県などの自治体がメインのクライアントになります。売上的には前者が7で、後者が3の割合です。
−なじみがない業界過ぎてまったく製品がイメージできません!例えばどんなものを作っているんでしょうか?
ケーブルを保護する管です。線路があったとしたら、そのわきにずっとあるコンクリートのものです。
−あーなるほど!この写真だと点字ブロックの左側にある、白っぽいコンクリートがケーブルトラフですね!
−こうやって道路に埋め込んでいるのが、コンクリートの側溝なんですね。
はい、大江戸線は全線に納入したので、どのホームからも見えます。
−大江戸線の全線ですか。すごい!大型受注ですね、儲かってそうです。
でもJRや役所がクライアントで業界的にはかなり堅い業界ですよね?
とっても堅いですね。営業しようにも、そもそも新規のお客さんにアポイントが取れないので(笑)
−担当者の名前を知るのも難しいですよね。そういう場合どうやって営業していくんですか?
他のお客さんからの紹介や、いただいた情報からですね。◯◯さんからの紹介って言っていいですか?とか、そんな流れで。人間関係のない人には会えないです。
−難易度が高そうな営業です!!
松林さんの会社が同業他社と、ここは考え方やアクションがちょっと違うなと感じるところがあれば教えてください。
コンクリート業界はその昔、組合があって同じ商品を同じような価格で足並みをそろえて商売していました。作れば売れる時代がありましたから。
しかし今は作っても簡単に売れなくなってきて、結果的に価格競争を繰り返すようになっていきました。
これはご多分に漏れず、どの業界も同じですよね。だからうちはそういう組合から脱退して、オリジナルの商品を作っていく路線で勝負するようになりました。
JRさんとのお仕事はそういった流れで、新たに開発させていただいたお仕事から繋がったものです。
−組合から抜けるというのは非常に大きな決断だったと思います。どうしたら業界の常識にとらわれずに新しいことができるんでしょうか。
僕はスタッフにモノを売るなと言っています。ものを売るのが仕事ではなく、お客さんの困ってることをサポートしてください、どんなことで困っているかを聞きなさいと。
例えば、お客さんが消しゴムが欲しいなら、うちにないからできませんじゃなくて、買ってきてあげればいい。
うちにないものは探してあげなさい。「できません」はタブー、お客さんにできませんは絶対言ってはならないと。
それはお客さんの望む価格じゃないかもしれない、望む時間じゃないかもしれない、望む品質ではないかもしれないけれど、できませんとは絶対言わない。
どうやったらお客さんにそれが提供できるかを考えなければいけない、ということをずっとやっています。
フジプレコンは毎年、JR東日本さんに予算を組んで商品開発をやらせてもらってるんですけれど、
あいつらに頼めば何か作ってくれるという空気が漂っていて、それで毎年依頼をいただけているんだと思います。
−目の前の困っているお客さんにノーと言わないことが御社に対する信頼や期待になっているんですね。営業面では何かありますか?
アナログなところですが名刺ですかね。堅い業界なので、僕たち以外に、顔写真が入っている名刺を使ってる会社がないんですよ。
お客さんにいつも会えるわけではないですし、名刺だけ置いてくることもあります。
名刺営業って昔から当たり前にあるんですけど、あるお客さんのデスクの上にはバーっとたくさん名刺が並んでいるんですよ。
並んでる中にひとつだけ僕の顔があるんです。すると、それを見たお客さんは僕に会った感覚になるんですよ。
お客さんがいいって言ってくれるんですよ。久しぶりな気もしないとも言われます。同業者も、おたくはいいねって言うんですけどやらないですね。
−なんで真似してやらないんですかね?
やっぱり勇気がいるんでしょうね。僕は素直に自分たちを出すのに名刺に顔写真付けるの、いいアイデアだなって思ったんです。
でも初めは、スタッフにやれって言ってもやらなかった。いろんなところに配るから顔出すのが恥ずかしかったのかな。
他の会社さんも最初はここで引っかかるのかなと。
なので、誰もやらないから僕が自分で率先してやってみました。今ではスタッフ全員が顔を出した名刺を使うようになりました。
−やったことがないことに対しては抵抗感が生まれますよね。
そうですね。スタッフ全員に号令をかけてFacebookアカウントを作って、日常の発信でいいからやるようにという指示もしました。
みんなは何の意味があるのか、なぜやるのかがわかってなくて批判的なところもあったんだけど、しぶしぶやり始めました。
会社のFacebookページも作って、そこにスタッフが毎日投稿してくれていたんですが、あるとき事件が起こりました。
誤ってお客さんとの機密的な情報を投稿しちゃったことがあったんですよ。
そしたらクレームが入ってしまって。あれは誰の許可を得てあげたんだと。
すぐに取り消してお詫びをして済んだんですけど、その時僕は思ったんですよ!
見てるって!いいね、もなんのコメントもないけれど、お客さんはFacebookを見てるんだって!これは続けるべきだと思いました。
−怒られはしましたが、そこで逆にチャンスだと思ったわけですね。
はい、ずっと発信していたら、お客さんたちはちゃんと見てる。B to B( 企業間取引 )だけど、やっぱりそこは人間対人間なんです。
相手の会社はSNS禁止かもしれないけれど、個人としては見てるというのがわかったんです。
そのうち、営業マンたちが投稿したものに反応して、ここらへんに来たら僕のところも寄ってよと言ってくれるお客さんが出てきたりするようになりました。
SNS上で見ていると、お客さんがいつも会ってる感覚になるんですね。つまりいつも営業しているっていうことなんですよ。そうすると声がかかるようになる。
時々商品を発信すると、あれ何、今度紹介してよって。何もないようで営業になっているんですよ、SNSの発信が。
−業界的にうちは特殊なんだよって言う人が多いんですが、堅いコンクリート業界でSNSの発信に効果があるならどこの業界でもありそうですよね。
業界の特殊性とか関係ないですね。やらない理由にはならないです。やりたくない理由じゃないのかなって思っちゃいますよね。
B to C( 企業と一般消費者の取引 )なら簡単かもしれないけれど、B to Bは何ができるのかって思っているのかもしれませんね。
僕が一番最初にやったのは、Facebookのグループページを使った、スタッフ内の関係性の構築です。
例えば、故障したものを徹夜で直したよとあるスタッフがあげると、他のスタッフが、そんなことがあったんだと知ったり、お疲れ様って声をかけあったり。
営業所の拠点が4ヶ所に離れているので、めったに会うことのないスタッフがSNS上なら一緒にいるような感じになるんですよね。そういう社内のやり取りからSNS上のコミュニケーションを学んでいけばいいと思います。
−発信するネタがないと言う人もいるんですけどどうすればいいですか?
ネタは何か?って自分自身なんですよね。営業マンって自分を信頼してもらうことが一番大事なのであって、自分の好きはこれで、こんな行動してますよ、こんな人間ですよって知ってもらうことです。
お客さんに好きになってもらって、あなたから買いたいとなれるかが大事。
フジプレコンの松林でなくて、松林がいるからフジプレコンで買いたいってなれればいいですよね。
えらそうなことを言っていますが、僕も最初はFacebookで自分を出しきることができていませんでした。
世の中に注目されたくないとか、見られたくないとか、スタッフにも遠慮していた。
投稿が中途半端で、その中途半端さが逆にスタッフにはよく見えちゃってて、吹っ切れるまでには時間がかかりましたよね。
初めてスタッフに「 一緒に(SNSに)写らない?」って内心ドキドキしながら言ったことを覚えていますよ(笑)
そしたら、みんなニコニコして写ってくれたんです。
あー僕が勝手に嫌なんだろうなって思い込んでただけだったと思いました。なんだこんなことかって。
今ではスタッフのみんなが一緒になって写ってくれて、正直泣きそうです。
でも一番泣きそうなのは僕がいない時にも勝手にみんなが投稿をしてくれてるのを見た時ですかね。
SNSも名刺も、同じことで、結局自分に覚悟があるかないか、それだけなんです。
−企業として独自化していくためのポイントってどういうところですか
なんだろうな、、、周りを気にしないことが大事だと思います。
僕も昔は業界がこうだからとかの業界常識という鎖に縛られていた感じがありました。
でもちょっとだけ覚悟して、自分が楽しいこと、面白いことをやってみようという感覚になりました。
お客さんが喜ぶことを考えて行動してみようよってスタッフとも話しています。失敗したらやり方を変えればいいって。
−堅い業界の中でも楽しさは重要ですか?
はい、仕事が楽しくないと対価がお金だけになってしまいますからね。楽しさとお金の両方が必要だけど、20~30代中心の若い子たちには仕事の面白さを伝えるようにしています。小さい会社だからできること、ものづくりの面白さ、楽しさ、その喜びとかですね。
以前は部署ごとで仕事を進めていたので、みんなが同じ方向をむいていなかったんです。
今はお客さんを喜ばせるために何ができるかをテーマに、お互いが切磋琢磨しながらやる。
みんなが同じ方向を向いて、それを追い求めることが、楽しさにも繋がっていると思います。
うちには女性スタッフもいるのでね。コンクリート製の植木鉢とかも作ってみたり。大した事じゃないかもしれないけど、こういう楽しさも大事かなーって。
−これは失敗だったなってことはありますか?
結果的にはうまくいってるんだけど、全部先走ってたってことかな。気持ちだけが焦っちゃって。名刺にしてもFacebookにしても、土台を作らないうちに「やれ、やれ」と言って、やらないと「なんでやらないんだ」と。
でも自分でやってないんだからスタッフはやらないですよね。ちゃんと自分で勉強して、落とし込んで実践して、これいけるって思ってからでないとダメだなと思いました。
毎月変えてるプロフィール画像。とてもお堅い会社とは思えません(笑)
−スタッフとの接し方で普段意識していることはありますか?
僕が営業最前線にいた頃は傲慢な考えでいましたが、一営業マンとしてできることには限界がある。
だから、今は口を出さないようにしています。心配でも見守るようにしています。
−直近の経営課題は何ですか?
うーん、そうですね。仕事に波があることですね。役所に近い仕事なので、1年の仕事の〆が3月なんです。そのためには1月頃には仕事を終えなければならないんですよ。
7~8月は猛暑で危険だから仕事に出られないんです。こうした仕事の波が会社の中で少しでも少なくなるように市場拡大に努めていきたいです。
それと、まだどうなるかわからないんだけれど、インドの新幹線事業を日本がやっているんですがそれにうちも少し協力しています。
未知の世界ですが、日本が海外の鉄道の仕事を取って行く中で、どこかでお役に立ちたいという夢はありますね。
-商売で特に大事なことをあえて3つあげるとしたら ?
社是にもありますが、感謝と貢献、信頼ですかね。
感謝するということは、お客様はもちろんですけれど、世の中にもスタッフにも家族にも感謝することです。
貢献もそうです。信頼は、信頼があるから仕事がもらえるわけで。
信頼関係で買っているのであって、価格では買ってないというような流れになってきていると思います。
− 経営者になりたての頃の自分にアドバイスをするとしたら?
自分の心に素直になろう。
失敗を恐れずにやりたいことに挑戦しよう。
-なんか僕が頭柔らかくなった感じがします!コンクリートだっただけに(笑)
本日はありがとうございました!
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