起業するなら絶対におさえておきたい税金の全体像と資金繰りのこと
- 税金は大きなコスト。どのくらいかかるかを見積って、資金繰りを組み込む必要があります。
- 可能な範囲で上手に節税をする方法を知りましょう。
- 万が一払い忘れたときのペナルティと信用問題についても知っておきましょう。
会社員時代では、給与から自動的に税金は天引きされ、会社が代わりに納めてくれていました。
ですから、税金のことを特段しらなくても、問題なく過ごすことができたかもしれません。
しかし、起業したら、税金とは無縁ではいられません。
いつ、いくらぐらいかかるのでしょうか?
起業したらかかる税金には複数種類あり、納期も様々です。
起業すると、資金のコントロールを自ら行わなければなりません。
税金のことを知らずに経営をすると、思わぬときに、思わぬ税金を支払うことになり、資金繰りが脅かされるかもしれません。
知らなかったでは済まされない、それが税金です。
うっかりして支払い忘れたときには、ペナルティを受けるばかりか、会社の信用に傷がつきます。
滞納している状態で、金融機関から借入を受けることは難しいです。
また、滞納履歴があることで、融資審査に不利になることもあり、経営に与える影響が少なくありません。
税金の難しい計算は税理士に任せるにしても、どんなタイミングで、どの税金がいくらくらいかかるのかを、しっかりおさえておくことは経営をしていくうえで非常に重要です。
まずは、起業したら、どのような税金がかかってくるのか、全体像をみていきましょう。
前述したように、起業すれば必ず税金はかかってきます。
法人税や所得税など利益に対してかかるもの、消費税など取引に対してかかるもの、固定資産税など持っているものに対してかかるもの、給料を支払うとかかるものなど、複数の種類があります。
いずれも資金の流出を伴いますので、家賃や水道光熱費などと同じように、常にコストとして認識しておく必要があります。
経営するうえで、おさえておきたい税金を一覧表にまとめました。
法人・個人に係るものを含めて、ざっと15種類もあります。
利益に対してかかる法人税等(法人税・法人地方税・法人事業税・地方法人特別税・法人住民税を総称してこのように呼びます)や所得税等(住民税を含む)は、1年に1度決算をして利益を確定し、その利益に対して、決められた税率を掛けて税額を計算します。
申告書に記載して申告し、納めることになります。自分で計算をして申告をする、これを申告納税制度といいます。
では、どのくらいの税金がかかると見込んでおけばよいのでしょうか。
法人の場合、法人税等は、会社の利益(厳密にはぴったりと一致はしないのですが)に対して、ざっくり35%くらいだと見積るとよいでしょう。
たとえば、3月決算で、100万円の利益が見込める場合には、法人税等は35%の35万円ほどの法人税等となります。5月末までに約35万円の法人税等の支払いがあると見込んでおけばよいでしょう。
また、予定納税と呼ばれ、次の事業年度の半期の2か月後までに、前の事業年度の法人税等の半分を前払いする制度があることもお忘れなく。この例でいえば、次の事業年度の半期は9月となりますから、9月の2か月後の11月末には、17.5万円の法人税等の予定納税となります。
個人事業の場合は、所得税等については、所得税の税率が、所得によって5%~45%と異なります。
一概にどのくらい見ておくとよいという基準は設けにくいです。それでも敢えて基準を示すとすれば、住民税と併せて、最低でも利益の1割くらい、多くて3割くらいの納税額を見込んでおけばよいのではないかと思います。
消費税については、法人・個人事業共通となります。売上などで預かった消費税から、仕入や経費の支払で支払った消費税を差し引いた金額を納めるものになります。例えば、年間1,080万円の売上(うち預かった消費税が80万円)、756万円(うち支払った消費税が56万円)であれば、80万円から56万円を差し引いた24万円が納付する消費税額となります。
2019年10月に消費税率が8%から10%への引き上げが予定されています。消費税率が上がるということは、それだけ預かる消費税の金額も多くなり、納付する消費税額も増えます。8%から10%ですから、単純計算で1.25倍となります。
消費税についても、法人税等と同じように、予定納税制度があり、一定の額を超えれば、次の事業年度の半期の2か月後までに前の事業年度の消費税の半分、もしくは3か月ごとに4分の1ずつを支払うことがあります。
なお、消費税については、起業して1~2年目は免除される制度があります。
印紙税は、「契約書」「手形」「領収書」などの文書に課され、これらを作成した人が、定められた金額の収入印紙を文書に貼り付け、これに契印をして納付します。
固定資産税は、市町村から評価額と税額の明細と納付書が送られてきます。
償却資産税は、1月1日に所有している器具備品や機械などを市町村に申告し、その金額に応じて4月以降に納付書が送られてきます。
源泉所得税や住民税は、個人が負担するものを、会社が給与から天引きして預り、翌月10日までに納付するものであり、会社負担にはなりません。
起業時の税金はこちらもご覧ください。
起業時に知っておくべき税金に関するまとめ
上記の表の通り、税金にはたくさんの種類があり、納期も様々です。
例えば、3月決算法人の場合、4月末に固定資産税、5月末に法人税等と消費税、11月末に予定納税の法人税等と消費税(消費税額によっては、8月末や2月末にも消費税の支払いがある場合があります)、毎月10日に源泉所得税と住民税を納めることなります。
また、個人事業主の場合であっても、3月15日までに所得税、3月末までに消費税、4月に固定資産税、6月末に住民税、8月末に住民税と事業税、10月末に住民税、11月末に事業税、1月末に住民税と、ほぼ1年通して税金を支払うことになります。
このように、税金の納期は資金繰りに大きな影響を与えます。
法人税や所得税などを、納付期限までに納めなかった場合には、延滞税がかかります。納付期限から、納めるまでの間の利息のようなものです。
もし、申告書を期限までに出さず、納付すべき税金についても納めなかった場合には、無申告加算税が課される場合があります。この場合、のちに述べる青色申告の承認が取り消されることもあります。節税効果の大きい青色申告の特典が受けられなくなり、デメリットが大きくなります。
申告書は必ず期限までに提出し、税金も期限厳守で納めましょう。
税金が滞納状態にあるときは、融資を受けることも非常に難しくなります。信用力を高め、資金調達力をつけるためにも納め忘れは絶対に避けましょう。
源泉所得税を納め忘れた場合には、不納付加算税と延滞税が課されることとなります。1日でも遅れると課されますので、ご注意ください。
このように税金は、会社にとってコストであり、資金の流出にほかなりません。
どんな規模で経営をされているとしても、6カ月先~1年先までの資金繰りを見通すための資金繰り表の作成をおすすめしています。資金繰り表の「支出」の予定には、必ず税金の支払スケジュールをいれておきましょう。
ご自分ではわかりにくいようでしたら、税理士を活用しましょう。もし、税理士に申告書の作成を依頼されているのであれば、1年間の納税予定表を作成してもらい、それを資金繰り計画に組み込むとよいでしょう。
青色申告制度はご存知でしょうか?
一定のルールに従って、複式簿記で帳簿を作成し、それをもとに確定申告書を作成している場合には、青色申告制度の特典を受けられます。
青色申告の特典のおもなものは次の通りです。
・欠損金の繰越控除:(法人)赤字が出た場合、9年間赤字を繰り越して控除できます。
(個人)赤字出た場合、3年間赤字を繰り越して控除できます。
・欠損金の繰戻還付:赤字が出た場合、前年に支払った法人税を還付
・減価償却の特例:通常より多く経費に算入できる場合があります
・少額資産の即時損金算入:30万円未満(通常は10万円未満)の資産は全額損金に算入できる(1年間で300万円が限度となります)
・青色申告特別控除:(個人のみ)売上から経費を引いた金額から、さらに65万円の控除が受けられ、その分、所得税及び住民税が少なくなります。
青色申告でない白色申告であっても、帳簿をつける義務はあります。
いずれにしても帳簿をつけなければならないのであれば、青色申告制度を活用して、上手に節税し、無駄な税金を支払わない体制をつくりましょう。
青色申告制度を活用するには、「青色申告承認申請書」を会社設立届や開業届とともに提出するとよいでしょう。
なお、期限までに確定申告書を提出しなかった場合には、青色申告の承認の取消処分を受け、青色申告の特典を受けられなくなってしまう場合もありますので、ご注意ください。
青色申告のメリット・デメリットについてはこちらから
【まだ白色申告?】 青色申告のススメ〜メリット・デメリットまとめ〜
経費が多いと、利益が少なくなりますから、法人税や所得税など、利益にかかる税金は少なくなります。
だからといって、どんな領収書や支払でも経費にしてよいわけではありません。
当然ながら、事業に関係のないものについては、経費にできません。
こちらが事業に関係のあるものだと認識していても、税務調査があったときに、経費が事業に関係のあるものだと証明できなければ、支払うべき税金が増え、追徴課税を受けることがあります。
例えば、交際費であれば、どんな関係の方と、なにについて話をしたかなどのメモを残しておくなど、事業との関連性を明らかにする証拠を残す必要があります。
すごくおおざっぱな表現をすると、経費として認められるかどうかは、こちらの証拠をいかに残すかにかかっています。余計な税金を支払わなくて済むように、支払いの事実と事業への関連性を証拠として残しておくようにしましょう。
毎月決算をせず、決算のときに1年分の取引をまとめたら、かなりの黒字で、支払う法人税や所得税が多くて、たちまち資金繰りに行き詰まってしまった、というケースは少なくありません。
毎月の損益を明らかにしておき、どのくらい税金がかかるのか、予測をしておくことが有効です。少なくとも数か月に1度はどのくらいの法人税等や所得税が見込めるのかを見積り、別口座に納税資金として管理することができると、納税のときの資金を心配しなくて済みます。
また、消費税については、毎月預かった消費税と支払った消費税の差額を、別口座に移して消費税納税資金として、分けて管理されることをお勧め致します。
節税をすることは、経営をしていくうえで、税金というコストを削減する合理的な選択だと思います。
しかし、行き過ぎた節税によって資金繰りが行き詰まる例を多く見受けます。
例えば、利益が100万円でたとして、35%の法人税等を支払えば、手元に65万円キャッシュが残ります。一方で、法人税を支払うことを嫌がり、節税として、100万円を社内旅行や交際費などで使ってしまった場合、手元に残るキャッシュは0円です。これでは会社にお金を残すことはできません。
会社にお金を残すには、税金を支払ったうえで、残りのキャッシュを確実に会社に積み上げることが大原則です。
利益は、会社の将来の投資の原資であり、会社の危機に対する備えでもあります。簡単につぶれない強い会社を作るためにも、利益を出して、税金を支払い、残ったキャッシュを会社に積み上げていきましょう。そのように利益を積み上げてきた会社の歩みは、決算書にも残ります。詳述は避けますが、自己資本比率が増え、金融機関から見ても魅力的な会社に映り、資金調達のハードルも下がります。
過度な節税は会社を苦しめる元となります。税金を支払っても手元に利益を残し、資金調達にも強い、財務基盤のしっかりした会社づくりをしていきましょう。
ここまで見てきたように、起業したらかかる税金は、多岐にわたり、その計算も複雑です。
自分で勉強して計算するのもよいですが、起業家は1日も早く事業を軌道に乗せることが何よりも優先されます。いかに時間を有効に使うかがとても大切です。
使うべきところに時間を使うために、税理士などの専門家を上手に使いましょう。
顧問の税理士がいるのであれば、資金繰りも含めた税金対策について、積極的に相談しましょう。
顧問税理士がいないのであれば、行政などで実施している税理士の個別相談を利用することもよいですし、相談料を支払ってスポットで依頼することも有効です。
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サラリーマンを辞めて起業した場合には、辞めたあとに、住民税の納付書が自宅に届き、自分で納付しなければなりません。知らないでいると、住民税の納付書が届いたときに慌てなくてはなりません。いつ、いくらぐらいかかるのかを把握しておき、納付漏れのないようにしておきましょう。
個人にかかる住民税はどのように決まるのでしょうか。
話をわかりやすくするために、サラリーマンの場合を先に説明します。
サラリーマンであれば、年末に、会社が各人の1年間の給与をまとめ、年末調整をし、本人に源泉徴収票を発行します。そして、会社は、翌年1月末までに、会社員の勤務する市町村に、各人についていくらの給を支払ったかを報告します。(給与支払報告書という書類を出します。)
それを受けて、市町村は、各人の住民税を計算し、5月頃に勤務している会社に、会社員各人の「毎月の給与から天引きする住民税」を連絡します。
そして、住民税は、会社から支払われる給与から、住民税が天引きされます。
2018年度の給与にかかる住民税は、2019年6月支給の給与から、2020年5月支給の給与まで、1年にわたり天引きされることとなります。
このように、2019年(から2020年)に支払う住民税は、2018年の給与によって決まるのです。
もし、2018年12月支給の給与までもらって、退職をしたとします。
そうすると、2019年1月から5月の給与から天引きするはずだった住民税の納付書が、1月~2月に届くことになります。こちらは天引きできなくなった住民税で、当然のごとく自分で負担すべきものですから、自分の手持ちのお金から納付しなければなりません。
それだけでなく、2018年分の住民税は、会社を辞めたことによって、給与天引きができなくなりますから、2019年の5月頃に納付書が届きますので、こちらも自分で納めなければなりません。
起業したては、1円のお金だって惜しいもの。しかし、住民税は、以前の給与にかかる税金であり、支払う義務は確定しています。
起業する際は、住民税がかかることを計算しておきたいものです。
自宅に納付書が届いてびっくりしないために、ざっくり住民税を見積る方法を知っておきましょう。
例えば、2018年12月支給の給与までもらって、退職した場合。
2019年1月から5月の給与から天引きするはずだった住民税は、直近の給与明細の住民税欄にある金額に、残りの月数(この場合1~5月の5か月)を掛ければ計算できます。こちらが、退職後1~2か月後に納付書が送られてくる住民税の金額です。
2019年5月頃に納付書が送られてくる住民税は、2018年の給与にかかる住民税です。
2018年分の源泉徴収票をご覧ください。真ん中ほどの「給与所得控除後の金額」から、「所得控除後の額の合計額」を引いた金額のおよそ10%くらいが、だいたいの住民税の金額となります。ざっくりとした見積額であり、ぴったり一致はしませんが、このくらいの金額を見積っておき、納税資金の準備をしておきたいものです。
2019年5月に納付書が届く住民税は、年4回に分けて納付となります。滞納してしまうと、督促状が来ます。信用に傷がつかないよう、忘れずに支払いましょう。
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